14話 私の幼馴染がこんなに健気なわけがない


「そんなッ・・・・・!!!」


美鈴は、それっきり言葉を失った。

そんな美鈴を、片岡はただ見つめるだけ。


「あれはいくら何でもひどすぎよッ、私が言ってきてやるわッ」


麗加がここまで熱を出すのも仕方がない。大切な親友の告白が、『やめろ』でかき消されたのだから。

麗加は隠れていた木の裏から出ようとする。でも・・・


「・・・ん?ちょっと待て麗加、もうちょっと見てようぜ?」

「何言ってるの!?もう見てられないわ!」

「いや待て!・・・片岡のヤツ、まだ言うことがありそうだぞ・・・!?」

「ッ・・・!!」



勢い立つ麗加を抑えた知人が見る先で、片岡はその重い口を開ける。



「なぁ美鈴、それはやめてくれ・・・」


「ッ・・・!!」




そして美鈴は、ついに膝から崩れ落ちる ―――




「ッ!?もう待てないわッ・・・!!私行ってくる!!」

「ま、待て麗加ッ・・!!」グイッ

「何で!?何で離してくれないの!?私は行かないといけないのよッ!?」


行くのを阻止するとはいえ、本来は学校一のスーパー美少女に対してこのように抱きつけることはラッキーなことかもしれない。しかし、今はそんなことは微塵も感じられなかった。

麗加がここで出ていくと、それこそ崩れてしまう気がするのだ。


そして片岡は、再び重々しい口を開く。





「・・・なぁ美鈴、美鈴は確か目標があったろ?小学校の時に言っていたじゃないか。」


「・・・え」


泣き崩れていた美鈴が、その言葉で顔をあげる。


「ほら、小学校の休み時間に教えてくれた美鈴の目標・・・いや、夢だな。あったろ?」


「ゆ、め?・・・・・ッ!!」





♢ ♢ ♢ ♢ ♢


それは、とある小学校の休み時間 ―――


「ねぇたけちゃん!!今日も家に遊びに来ない?」


「そうだなぁ・・・今日はちょっと宿題やらないといけないから、ごめんな美鈴。」


「えぇ~!?なんでよ!!宿題なんてちょっとの時間で出来るじゃん!」


「ま、まぁ美鈴は頭良いからできるかもね。でも俺はまだまだダメダメだ、だからやらないといけないの。」


「え、えぇ・・・」


「・・・そんなに落ち込むなって。俺も頭良くなりたいんだよ。最近ちょっとやりたいことがあるんだし、それに向けて勉強しないとなんだ。」


「・・・それホント?」


「当たり前だろ?まぁ俺にも夢が見えてきたんだ。だからその夢のために、俺は今日も勉強しないといけないんだ。だからゴメンな美鈴・・・また今度遊ぼうな!」


「ふ~ん・・・たけちゃん夢あるんだ・・・」


「・・・どうした美鈴?」


「同じだね!すずだって夢あるもん!!」


「おぉ、どんなの?」


「ふふ~ん!聞きたい~?」


「ははッ、言ってみてよ。」


「じゃあ言うね!すずの夢はね~・・・」


「・・すずの夢は?」


「すずもたけちゃんっみたいにた~っくさん勉強して頭良くなってそして将来すずが作った会社の社長さんになってね、そして ――――




♢ ♢ ♢ ♢ ♢



――― そしたら、たけちゃんと結婚する・・・」



「・・・あぁ、そうだったな。」





6年前のあんな小さな出来事を、片岡は鮮明に覚えていた。

小さい頃に言った大きすぎる美鈴の夢を、そこまではっきりと覚えていてくれたのか。


美鈴は、再び涙を流す ―――



「確かにたくさん勉強して頭も良くなって、高校生なのに会社と契約までして・・・でも、まだ夢は未完成だろ?」


「ッ・・・!!」


「まだ『美鈴の会社を作る』と『会社の社長になる』が残ってるぞ?まぁその二つって、二つで一つみたいなものだけどなぁ。」


「・・・それでさっき・・・!!」


「あぁ、やめろって言ったのはそれが理由なんだ。俺は融通が利かないのは相変わらずだろ?」


「じゃ、じゃあッ!!それってッ・・・!!!」


「あぁ、―――






「だから美鈴の夢が叶うまで、俺は美鈴の傍にいるからさ。早く叶えてくれよ、待ってるから。」






「うん・・・うんッ・・・!!!」



ここから台詞までは聞こえないけど、なんか抱き合ってるトコロを見ると何か成功したみたいだな。さて、俺は隣の人をなだめないと・・・、あれ?


