第7話 一回戦
「間もなく、一回戦が始まります。イスト校、ウェスト校。それぞれの選手は入場してください・・・。間もなく、・・・。」
場内アナウンスが流れ、選手たちが入場していく。5校によるトーナメントで3位決定戦は無いため全体を通しても3試合しかない。
とはいえ、優勝校の選手は王室からの特別褒賞として可能な限りで願いが叶えられるし、仮に負けても良い戦いだったと認められれば魔法騎士団へのスカウトもある。
故に誰もが選手に憧れ、選ばれた者はモチベーションも高い。
無論、ジェイもアイも・・・そしてエレナもである。
エレナ・ムラサメ。
ウェスト校2年の彼女は才色兼備を地で行くお嬢様である。
ムラサメ家はかつてヤマトから移民してきた一族であり、この地では多くの剣士を輩出した名門である。
移民したての数代前は魔法が苦手だった様だが、代を重ねて行くうちに順応したのか、はたまた混血が進んだ為かそれも解決していた。
ヤマトの風習故に男児を重んじる家系であったが、当代にて問題が起こった。
男の子が生まれなかったのである。
エレナは腹違いも含めれば10人姉妹の長女であり、父親も含めて家の者が諦めたために次代の当主となる事が決まっていた。
彼女は自分より強い者としか契りを結ばないと公言しており、その美貌ゆえに言い寄ってきた男は皆、彼女にコテンパンにされていたのだ。ほんの数日前までは。
数日前、代表発表の翌日。
彼女は自分と同じく代表に選ばれたジェイと代表の顔合わせで出会った。
初顔合わせの印象はあまり良くなかった。
ジェイが魔法を使えないことは学校の誰もが知っていて、そんなジェイが剣の腕だけで選ばれたのが気に食わなかった。
何より、エレナは魔法の天才であるアイに強い憧れを抱いていたから、その弟が魔法使いとしては箸にも棒にもかからない落ちこぼれだなんて認められなかったのだ。
だから初顔合わせのジェイに対して思い切り喧嘩を売った。
ジェイは最初買おうとしなかったが、アイが焚きつけ、更にそこにいた先生が面白そうだから試合をしようと言い出した。
そしてエレナはジェイに惨敗したのである。
ほんの一瞬で勝負は付いてしまった。
相対して剣を握り、初めと先生が言い終わった次の瞬間には喉元に木剣が突きつけられていた。
魔法の発声はさせて貰えないどころか、剣でも絶対に勝てないと解らされてしまった。
アイはそれを見てゲラゲラと笑っていたが、次の瞬間、それは憤怒にかわる。
大笑いするアイに気を取られたジェイの体を抱きしめ、エレナがジェイに口付けをしていたからだ。
エレナにしてみれば初めての敗北。悔しい筈なのに、それ以上にジェイを愛おしいと思ってしまったのだ。
気付けばアイにバインドの魔法で取り押さえられていたが、そんな事はどうでも良かった。憧れの対象は変わり、侮蔑していた者への愛情と化していた。自分が妻となるべき男を見つけた事に歓喜していた。
その後の記憶は無い。
アイに気絶させられたからだ。
兎も角、エレナはその一件以来ジェイにぞっこんであり、ジェイは初めて姉以外から向けられた異性からの好意を嬉しく思っていた。
エレナが現在狙っているのはジェイの第一夫人であり、今日は試合に勝ってジェイにアピールしようと考えていた。
恋は障害がある程燃え上がると言うが、アイと言う国でも最強クラスの障壁はその想いを高めるのに充分だったのである。
一回戦。先鋒戦が始まる。
相手はイースト校。金持ちのボンボンばかりが通う学校だ。
ジェイはこの日の為に師から剣を貰っていた。刃の部分には切れない様に魔法がかけられている。金属の棒でぶん殴るのには変わらないから防具は必須であるし、医療魔法班も舞台の近くに待機しているが。
「おやおや〜、そんな貧相な装備で僕と戦うつもりかい?貧民の考えは分からないよ。」
対戦相手のマッシュルームヘアの男がニヤニヤしながらジェイに話しかける。
「戦いに装備は大事だけど、それだけじゃ決まらないって師匠に言われててね。それを教えてやるよチ◯ポ頭。」
「チン◯頭だとお!?由緒正しいこの髪型を!ぶち殺すぞ貧民が!」
「(うわあ、煽りやすい。)やれるもんならやってみなよ。」
ジェイは構える。マッシュルームヘアも構え、試合が開始された。
ジェイは敢えて動かなかった。
頭に血が上った相手ならきっとそのまま突っ込んで来ると思ったからだ。
そしてそれは当たっていた。
マッシュルームはジェイに真っ直ぐ突っ込んで剣を振るったが、ジェイはそれを軽く受け止めるとかつて師にやられた様に思い切りその腹を蹴り飛ばした。
マッシュルームはそのまま場外まで吹っ飛ばされると白目を剥いて気絶した。
「勝者!ジェイ・カシマ!」
はっきり言ってエレガントさの欠片さえ無い勝ち方であったが、ジェイは無駄に体力を消費しない様にとマッシュルームヘアをさっさと倒す事に決めていた。
一眼で分かっていた。あいつは弱いと。イースト校の代表は金にものを言わせて装備でゴリ押す戦い方を好む。
それを事前に知っていたから、その性能が発揮できない戦い方を選んだ。
何故ならば、決勝戦で戦う事になる黒い翼の淑女、ウィータこそこの大会で1番厄介な相手だと思っていた。
(あの人、姉ちゃん並みに威圧感を感じた。平常でアレなら、きっと魔物の力を使ったらもっとヤバい。体力は温存しとかなきゃ。)
ウェスト校からの喝采とイースト校からのブーイングの中、ジェイは舞台を後にした。
「さて、私の番ですね。」
エレナが立ち上がる。
アイは忌々しげにエレナの背中を睨んでいる。
「お義姉さま。そんなに睨まないで下さいまし。いずれ貴女の義妹になるのですよ。」
「絶対に認めないわ。」
「ジェイさんはそうは思ってないかも知れませんわよ?」
「それでもよ。私は私より強くなきゃ認めない。だって、『そうじゃなければジェイには絶対に勝てないもの。』」
「・・・意味が分かりません。」
「知る必要のない事よ。あんたはいい子よ。だからこそ、ジェイはやめておきなさい。不幸にしかならないわ。」
「え?」
「あの子はね。私なんか比べ物にならない様な化け物よ。だから忘れなさい。いつそれが表に出るか分からないのだから。」
「それはどういう?」
「行きなさい。試合が始まるわ。」
それ以上、アイは喋らなかった。
試合はエレナの圧勝。
そしてウィータのいるセントラル校も勝ち残った。
故に、決勝戦の第一試合。ジェイはウィータと戦うこととなる。
キャラクター紹介
マッシュルームヘアの学生
貴族のボンボン
かませ
公然猥褻カット
青筋立てて怒るとアレにしか見えない
デスメタルを歌ったりはしない
魔法使いの国は優しくない ハバネロ @ryorityo4gou
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