13話 ガールフレンド(希望)


そして夜は明け、今日は決戦の3日目、の朝。

今日の戦場は春楡の木で彩った観光地・『ハルニレテラス』。


「すずちゃん!今日は攻めるつもりで行きなさいよ!?じゃないと片岡くん取られちゃうからね!?」コソコソ

「う、うん・・・!!」コソコソ


って、さすがに知人と片岡の前で堂々とコショコショ話はやめようぜ・・・


「ふ、二人ともどうしたの・・・?」


ほらやっぱり聞いてきたよ


「えッ!?い、いやッ・・・何でもないよたかちゃん・・・!!」

「そ、そうよ片岡くん、何でもないわッ・・・」


という風にあからさまにキョドる二人。しかもそのキョドリ方が尋常じゃない。

いや二人ともそこまで震えることないだろ・・・


「ま、まぁ片岡。あいつらちょっと寝不足みたいで目にクマが出来てるんじゃないか?だからあんなf ―――

「出来てないわよッ!!」ボコッ

「出来てないよッ!!」ボカッ


なんと鋭いつっこみ(と一発たち)が知人の急所たちにさく裂。

せ、せっかくフォローしてやったのに・・・・!?


「あはは!さすがぼっしー、デリカシーの欠片もないね。まぁそれこそぼっしーだよね。」


「るっせ・・・・・いてぇ」



そんなわけで3日目もスタートしたわけだが、ここで麗加考案の作戦とやらをここで説明しよう。

ここ『ハルニレテラス』は食事処や雑貨屋など、多くのジャンルがそろう場所であり、全体が春楡の木を使っているので落ち着いた感じがする空間だ。この場所に降り立てば、リラックス気分で過ごせることは疑いようのない。


そ・れ・で・だ。この落ち着いた雰囲気のまま二人が過ごせれば・・・落ち着きついでについ片岡の心が緩んで、もしかしたら『俺も、実はお前のことが・・・!!』というとてもふざけた展開に転がってくれる・・・!?

というのは嘘で、実際はこの場所で長時間いるうちに昨日のような感じになるのではないかと思っているのだ。幸いここには美鈴が興味を持ちそうなものはいくらでも存在する。それをうまく利用しようというのが本日の流れである。


「というわけで、早速本編行きましょー」




ということで現在は美鈴と片岡の二人っきり、場所はもちろんハルニレテラス・・・の中の食事処の中だ。

一応“”と連絡が取れるように、美鈴はちょくちょくスマホのライン・・・ではなく、ORE内のチャットを見ている。でも少し見過ぎなような気もするが・・・


「・・・」ジー


「・・・美鈴、スマホになにかあるのか?結構見ているようだけど・・・」


ほら、やっぱり言われたじゃん


「なななんでもないよッ!それよりも早くご飯来ないかなッ!」アセアセ


「あぁ、そういえば美鈴は今度もオムライスか?やっぱ好きだったもんな。まぁ俺もオムライス好きだから、気持ちは分かるけど。」


「そ、そうなんだ・・・(知ってるけどね)。」


そうしてそんな二人を遠くの席から覗き見をする者が一人、その向かいでスマホゲームをする者も一人。


「いいじゃないいいじゃない・・・!!そこからもっといい感じに持っていくのよすずちゃん・・・!!!」


とあるカップル成立のために必死に覗き見をする学校一の美少女が、この世界の一体どこにいるだろうか。いるのなら是非ここに連れてきてほしいものだ。・・・いや、もし連れてきたとしても麗加ほどのおせっかい焼きにはかなわないだろう・・・なんて考えるゲーム中の飯田氏。


「・・・なぁ、そこまでの覗き見はちょっとヤバいんじゃないか?いろいろな意味で・・・」


普通にちらちら見る程度ならそこまで気にならないものだが、今の麗加の態勢というのはテーブル席の端によくある柵に隠れて向こうの様子を見るという、覗き見というよりもはや偵察というのに近いものなのだ。

しかしそれが原因で先程店員さんに少し変な眼で見られたことは、麗加には言わないでおこう。


「仕方ないじゃない。こうしないと見えないのよ?」


そしてあちらの状況に何か気づいたのか、麗加はすぐに左手のスマホに文字を打ち込み始めた。おそらくORE内のチャットだろう。そして麗加が送った内容は、同チャットに入っている知人のスマホから見ることが出来る。


『片岡くんの口にケチャップついてるわよ!すずちゃん拭ってあげなさい!!』


いきなりハードル高いなこれ・・・

チャットに気づいた美鈴の顔は、画面を見るなりすぐに真っ赤っかに。


「お、おい・・・これはきつくないか?」コソコソ


「今日は攻めるって言ったでしょ!?これくらいしないと片岡くん取られちゃうわ!」コソコソ


「え?片岡ってそこまで危ないのか?もしかして他に宛があったりするとか・・・」コソコソ


「その通りよッ!!昨日C組の女子生徒が片岡くんへのアプローチを練習していたのよ!?マズいわ・・・!!」コソコソ


あれ、盗み聞きですか?