「うぅッ・・・すずちゃん・・・すずちゃんッ!!!」グスッ


な、何で泣いてるんですかね・・・?


「そ、壮絶だわッ・・・あの二人にそんな出来事があったなんてッ・・・片岡くんなんて健気なのッ・・!!??まぁ片岡くんの夢は何なのか分からなかったけど・・・」グスグスッ


麗加はなぜか涙を流しながら、片耳に着けていたイヤホンを外していた。

え?いや、それって・・・


「おまッ、盗聴してたのかッ!?」



知人が発したその声が結構響いたらしく、それが原因で丘の二人にバレてしまった。



「「えッちょ、ぼっしー!?」」


驚き声まで同タイミング。

そしてこちらを見る美鈴の胸ポケットの隙間から、暗い中でも録音機のような機械がチラっと見えた。

あ~、やっぱり盗撮してたか・・・


「・・・あ~、二人ともマジお疲れな。まぁなんだかんだ成功したみたいで良かったわ。」


「おいッぼっしー、まさか聞いてたのか・・・!?」


「あー・・・それなんだがな・・・」


知人は『マジお疲れ』みたいな表情で、美鈴の胸ポケットを指差した。

美鈴は差された胸ポケットを見るなり、また急に顔を赤くし始めた。


「・・・いえ、すずちゃんたちのエピソード、しっかりと聞かせてもらったわッ・・・」ガサガサ


そして盗聴の犯人が奥の木々からお出ましだ。


「あ、明石さんッ・・・ホントにこれで聞いてたの・・・!!??」


「え、えぇ・・・片岡くん、すずちゃんの夢をかなえるために踏みとどまったトコロにはグッと来たわッ・・・!!健気ねッ・・・」グスッ


「ちょッ・・・//////」


そして片岡も顔を真っ赤っか。ちなみに知人はここまでするのかとドン引き中。


「これは録音してあるから、あとでじっくりと再生させてもらうわ。」


お、鬼だ・・・


「・・・さっきからあそこで騒がしいなと思ってたけど、そういうことだったのか・・・///」


恥ずかしがりながら、片岡はチラっと知人に目線を送る。


「・・・他には言わないでやるよ。さすがに可哀そうだしな。」


「あぁ、そうしてもらえると助かる・・・///(明石さんって、少し・・・だなぁ)」




かくして『告白祭り』イベントは、こちらもまぁ成功をおさめたのだった。


ちなみに後で麗加が録音していたのを聞いてみると、



「か、片岡・・・お前ッ・・・!!!」グスッ


「ッ!?そんな目で見るなぁ~!!!」






そして三日目の上田観光はあっという間に過ぎ、軽井沢修学旅行は幕を下ろした。

三日目の二人はというと、美鈴は二日目までのきょどきょどした反応が無くなり、部活の時のテンションで片岡と話している。

片岡はあれから麗加に『すずちゃんのやってることを近くで見れるよ?』という形でeスポーツ部勧誘を受け、入っている部活や入りたい部活が特になかったことから入部を決意した。よってeスポーツ部はこれで5人となった。


ちなみに昨日の告白祭り、片岡にアプローチをかけようとしていた女子生徒は、美鈴との会話が偶然聞こえ戦意喪失(したかはしらんがまぁ来なかった)。

結局片岡の元には美鈴意外一人も告白者は来なかったようだ。


だから帰りのバスで、



「なぁ、結局俺はリア充になれなかったぞ?どういうことだ?」


「俺が知るか。ってか誰かが告ってきても断るつもりだったろ?」


「まぁね、美鈴の約束あるし。」


「じゃあ何でリア充になりたいだの言ってたんだ?」


「それはだな・・・ほらッ、やっぱり告白くらい一度されてみたいお年頃だろ?」


「・・・要するに片岡は、告白されてリア充気分に浸りたかったってこと?」


「あぁ、もちろん!」


「お、お前鬼だな・・・」






そして修学旅行が終わった先にあるのは、みんな大好き期末試験。

・・・いや、ウソついた。みんな大っ嫌い!!な期末試験。『あんたなんて嫌いよッ!!』レベルで嫌われる期末試験である。


まぁ案の定勉強なんてしてない知人は、帰ってきてからの約1週間ずっと勉強という地獄の日々を味わったのであった。

え、第2章終わり?早く終われよ。試験勉強まで言わなくていいわ。







第2章 終

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