インタビュー編

ある日のインタビュー【Alice】

注)このお話は本編完結後にアリスが受けた雑誌インタビュー形式となっております。箸休めにどうぞ。

★本編はコチラ → https://kakuyomu.jp/works/1177354054888429940



   ※   ※   ※



 とあるホテルの一室で雑誌のインタビュアー(女性)とAliceが向かい合っている。雑誌カメラマンと柴山が同席している。



イ:では本日は雑誌にテレビにドラマに大活躍中のAliceさんにお話を伺います。どうぞよろしくお願い致します。


A:よろしくお願いします(ぺこりとお辞儀)


イ:Aliceさんと言えば雑誌『Emision』の専属モデルをはじめとして数々のCMに出演し大活躍されていますね。最近は初めてのドラマ撮影もあったと伺っています。どうでしたか?


A:はい。とても緊張していましたが凪――いえ小山内レイジくんが優しくリードしてくれたのでベストな演技ができたと思っています。


イ:かなり評判が良いみたいですよ。来年のドラマ放送がいまから楽しみですね。ところで小山内レイジさんと言えばCMでも共演されていますよね?


A:(来島のことだと気づく)あ、はい。清涼飲料水のCMでご一緒しました。


イ:どんな方だと思いましたか?


A:狂暴……いえクールで近寄りがたい印象です。


イ:どことなく怖い印象ということですね。でもドラマ現場では優しくリードしてくれたのですよね?


A:(困って柴山に視線を向ける)えーと双子、じゃなくて二面性、でもなくて……あ、二重人格なんですよ彼! 二重人格!!


イ:ほぅ……二重人格ですか。(意味深な視線)



 ――――ここで柴山のストップが入る。



(こそこそと打ち合わせ)

柴:おいおいなに言い出してるんだよアリス。

A:ごめんなさい。他になんて言えばいいのか分からなくて。凪人くんはレイジとして公に活動する気はないっていうし、来島くんのこと苦手なんです私。

柴:たしかにな、別人がひとつの芸名を名乗っているなんて前代未聞だ。ただ弱小事務所のウチは大手のMareに睨まれたくないから余計な波風は立たせたくない。なんとか上手く収めてくれ。

A:分かりました頑張ります。この仕事が終わったら凪人くんの家で秋の新作デザート食べる約束なので。



イ:それではインタビューを再開させていただきます。先ほどは予想外の発言でしたが?


A:申し訳ありません、私の言葉足らずでした。彼は二重人格どころか多重人格と呼べるほど様々な役柄を演じられるのです。最初のCM撮影で私がクールという印象を抱いたのは商品が清涼飲料水だったからだと思います。


イ:清涼飲料水だからクール?


A:はい。飲料水の気持ちになりきっていたんだと思います。


イ:な、なるほど。



(微妙な空気が流れる)



イ:えーでは改めましてアリスさんご自身のことをお聞かせください。アリスさんと言えば多くの男性との噂がありましたが、いまどうでしょう?


A:……はい。います。大好きな人が。(顔を赤らめつつ)


イ:もしかして既にお付き合いされているのでしょうか?


A:はい。(耳まで赤くなる)


イ:差し支えなければどういった方でしょうか?


A:同い年の男性です。随分前から顔は知っていて、長い間私が一方的に好意を寄せていたんです。高校の同級生として出会ったことで恋が実って、いまはすごく幸せです。


イ:そうですか。近頃のAliceさんを見ていると活き活きしていてとてもお綺麗ですものね。やはり恋人がいると違いますか?


A:はい。周りの景色の見え方がまるで違います。雲一つない青空が広がっているときや月がキレイに見える夜、あるいは買い物中に可愛い雑貨を見つけたときや面白い動画を目にしたとき、真っ先に彼の顔が浮かびます。彼ならどんな反応するだろう、一緒に笑ってくれるかな、プレゼントしたら喜んでくれるかなって考えるだけで幸せな気持ちになれます。


イ:どんなところが好きになったのですか?


A:顔です。(即答)


イ:一目ぼれですか?


