14
その日、自分が約一年ぶりに病院から退院をして自分の家に帰る日。桜井蛍はもう着なれてしまった病院の真っ白なパジャマのような服を脱ぎ捨て、久しぶりに自分の家から持ってきた自前の私服に着替えをしていた。(それは緑色のチェックのシャツにクリーム色のズボンという格好だった)
蛍は病院の屋上にいて、そこから空を見上げていた。
空を見て蛍がなにをしているのかというと、蛍は毎日の日課になった天体観測をしていたのだった。空を見て、その日の天気や風の強さ。そして明日の天気の予報や、その日に見えた色んな風景。(うっすらと見える白い星や月。飛んでいる自然の鳥や飛行機の様子などだ)そんな普通に生きていたら絶対にすぐに忘れてしまうような記憶をしっかりと今日も、蛍は自分の『天気予報日記』に鉛筆で記録をつけていた。
「よし」
記録が終わってノートを閉じる。
すると、ちょうどそれと同じタイミングで屋上のドアが開いた音がした。蛍が後ろを振り向くとそこには貝塚菜奈がいた。
菜奈は蛍の顔見るとすごく安心したような表情をした。でも、すぐに怒り顔に変わってしまった。菜奈は手に花束を持っている。それはきっと僕(蛍)の退院のお祝いのための花束だろう。そういえば、「お昼頃におめでとうを言いに来るね」と菜奈は言っていた。
蛍は腕時計で時刻を確認する。
時刻は十二時三十分だった。(約束どうりの時間だと、三十分、蛍は菜奈を待合室で待たせてしまった計算になる)
菜奈はそのまま頬を膨らませて、蛍の前までやってきた。
「病院内をいろいろと探したよ。おめでとうを言いに来るって約束したでしょ!? こんなところでなにやってるのよ、蛍くん!」と怒った口調で菜奈は言った。
蛍はそんな菜奈に「ごめん」と謝ってから「このノートの記録をつけてたんだ」と菜奈に言った。
「そのノートって、天気予報日記? 病院を退院してからも、ノートの記録続けるの?」と菜奈は言った。
「習慣になってるから、しばらくは続けると思う」と蛍は言った。
「そうなんだ」菜奈は言う。
それから菜奈はしげしげと蛍のことを見始めた。
「なに? どうかしたの?」蛍は言う。
すると菜奈は「ううん。蛍くんの私服姿、初めて見たから。新鮮だなと思って。黙って見ちゃった」と菜奈は言った。
「似合わない?」蛍は言う。
「そんなことない。全然。すごくよく、似合ってるよ!」と空の青さに負けないくらいに爽やかな笑顔で、貝塚菜奈は桜井に蛍にそう言った。
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