怪談・血吸五本蟲(ちすいごほんむし)
青葉台旭
1.夜鷹と浪人
【1】水路端の道(深夜)
満月が煌々と江戸の
水路沿いの道を、一人の浪人(名:
道の反対側から一人の若い女(名:お杉)がやって来る。巻いた
浪人(血沼蛭之介)と夜鷹(お杉)、柳の木の下で、すれ違う。血沼蛭之介、振り返って、
血沼蛭之介 「おい、女っ、おい、夜鷹っ!」
お杉、血沼の声に振り向く。
血沼 「近う寄れ」
お杉、相手の
お杉 「お武家さん、悪いが店じまいだ。今夜は
血沼 「これでもか?」
言いながら、血沼は懐から小判を一枚出して見せる。お杉の顔色が変わる。
お杉 「おや、まあ……そこまで言うんなら、しょうがない。ひとつお相手をして差し上げましょう」
お杉、血沼へ近づいていく。血沼もお杉へ近づく。柳の下で立ち止まって向かい合う二人。間近で女の顔を見た血沼、少し渋い顔をする。
血沼 「顔色が悪いな……お主、
お杉 「ちぇっ、なんだいっ、今さら
血沼 「まあ、そう
お杉 「は? あんた一体なにを……」
血沼の右手がスッと上がる。五本の指がお杉に向かって広げられる。何かを予感して不安になり、お杉、二歩、三歩、後ろへ下がる。突然、突き出された浪人の五本の指が、緑色の地に黄色い斑点模様の、五匹の大きな
血沼 「おお、美味いぞ、美味いぞ……夜鷹だろうが
蛭に
血沼 「女、美味かったぞ」
去ろうとする血沼。その後ろに、死んだはずのお杉が立ち上がる。
血沼 「何っ!」
血沼、振り返る。確かに血を抜かれたお杉の死体が地面に横たわっている。しかし、それとは別に、その
血沼 「ふっふっふ、恨みの一念が幽霊となって姿を現したか……その恨み、何に対してじゃ? 貴様を殺して血を吸い尽くした俺への恨みか? それとも、下賎のまま死んでしまった情けない自分自身の人生に対する恨みか? それとも、自分をそのような身分にした世間の非情に対してか?」
お杉の幽霊、何も言わず、ただ恐ろしい目で血沼をギロリと
血沼 「だが、残念よのう……俺は、血を吸った者の魂を、呪いの毒によって服従させ、自在に操ることが出来るのじゃ。
貴様の霊魂には、既に俺の毒が回っておる。それは、死んで幽霊になった後でも、有効じゃ。
貴様がどれ程の恨みを
血沼、柳の
血沼 「地縛霊! 貴様は、たった今から地縛霊になるのだ! その柳の下から動くことは許さん! 永遠に! これは貴様の血を吸った俺が、血を吸われて死んだ貴様に掛けた永遠の呪いじゃ!」
血沼、嫌らしいニヤニヤ笑いを顔に貼り付けて、柳の木から離れて行く。その後ろ姿を恨めしそうに凝視するお杉の幽霊。
怪談・血吸五本蟲(ちすいごほんむし) 青葉台旭 @aobadai_akira
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