第34話 亜空間での戦闘
――亜空間内
「それでは始めるとしようか。好きに使い魔を喚ぶといい」
「使い魔は喚ばないわ。私自身の力で認めさせてあげる。あなた相手に、ダークウルフを喚んでも意味がないでしょ?」
「確かにな。それではお主が直接相手になるのか?」
「それしかなさそうだから」
そう言ってクリスは、魔杖ベルフを構える。イフリートの戦いの時から目覚めているので、再度起こすような真似はしなかった。
クリスが、魔力を緻密に練り上げて放出を始めると、ユラユラと可視化できるほどの魔力が、クリスの身体から出始めた。
「ほう……」
放出されている魔力は紅色を帯び始め、身体に纏うかのように凝縮されていく様を見て、ケルベロスは感嘆の声を上げる。見ただけで緻密な魔力コントロールが必要だと理解したのだ。
『ベルフ、出し惜しみなく魔力を消費していくから、フォローは任せたわ』
『りょーかい。ケルベロス相手に、1人でどこまでやれるか見物だね』
「《ブラッディアロー》!」
突如無数の矢がクリスの頭上に現れる。その数は100とまではいかないが、かなりの数が顕現されていた。
「ふむ。中々に壮大な光景だな」
ケルベロスが特に慌てた様子もなく、淡々と感想を漏らした次の瞬間、クリスの頭上に浮かぶ無数の矢が矢継ぎ早に放たれていく。
ただの魔物相手であれば、完全にオーバーキルな魔法を前に、ケルベロスの三つ首は大きく息を吸い込むと、一斉に咆哮した。
「《ハウリングロア》!」
たったそれだけで、矢継ぎ早に放たれていた矢はもちろんのこと、まだ待機中であった矢までもが、ケルベロスの咆哮に吹き飛ばされてしまった。
「もう終わりか?」
「まだまだぁーっ!《ブラッディスピア》!」
先程と同様に、今度は無数の槍が顕現される。
「二番煎じだな」
ケルベロスも先程と同様に咆哮で対応するが、それでもクリスは諦める様子もなく、剣、斧と種類を変えては攻撃を繰り返す。
「……何度同じことをしようとも我には効かぬぞ」
いい加減、同様の攻撃手段に辟易していた頃、ケルベロスを見据えたクリスが不敵に笑う。
「それはどうかしら?」
クリスの魔力が、より一層高まるのを感じたケルベロスは、先程の連続魔法に魔力を高める効果でもあるのかと、思考を巡らせてはみるが、真祖のことを知り尽くしているわけではないので、答えには辿り着かなかった。
「数多なる武具よ……盟約に基づき、我が血に集いて敵を穿て。顕現せよ!《ウエポンズ・ゲート》!」
次の瞬間、空間に歪みが生じると波紋となり、その中から1つ武器が現れようとしていた。
ケルベロスは先程考えていた予想は違うもので、実際は、己の中で最高の武器を召喚するための手順だったのかと、高を括って余裕の表情で眺めていたが、それが間違いであったとすぐに思い知ることになる。
その理由としては、武器は1つではなく次々と現れる波紋から顕現しているからだった。
なおかつ、先程までの魔力の塊を形状変化させているのではなく、どう見ても実体があるようにしか見えなかった。
「この武器たちは、先程のようにはいかないわよ。1つ1つが実体で、不滅の効果を持ち合わせているの。あなたが呑気に構えているだけで、攻撃してこなくて助かったわ。おかげで私は、私の使える魔法の中で、最高のものを発現することが出来たわ」
クリスの使える魔法の中で、最高峰のものを発現したのだが、以前のクリスでは発現したとしても、多大なる魔力の消費で、使った後に倒れるという諸刃の剣だった。
今回に限っては、魔杖ベルフが消費した魔力を随時回復させていったので、難なく発現することが出来た上に、魔力枯渇で倒れることもない。
「さぁ、数多の武器とともに踊りなさい。未だかつてこれを防ぎきったものはいないわよ」
「よかろう。ならばこの魔法を攻略し、我が防ぎきったその最初の1人目となってみせようぞ」
ケルベロスは有言実行と言わんばりに、次から次へと襲いかかってくる武器たちを、前足やしっぽ、咆哮や噛みつきなどで叩き落としていく。
「手緩いな」
「まだまだ終わりじゃないから安心して。嫌と思うほどの武器があなたを襲うわ」
ケルベロスは、淡々と武器を撃ち払っていくが、それでも数の暴力には勝てず、取りこぼした武器からの攻撃で、負傷する回数が目立ち始めていった。
本来なら、ケルベロスがここまで苦戦することはない。クリスのこの魔法は燃費が悪く、維持するためには魔力をどんどん送り続けていないといけないからだ。
今回、その問題点をベルフが解決した。クリスが魔力を送り続けても、送った先から回復していっているので、長い時間維持することが可能になっているのだ。
「さぁ、いつまでもつのか楽しみね」
魔力を送り続けているとは言っても、それ以外は何もしておらず、ただただ高みの見物となっていたクリスに、ベルフが語りかける。
『こりゃあ、クリスの勝ちだね。物量の差が圧倒的だ』
「油断は禁物よ。私にはベルフがいるから今の状態を維持できているわけで、ケルベロスが闇雲に突っ込んできたら対処の仕様が限られてくるわ」
『それもそうか。対処するには体技を駆使するか、今の魔法を解除して魔法で応戦するしかないしね』
「当然、私に体技なんて期待しないでね。負けるのがオチだから。でも、この魔法を防ぎきるって言ったから、私への直接攻撃はないと期待したいのだけれど」
『わかってるさ。低レベルなモンスターなら兎も角、ケルベロス相手にすることじゃないしね。まぁ、どっちにしろ闇雲に突っ込んで来ることはないよ。プライドもあるだろうから、自身で言った防ぎきるって言葉は曲げないと思うよ』
そんな会話をしていると、ケルベロスがとうとう捌ききれなくなったのか、先程よりも傷を負う回数が明らかに増えていた。
「……降参しよう」
不意にこぼれたその言葉に、クリスが聞き返す。
「降参するの?」
依然、魔法は解除しておらず、ケルベロスは無数の武器に対処しながらも言葉を続ける。
「このままではジリ貧だしな。防いでみたくはあったが、我の体力が無くなる方が先であろう。故に降参するのだ」
「わかったわ。勝負は私の勝ちね」
そう言ってクリスは魔法を解除する。無数に飛び交っていた武器は、光の粒子となって虚空へと消えていった。
「それじゃあ、戻るとしましょ」
クリスは入ってきたときと同様に、扉を開けて亜空間から出ていった。サイズを変えたケルベロスも、クリスの後に続くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます