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「退院おめでとう。桜井蛍くん」

 そういって、貝塚菜奈はずっと手に持っていた小さな花束を蛍に手渡した。「どうもありがとう。貝塚菜奈さん」そう言って、にっこりと笑って蛍はその花束を受け取った。

 それは赤い花と黄色い花の花束だった。


 世界は晴れ。風は弱く、シーツを揺らすくらい。屋上の床は真っ白で、雲はそんなに多くない。

 僕はいつものように、この場所にいて、そして、そんな僕の前には、いつもとは違って君がいた。

 貝塚菜奈さん。

 僕は、……あなたのことが大好きです。


 桜井蛍は、花束のお礼と言って、自分の持っていた(それは蛍の生きている証であり、蛍の宝物とも言える)大切な『天気予報日記』を菜奈にプレゼントすることにした。

 菜奈は最初、「そ、そんな大切なもの、受け取れないよ!?」と蛍に言った。(菜奈にはこのノートの大切さがちゃんとわかっているのだ。それだけでも蛍はすごく嬉しかった)

 でも、蛍がどうしてもこのノートを受け取ってほしい。記録は続けるけど、それは違うノートでやる。それに、この真っ白な天気予報日記はこれからつける日記とは、その意味合いが全然違う。だから、このノートは、それを知っている君に、菜奈にもらって欲しいんだ。と蛍は言った。

 すると、菜奈は最後には納得して、「こんな大切なものをどうもありがとう。ずっと大切にするね」と言って、蛍のノートを受け取ってくれた。(実際に菜奈はこのノートを生涯にわたって大切にした)

 それで、蛍の『今日の目標の半分』は達成された。

 なので、残されたもう半分の目標を達成するために、蛍はすぐに行動に出た。


 この病院の屋上は、菜奈が蛍を救ってされた場所だった。

 この場所で、二人で大きな空に向かって手を伸ばしているときに、菜奈は蛍に『生きて』と言った。だから蛍は『これからも自分はこの世界でちゃんと生きていこう』と思ったのだ。(そう思うことができたのだ)


「ほら、いつまでもこんなところにいると風邪ひいちゃうよ。下に戻って、みんなでおめでとうをしようよ。蛍くんの家族も先生も看護婦さんもきっと待ってるよ」蛍の手を引っ張って菜奈は言う。


 そんな菜奈に「ちょっと待って」と蛍は言った。

「どうしたの?」菜奈は言う。

「実はもう一つ、みんなのところに行く前に菜奈に言っておきたいことがあるんだ」と蛍は言った。

「私に伝えたいこと? それってなに?」と首をかしげて菜奈は言った。


 そんな子供っぽい菜奈に、桜井蛍はそのあとすぐに、自分の恋の告白をした。すると、菜奈は顔を真っ赤にして驚いた。「え? え?」と菜奈は言った。


 そんな菜奈にくすっと笑ってから蛍は「菜奈の返事は? もちろん断る返事でもいい。覚悟はできてる」と蛍は言った。


 そんな蛍に向かって、菜奈は(蛍は真剣な表情をしていたので、菜奈も次第に真剣な表情になった)告白の返事をした。


 世界には優しい風が吹いている。


 今日も、そしてたぶん、……二人の未来の明日にも。


 蛍の恋 終わり

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蛍の恋(旧) 雨世界 @amesekai

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