【閑話】情報屋グラヴと鬼王グレイグ
ルーケイドが再びヴラー村を旅立ってから数日、頃合いを見計らったかのように一人の男が村に訪れていた。
男の名前はグラヴ、かつての戦いでルーケイドに敗北し王都の情報屋へと身をやつした龍人族である。
「まさか、この私がもう一度魔大陸の地を踏みしめようとは……」
グラヴにはトラウマがある。
エリートである龍人族として生を受けながらも、単純な力ではなくその慎重さに重きを置く性格が災いし、ずっと同族から孤立していたのだ。
この魔大陸での思い出など、何一つとして良い物はない。
「でも君は、そんな自分の想いを抑え込んででも僕の弟のためにここまで足を運んでくれた。弟に借りを返すついでなのかもしれないけど、その志は立派だよ。それはこのアマイモン家次期当主、鬼王グレイグ・アマイモンが保証しよう」
「鬼王の称号を持つあなたにそう言って頂けるならば、私としてもこれ以上の賛辞はない」
そう言うと二人は堅い握手を交わす。
「それで弟が向かったオルグス帝国の件なんだけど、その話は本当なのかい?」
「ああ、本当だとも。私が情報屋として活動し手に入れた奴らの筋書きと、ガイオン王国の賢姫が予想していた筋書きは完全に一致している。ここまでの事が全て偶然とは考えにくい。帝国の英雄、真魔王と名乗るガーラは魔族崇拝の長であり、現魔王ドラウグルからその魔王の座を奪う気でいる」
グラヴがこの村に訪れた真の理由はここにある。
元々魔族崇拝側の魔族だったグラヴは組織の内情を知っていた。
それ故にルーケイドに敗れその組織から足を洗ったあと、ヒト族らとの中立を保とうとする現魔王派につき情報を流していたのだ。
いや、もっと言うのならば、ルーケイド個人の味方についていたと言うべきだろうか。
ある時は賢姫ラルファレーナに恩を売りつつも情報を渡し、またある時は現魔王派の重鎮である吸血帝王に情報を渡す。
組織から自分の命を狙われながらも行動する綱渡りのような仕事であったが、それでなんとか勇者戦の時にも吸血帝王を応援に向かわせることが出来、ギリギリのところでルーケイドを救う事が出来ていた。
まさに彼は影の立役者であったのだ。
魔大陸に足を踏み入れたなかったのは単にトラウマがあるというよりも、追手を恐れてすぐには行動できなかったという点も大きい。
「そうか。それではもう一刻の猶予もないね。現魔王様が動き出す訳だ」
「現魔王の出陣にその他四天王の集結。……このことは既に、向こうにも伝わっているでしょう」
また、当然この報告を受けていた現魔王勢力も既に動き出していた。
グラヴとの距離もあり、詳しい情報を手に入れるまでにだいぶ時間が掛かったが、彼が情報屋として活動してからおよそ2年になる。
その間に収集した情報をまとめ、魔族崇拝本部の場所はおおよそのところ掴んでいた。
「しかしよりにもよって、ルーが向かった先がその本部とはね……。いくら強くなったと言ってもさすがに多勢に無勢。四天王クラスの魔族と魔王クラスの魔族が複数いると仮定するならば、やはり危険だ」
「そのために勇者というカードを賢姫はつけましたが、それでも怪しい所でしょう。なにせ向こうは、現魔王派を武力で落とせると確信しているからこそ強気なのですからね。現魔王派どころか、現魔王と互角程度の勇者では戦力にはなっても、決定打にはなりませんよ」
だからといって、いますぐルーケイドへの応援を向かわせる事もできない。
まず並みの人員ではダメだという点が一つと、現魔王派もそちらはそちらで勝手に動いているからだ。
何事にもそれぞれの予定がある。
しかしだからこそ、唯一動かせる魔族がいた。
「そこで僕の出番という訳かい、情報屋グラヴ」
「ええ、その通りです」
その魔族こそ、グレイグ・アマイモン。
アマイモン家次期当主である。
彼は血の繋がった兄弟という立場を持つ魔族であり、尚且つ現魔王派の肩を持つ四天王という括りに囚われていない。
せいぜいが村の防衛隊長程度の役割を担っているぐらいだろう。
だがそうはいっても実力の程は一騎当千。
既に当主であり四天王でもある父の力を越えつつある程なのだ。
応援に駆け付ける存在として、これ程相応しい人間もいないだろう。
「なるほど、事情は分かったよ。情報に感謝する」
「いえ。私はただ、私の目を覚ましてくれた彼に借りを返しただけですから」
そして二人は旅立つ。
この大きな闘いに決着をつける、その場所へ。
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【転生悪魔の最強勇者育成計画】が書籍化します。
それに伴い、カクヨムで連載を始めました。
カバーイラストは近況ノートにあります。
宜しくお願いします~!
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最強魔族転生!?~あらゆる死亡フラグを回避したら、異世界に転生した~ たまごかけキャンディー @zeririn
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