第二話 霧の深い森
勢力争いの末、無実のリリエッタは大陸の外れ、ザーゲ山に封じ込められた。
まだ人間で言うと12歳程だったが、気丈な彼女は毎日を一人きりで過ごしていた。
「暇だわ」
ザーゲ山には彼女一人。
彼女はここから出られないし、ここに入ってくる人もいない。
透明で分厚い魔法の壁で、リリエッタとその他は区切られてしまっていた。
「...」
「お腹が空いた」
もちろん、人間の血液すら摂取できない。
亜人の血を呑み飽きていたあの頃を懐かしく思い出していた。
「お前が、血液に変わってくれれば良いんだけれど」
目の前のティアラを見つめ呟いた。
繊細な加工を施した純金に支えられたルビーは、さながらブロンドヘアのエルフを思い起こさせる。
長い巻き毛の間から覗く首筋に牙を...
そう考えるだけで、今にも翼を広げ獲物を探しに行きたくなる。
しかし、悲しいかな、
空腹になっても、彼女が死ぬことはない。少なくとも、この山の中に幽閉されている間は必ず生き続ける。
彼女の祖母が遺した祈りは、皮肉にも愛する孫を苦しめているのだった。
「汚い空」
窓から見えるのは深い緑と灰色の霧ばかり。
この霧、森の深さ、そして吸血鬼が囚われている、これだけの情報があるのだから、曰く付きの山だなんて言われないはずがない。山の洋館に追放された吸血鬼を閉じ込めているだなんて、いかにも民衆が誇張して話したがる内容だ。
それにしても憂鬱になる景色だなあ。ぼーっと見つめていると、そのまま落っこちていきそうだわ。いつ見ても代わり映えがなく、どうしてもそんな事しか思い浮かばない。
「もしあたしが死ねるなら、たぶんヒステリーでとっくに死んでるわ。」
そんな不謹慎なことを言ったとしても、もう窘める者は誰一人として居ない。
次第に彼女は外のことを考えることを辞め、一人遊びや魔法に没頭するようになっていった。
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