坂上支部ができるまで

亀馬つむり

第1話




室内には三人の人間が居る。書類を手にした中間管理職の男、活発そうなトレーニングウェアの女、気を付けの姿勢で微動だにしない制服姿の少年。


「君たちにはファルスハーツの拠点を突き止めてほしい」


ファルスハーツとはこの三人の属する組織、UGNと敵対する組織であり、自分たちの欲望に忠実な危険な組織である。


「任務了解です。突き止めた後は」

「あぁ。坂上君の好きにしたまえ。損耗は出すなよ」


女が質問しようしたのを遮って、しかし男は女の欲しかった一言を言い放つ。程度こそ違うものの、両者とも口角を上げる。少年はそれに気づこうともしない。


「では坂上此方・・・ほら」「・・・シュタイン」

「いってきます!」「いってきます」


女と少年はそれぞれ挨拶をして、調査へと出る。




それから。所々を調査した結果。


「普通のデパートじゃない?」

「普通の?」

「いや、こう、なんか・・・わかんない?」

「何が?」


此方はここが悪の組織の拠点が不思議だと伝えたかったのだが、シュタインにはそのニュアンスは伝わらない。仮に此方が丁寧に不思議さを説明できていたとしても、結局シュタインにそのニュアンスは伝わらない。シュタイン少年はそういう存在だった。


デパートに入ると、ちょうど土曜日であったからか沢山の人で賑わっている。それとはなしに眺める中、此方の目が留まる。


「お兄ちゃんこっちこっち」「わかったから引っ張んなって!」


シュタインは左手に違和感を感じて見やる。


「此方」


返事はない。


「此方、なにこれ」

「・・・・・・ん?」


此方は無意識にシュタインの手を握っていた。


「え、あぁ。ごめん」

「あれ」


此方の謝罪を半ば無視する形でシュタインが示した方向は、職員専用出入口の付近。そこに明らかに怪しい黒服と白いスーツを着た男が何やら密談をしている。


「あれってディ」「バレたら不味い」


白スーツの男はファルスハーツでも有名なエージェントで、UGNで教育を受ける者ならば誰でもその名前を教えられるほどの大物である。その名をうっかり呼び掛けた此方の口をシュタインは塞ぐ。その間に密談は終わったらしく、職員専用出入口へ消えていく。シュタインは此方の口から手を放す。


「確定だね。どうやってボコす?」

「・・・・・・夜、また来よっか」





デパートが終業した時間。デパート全体が見渡せる近くのビルの屋上。此方とシュタインの二人は双眼鏡で見張っている。


「電気点いてるとこあるね」

「狙撃?」

「却下。寝ている人に迷惑でしょ?」

「無音にできるけど?」

「じゃあ民間の人撃っちゃうかもしんないよ?」

「・・・・・・」


シュタインは少し機嫌を損ねながら、狙撃の準備をやめる。


「じゃあどう潜入するの」

「えーっと、あれだ!壁に撃って引っ掛けてスーーって行くやつ」

「あー。」


シュタインの両手の内に光が満ちる。待つこと十秒。拳銃のようなものが錬成される。


「これでしょ?」

「そうそう!え、これ引き金引いたらロープが出るの!?」


此方のハイテンション質問には答えず、錬成していた自分の分をデパートの屋上に狙いを付け、引き金を引いてロープが出るのを実演する。


「便利よね~、その能力」

「そうなの?」

「あたしが欲しいくらい!あたしもモルフェウスなんだけどなぁ」

「・・・・・・とっとと行こう」

「?うん」


シュタインが急に話を切ったのを不思議に思いつつ、デパートの屋上へ向かう。

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坂上支部ができるまで 亀馬つむり @unknown1009

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