第36話 やがて来るその時まで……
ようやくイフリートとの戦闘が終わり、マールはホッと肩をなでおろして、感想をこぼした。
「ようやく終わりましたね。最後はケルちゃんがいいとこ取りしてましたけど」
「ケルベロスがいなければ勝てなかったから、いいんじゃないかしら」
「それもそうですね。ケルちゃんには優秀賞をあげて、ダルちゃんとオルちゃんは敢闘賞ですね」
「お見事でした。陛下や私の支援だけで、イフリートを倒したのですから、貴女方もご自身を誇って下さい」
「ありがとうございます、クロースさん」
「ありがとう。貴女の支援も素晴らしかったわ」
「お褒めに頂き、光栄でございます」
そんな3人の元へ、マオが歩みよってくる。
「クリスとマールは、よく頑張ったな。クロースも手を出し過ぎず、上手い支援だった」
「はっ、恐悦至極にございます」
そんな4人の元へ、今度は戦いを終えた使い魔たちがやって来た。
「「ガウッ」」
オルトロスが吠えてアピールすると、それを見たマールは、主のクリスよりも先にオルトロスへと駆け寄った。
「オルちゃんは頑張りましたから、敢闘賞を上げます」
マールが両手を伸ばすと、オルトロスは伏せの体勢になって、頭を撫でられるのであった。
「「ハッハッハッ――」」
オルトロスは、舌を出して気持ちよさそうに尻尾を振りながら、マールのなすがままになっている。
それを見たダークウルフたちも、撫でてもらいたいのか、マールの周りに集まってきた。
「ワウッ」
「はいはい、ダルちゃんたちも頑張ったから敢闘賞ですよ」
「ハッハッハッ――」
ダークウルフたちも、オルトロスと変わらず尻尾を振りながら、マールに撫でられるのを順番待ちして、次々に撫でられていった。
その光景を見ていたケルベロスは、クリスに一言伝えるのである。
「これでは、どっちが主かわからんな」
「――!」
「それは仕方ないだろう。クリスは使い魔として接していたからな。その点、マールは仲間として接している。その違いだ」
「私だって……」
「クリスも撫でてくればいい。主に撫でられると、より一層喜ぶからな」
マオのアドバイスにより、クリスがウルフたちに近づいていくと、使い魔たちは返還されるのかと思い、クリスへ視線を向ける。
「……」
その様子を見ていたマールが、気を利かせて声をかける。
「さあ、クリスさんも、頑張ったダルちゃんとオルちゃんを撫でてあげて下さい。きっと喜びますよ」
クリスがダークウルフに、おずおずと手を伸ばしていくと、ダークウルフは、変わらずクリスを見続けていた。
やがて、クリスの手がそっと頭に触れると、優しく撫で始める。
「――ッ! ハッハッハッ――」
ダークウルフは、クリスに撫でられて、千切れんばかりの勢いで尻尾を振り出した。
その光景を見た他のダークウルフたちも、我先にとクリスの周りに集まるのである。
「ほら、私の時よりも喜んでいますよ。良かったですね、クリスさん。ダルちゃんたちも、ご主人様に撫でられて良かったですね」
「ワウッ!」
クリスは吹っ切れたのか、次々と周りに集まっていたダークウルフたちを、優しく撫でていく。
「「ガウッ」」
そんな中、オルトロスも例に漏れず、クリスへと催促をするのであった。その様子に、クリスは微笑みながら応えるのである。
「わかってるわ。あなたも頑張っていたものね」
クリスがオルトロスに歩み寄り、両手を伸ばして優しく撫でると、オルトロスは、嬉しそうに尻尾を振るのであった。
「ケルちゃんは、優秀賞なんですけど撫でてもいいですか?」
マールは、手持ち無沙汰になったのか、今度はケルベロスを撫でようと声をかける。
「我に対して、“ケルちゃん”なんて呼ぶのは、お主が初めてだぞ?」
「ケ、ケルちゃんは、喋れたのですか!?」
「我くらいになると、人語を話すことくらい容易いことだ」
「ケルちゃんは、凄いんですね! で、撫でてもいいですか?」
「……好きにせよ」
マールの撫でたいアピールに、ケルベロスは早くも白旗を上げて降参するのであった。
ケルベロスが、マールの手の届く高さまで体を小さくすると、それを見たマールが驚愕する。
「ケルちゃんは、大きさを変えられるのですか!? もう、何でもありですね!」
マールは、ケルベロスに近づくと、その頭を順番に撫で始めるのであった。
「モフモフですねぇ……」
それからしばらくして、使い魔たちがクリスによって返還されると、マオたちは、ようやく宝箱を開けて街へと戻るのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
街へと戻ったマオたちは、ギルドへの報告を行い、暑苦しかったダンジョン攻略も、これにて終わりを告げることになる。
「やっと暑苦しさから解放されますね」
「もう2度と行きたくないわ」
「それなら、しばらくは街で過ごしつつクエストで暇を潰すか」
「それがいいわね。ダンジョンばかりも飽きてしまうし」
「私はどちらでも構いませんよ」
「まだ攻略の終わっていないダンジョンがあるからな、焦る必要もないだろう」
「お楽しみはまだまだこれからです」
「マオが飽きないようにスケジュール調整しないと、すぐに終わってしまうわ」
「そうですね。まずは――」
マオの休暇を楽しむという目的のため、これからもなるべく飽きがこないようにと、冒険者生活を続けながら日々を過ごす計画を立てていく2人であった。
そんな2人の気遣いにマオは、休暇が終わるのはまだ先のことになりそうだと、期待に胸を膨らませる。
「まだまだ遊べそうだな……」
いつか来る終わりの時まで、人間社会を楽しめそうだと、まだ見ぬ世界へと想いを馳せるのであった。
そんな魔王様の遊びたいという願望は、これからも仲間たちの協力によって、時に楽しく、時に面白くと趣向を凝らしながら提供されていき、魔王様は遊びの時間を満喫するのである。
やがて来る終わりのその時まで……
魔王様だって遊びたい! 自由人 @Tasky
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