A:はい。正面から見る顔もいいんですが横――特に斜め下からの横顔もいいんですよ。顎から耳にかけての絶妙なラインや睫毛の長さ、やわらかそうな耳たぶや大きすぎず小さすぎない耳の形も最高ですね。


イ:はぁ。


A:後ろ姿もいいんです。最近また背が伸びたので少し爪先立ちしないといけないんですが頑張れば旋毛つむじが見えます。お母さん譲りのやわらかそうな髪質で、時々寝癖がついているんです。すると「あーこういう角度で寝ちゃったんだな」ということが分かって大変に可愛らしいのですがじっくり観賞するために本人には黙っています。


イ:あの、Aliceさん。


A:でも私のオススメは指です。人差し指が長いんですよ。女性のようなキレイな指先でティースプーンをかき混ぜてくれたり私の髪を撫でてくれたりするんです。この前なんて壊れてしまった指輪が修理から戻ってきたので改めて私の指に嵌めてくれたんですが心臓が止まりそうになりました!


イ:……大変お幸せなんですね。(仏のような顔で)


A:はい。でも妙に恥ずかしがるときがあるんです。人前で腕を組もうとするとわざと離れるし、キス写真を待ち受けにしていいか聞いたら「だめだ」って大騒ぎ。そのくせふとしたタイミングで向こうからキスしてきて、この前なんて「抱きたい」って言うからその気になったのに結局リビングで熟睡したまま朝を迎えたんですよ。もう拍子抜け。気まぐれな猫みたいに構って欲しいときと嫌がるとき、オン・オフの見極めがとても難しいです。



(柴山、頭を抱えている。しかしそこはインタビュアー、慣れたものである)



イ:いいですねー。惚気のろけてますね。


A:……惚気? 私、惚気てました?


イ:恋人の悪口なんて惚気以外のなにものでもないですよ。ふふ。


A:そうか、私、惚気ているんですね。なんだかすみません、他の方に対してこんな気持ちになったことがなくて。置き物のように大事にされていると感じることはあったんですけど、結局私自身が受け身だったのかもしれませんね。


イ:いまの彼氏さんはどうだったんですか?


A:最初は私が追いかけまわしていました。そのうちに彼の方から追いかけて来てくれました。いまは突然キスされたり抱きしめられたりするんですけど、そういう意外性アクシデントを楽しんでいる自分もいます。


イ:またお惚気タイムですね。


A:失礼しました。


イ:いいえ。じつはお二人の目撃証言が結構あがってきているんですよ。たとえば長野の善光寺でお忍びデートをしましたね?


A:ぎくっ。


イ:先日は○○駅近くでのキスシーンが多くの方に目撃されています。


A:……あ。(しまったという顔)


イ:いま右手の薬指につけていらっしゃる黒猫の指輪、セレクトショップの店長によると「付き合っている」と証言があったそうです。


A:(無言で項垂れる)


イ:いいんですよ、お名前は敢えて聞きません。格好いいですもんね彼。


A:分かります?(前のめりになりながら)


イ:もちろん。僭越ながらのドラマの大ファンですからね。彼が再びテレビに戻ってきたと知ったときは歓喜したものですよ。


A:やっぱりやっぱりそうですよね! あんなに可愛い子がこんなに立派で格好良くなっているなんて詐欺! って思いましたよね。


イ:ええ詐欺です。まるで殺しキラーです。Aliceさんはやられてしまったんですね。


A:はい。一目でやられました。


イ:お察しします。けれど交際のことを知ったらファンの方々は困惑するかもしれませんね。あなたの方も彼の方も。きっとネットは大荒れですよ。


A:いいえ私たちの愛はだれにも邪魔させません。一生添い遂げる覚悟です。プロポーズだってされているんですから!


イ:頑張ってください! 応援しています。


A:ありがとうございます!


イ:本日はAliceさんにお話を伺いました。ありがとうございました。小山内レイジさんとお幸せに!


A:え?(インタビュアーを見る)


イ:え?(アリスを見る)


A:(小山内レイジってどっちの?)



 インタビュー内容は添削され、後日雑誌に掲載されて発売された。アリスが懸念した通り、Aliceと小山内レイジが付き合っていると匂わせる部分もある。



 ――後日。



 「ふざけんな巻き込まれるオレの身にもなれ!」と来島(現:小山内レイジ)から鳴られるアリスと凪人(巻き添え)であった。



 おしまい。



【作者より】

Twitterでマシュマロを投げますよね。あんな風にアリスがインタビューに答える形の話があれば面白いのでは、と書きました。

思いつきの掌編にお付き合いありがとうございました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【番外編】美少女モデルのAliceは今日も片想い せりざわ@ @seri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