第三話 不思議な箱


ときにこの洋館は、本当に不思議な場所だ。


まず、66つの部屋がある。3階建の建物が三つくっ付いてできている。

その部屋一つ一つを見ても不思議だ。

絵画の並ぶ部屋に壁一面が時計の部屋、トルソや胸から上などのパーツに分かれた石膏像の部屋、キッチンにはティーセットがいくつも並べてあり、800色の色鉛筆と大量の画用紙、古めかしい洋服と大量の生地、誰かが使っていたかのような鏡台、天蓋のついたベッドルーム、見たこともない文字の辞書や本が沢山並ぶ書斎、クローゼットにいっぱいのドレス、そして調度品の並ぶ厳しい部屋...まだまだある。


リリエッタは色々な部屋を見て廻っていたが、その中でも気に入ったものがあった。

沢山の調度品の中に埋もれていた、6つの宝石。

アメジスト、ローズクォーツ、アクアマリン、トルマリン、ヒスイ、コハク。

どうしてこの6つが一つの箱に収められていたのかは判らないが、とても魅力的なものだった。

「この宝石たち、まるで性格を持っているみたい」

時間を持て余した彼女は、毎日この部屋に来て、しげしげと宝石を見つめるようになった。

そして、

「このアメジストは、きっと今この時が好きなのね。優しくて、大人しくて、他の宝石をじっと見つめてる。」

だったり、

「ローズクォーツは人に好かれたいのよ。他の宝石を見ていたら光るの。」

だったり、

「こっちのトルマリンは知ったかぶりね。澄ましてるけど、本当は焦ってるわ。」

だったり、

「隣のアクアマリンはすごく臆病なの。トルマリンの知ったかぶりを分かってて、ボロが出るのを心配してるのよ。」

だったり、

「このヒスイはおしゃべりが好きね。こんにちはって言ってるのが分かってて、僕と話そうって言ってくるの。」

だったり、

「コハクは私をよく見ているのよ。じっと、きみのこと分かってるよって、口に出さずに言っているわ。」

だったり、

とにかく想像を膨らませ一人で遊んでいた。



そのうち彼女は、一つやってみたいことができた。

これだけ想像を膨らませられるこの宝石たちに、意志を持たせて会話してみたいと、そう思うようになったのだ。


「おばあ様から教わった、”イノリ”の魔法なら」


ルビーのティアラに願いを託して消えた彼女が最後に使った魔法がそれだ。

純粋な願いと救済を強く望む時、魔法はそれに応え力を分け与える。分け与えられる力、その力をどのように使うかは全て本人の器に任されるのだ。

本来ならリリエッタのような年頃の少女が使えるはずが無いが、暇を持て余したリリエッタにとっては”イノリ”の魔法への挑戦が一番の暇つぶしだった。


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ザーゲ山の物語 ミモザモチ @mochimochimimoza

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