第35話 決着
マールとウルフ隊が、イフリートと戦闘を繰り広げている最中、マオの側に存在している扉から、クリスとケルベロスが出てきた。
「ん? どうだったのだ?」
扉からクリスたちが出てくるのに気づいたマオが、クリスへと問いかける。
「勝ったわ!」
そんなマオの問いかけに、クリスは満面の笑みで応えてみせた。そんなクリスの頭を撫でながら、マオは褒めてあげるのだった。
「よくやったな。マールも頑張って戦線を維持しているぞ。早く手伝ってくるといい」
「わかったわ。行くわよ、ケルベロス!」
「承知した」
「ケルベロスよ、イフリートと戦いやすいように、水属性を付与しておくぞ」
クリスとケルベロスが戦場へ向かおうとした最中、マオが声をかけてケルベロスに水属性を付与すると、その効果を受け取りながら、クリスたちは、マールの元へと駆けつけるのであった。
前線では、マールがクリスに気づいて、喜びを顕にしながら、声をかける。
「クリスさん、新しい仲間が増えたんですね。」
「そうよ。待たせてしまってごめんなさいね。」
「いえ、クロースさんが手伝ってくれていたので、何とか戦闘を維持できました」
クリスはその言葉に、クロースへと視線を向けると、クロースは軽く会釈をして、簡単に挨拶を済ませるのであった。
対するクリスも、今は戦闘中とあってか、会釈を返して戦況の把握に努めると、ケルベロスに指示を出した。
「ケルベロス、ウルフ隊とオルトロスを指揮しつつ、イフリートに攻撃を仕掛けて」
「《クイックフロウ》」
今まさに飛び出さんとしていたケルベロスに、クロースから魔法の支援が入る。
「何の魔法?」
「加速の魔法でございます。これにより、攻撃する際にいつもより手数が増えることでしょう」
クリスの疑問にクロースが答えると、ケルベロスは理解したのか颯爽と前線へと飛び出して行った。
そんな中、戦闘に余裕の出たクリスは、気になることをマールに尋ねた。
「ねぇ、マール。私がいなくなって、どれくらいの時間が経っていたの?」
「だいたい十数分といったところですよ。クリスさんのところはどうでした?」
「私は1時間近く戦っていた気がするわ」
「えぇっ!? そんなにですか!? やっぱりクロースさんは凄いですね!」
「いえいえ、私など陛下の足元にも及びませんよ」
「確かに、マオさんは別格ですからねぇ」
「そうね、マオは規格外だわ。簡単にケルベロスを喚び出すくらいだし」
「あぁ……ケルちゃんですね」
「……ケ……ケルちゃん?」
「はい、ケルベロスだからケルちゃんです。オルトロスはオルちゃんです。ダークウルフはダルちゃんですね」
「……」
クリスは、まさか自分の使い魔たちに、愛称を付けられているとは知らずに、呆然とするのであった。
マールが愛称のことを話しているとは、前線組は露知らず……
いや、耳がいいので聞こえている上に理解しているのだが、ダークウルフとオルトロスは、マールの醸し出すほんわかとした雰囲気を気に入っているので、特に気にした風でもなく戦いを続けていたが、ケルベロスは、まさか自分がケルちゃんと呼ばれる日が来るとは、露ほどにも思っておらず、動揺からか少し動きが鈍ってしまった。
その僅かな隙をイフリートは見逃さずに、火炎弾を叩き込むが、寸でのところで飛来した矢と相殺されて、ケルベロスは事なきを得る。
「ふぅ……危うくケルちゃんが、火傷をするところでしたね。間に合って良かったです」
「マール……あなた、何気に凄いことするわね」
「何がですか?」
「イフリートの火炎弾を矢で撃ち払ったのよ?」
「あぁ、あれは、フレビューさんに教えて貰ったんですよ。込める魔力が多ければ、矢の威力も増していくって」
「とにかく、助かったわ」
「いえいえ、細かい攻撃とかは防げないですけど、ああいったわかりやすいものなら、間に合えば対処出来そうですから」
その頃、前線では、ケルベロスが先程のミスを打ち消すかのように、猛威を奮って善戦を繰り広げていた。
ウルフ隊の波状攻撃にオルトロスも加わり、手一杯になっているイフリートの隙をついて、ケルベロスのウォーターボールが炸裂する。
マオの付与魔法によりダークボールの属性が、闇から水へと変化した結果だった。
三ツ頭それぞれが独立して、魔法を繰り出しているので、イフリートとしても対処の仕様がなかった。
一斉にしか打ち出せないのなら、避けるだけで話は済むが、それぞれが考えて行動するために、イフリートとしては、嫌なタイミングで魔法を放たれていて、回避したかと思えば、その先に魔法が飛んできて被弾するという状態に陥っていた。
イフリートの攻防も、ケルベロスの参戦によって長くは続かず、やがて防戦一方となる。
更には、マオによる水属性の付与や、クロースによる時間加速が、追い討ちをかけていた。
ただでさえ厄介なケルベロスに、水属性が付与されている上に、時間加速によって攻撃回数が増えているような、そんな錯覚に陥るのである。
そんな状態でイフリートが勝てるはずもなく、やがてケルベロスによって倒されるのである。
「そろそろ決着だな」
戦闘を後方から見ていたマオは、戦況が変わりつつある中、独り言ちていた。
最終的には、度々飛来するマールの矢を回避しようとして、注意をケルベロスから逸らしてしまったことが致命的となり、その隙をついたケルベロスに、ウォーターボールを無数に叩き込まれて、倒されることになった。
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