「たまたま聞こえたから確かなものではないけれど・・・とにかく危ないわッ!」コソコソ


お、説明ありがとうございました。


「すずちゃん頑張ってッ・・・!!」コソコソ


改めて美鈴も色々大変だなぁと思う先では、その美鈴が恥ずかしがりながらも片岡の顔についたケチャップを手で拭いてあげていた。

が、頑張ったな美鈴・・・って、いや目の前でそこまで泣かれましても困るんですけど・・・


「よ、よくやったわッ・・・すずちゃん最高よッ!!」グスッ


麗加と美鈴は中学校の時の習い事で一緒になったことが始まりで、当時雰囲気がとても怖くて誰も近寄ろうとしなかった麗加に唯一寄り添ってくれたのが美鈴だった。それから麗加はツンデレしながらも美鈴を大切な友達として接してきているのだそうだ。

他人には社交辞令並みの接触だが、自分の大切なものに対しては自分のことはお構いなしで大切にする・・・

それがこの明石麗加であるのだ。麗加にとって美鈴は、かけがえのない大事な親友同然である。


「いや、お前は美鈴の母ちゃんかよ・・・」


・・・でもここまで行くとさすがに怖い





そうしてハルニレテラスのデートはまぁ成功?と言った感じで、4人はあの『告白祭り』を迎える。

実際は夕食後に高原で星空観測イベントだ。まぁ観測といってもただ高原に行って空見上げて『きれいだねー』とか言ってれば大丈夫という誰得?って感じのイベントである。


しかし過半数のヤツの場合は違う、この時間は『充実した夏休み』を賭けた重要な1時間・『ワンアワー・オブ・サマーデイズ』である。

この時間になると高原のあちらこちらで「君はあの星ほど輝いて見える」とか「僕にとって君は星さ」とか、ヤバいやつに至っては「今日は・・・月が、綺麗ですね・・・」と言ったまったく関係ないお月さままで持ち出すヤツが出てくる。

まぁそのセリフで出来たカップの殆どは夏休み辺りで解散するんだがなガハハハハハ!!!


しかし、普段なら嫉妬ファイヤー状態になる知人でさえも

とあるカップルだけは、確実にくっついて欲しいと少しばかり願っているのだった。


麗加はその時間になると、すぐに美鈴と片岡をあまり人が来ない丘の上に連れて行く。まぁそこには知人もいるわけだが。

そうしてやはりここも昼の時のように、二人きりになるように段々とフェードアウトしていく。(まぁ正確には裏の木の陰でこっそり見守るのだが。)


そして今、丘の上には片岡と美鈴の二人である。もちろんだが、ORE内のチャットは閉じている。



「・・・ここも星結構綺麗だなぁ美鈴。」


「・・・うん、そうだね。」


「・・・」


「・・・」


と、やっぱりこんな感じになり、告白の流れには持って行けなさそう・・・


しかし、



「ねぇたけちゃんッ・・・私、私ねッ・・・!!!」


急に場の空気が締まり出す。ついに告げるのか・・・

美鈴の、長年抱き続けた素の気持ちを・・・


『好き』を、伝えるのか ―――




「私ッ・・・私ね、ずっとたけちゃんが・・・」


「・・・」


「たけちゃんの、こと、が・・・!!!」


ついに告げる、美鈴の告白。

・・・しかし、何か違和感も感じるのだ。


(か、片岡・・・・・?)


そして、美鈴は



「たけちゃんのことがッ・・・!!」



想いを伝える ―――





しかし



「たけちゃんのことがずっとs ―――

「やめろッ!!!」







静かな丘の全域に響いたであろう、片岡が発した『やめろ』の一喝。






「頼む美鈴、やめてくれ・・・」









丘を包んでいたあの空気が、激しく割れるような気がした ―――



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