大嫌いだった夏が大好きになるまで。

相夢夢名

第1話 幸せになりたい

私の愛犬が亡くなったのは三年前の夏。

白くてふわふわで大好きだったココちゃん。

その年の夏は何故か雨の日が多かった。


私の元彼氏は二年前の夏に音信不通になり、学校にも来なくなった。

今思えば、家も知らなかったし電話番号も知らなかった。そんな彼は今

芸能活動をしようとしているらしい。


私の友達は去年の夏から私を避けている。

メッセージも返ってこない。

あの子と遊んだ時、私何かしたっけ。気に障るようなことをしたんだろうか。

離れていく人を追うこともせず、ただただ理由を探していた。

しばらくしてあの子は「私の親友ちゃん」と書いてSNSに投稿していた。

(誰だろう、この隣にいる子。でも結局私と連絡を取らなくなってからもしっかり友達作ってたんだ。)


私は夏が嫌いだ。大っ嫌いだ。暑くてかゆくて、じめじめしてると思ったら喉の水分を全部持っていかれることもある。水筒は重いし服の汗染みだって気になる。それに、苦しい思い出しかないじゃないか。そう、思っていた。


今年の春、出会った男の子は清潔感溢れる雰囲気で、笑顔が可愛い人だった。

初めて二人で遊びに行った日、彼は色々な話をしてくれた。

好きなバンドのこと、この前行ったデパートに有名人が来ていたこと、

夏が嫌いだということ、オムライスよりラーメンが好きだということ。

私が気を遣い過ぎだということ、私が優しすぎるということ。


沢山話して沢山笑った夏だった。初めて夏が少し好きになれた。


その後も連絡を取り続けた。他愛もない会話と次はどこに行こうかという話。


秋になり、彼からの連絡は途絶えた。

不安が苦しさになり、苦しさが怒りになり、怒りが悲しみになってぽろぽろと

頬を濡らした。


それから約半年、学校で彼に会っても挨拶を交わすことはなく、

彼が友達と話しているのを見ると自分のことをからかっているように感じた。

しばらくして彼は学校で見かけなくなった。


ある日の事、街中で彼を見た、彼はティッシュ配りをしていて私には気づいていないようだった。進行方向を変え、見つかる前に避けようとした。


その瞬間私は今まで私から去っていった人達を思い出した。私は追わなかった。好きだった人には会いたいと言わなかった。友達とは喧嘩したことがなかった。何故私から離れたのか理由を想像するだけで相手の意見を聞こうとしなかった。


気付けば、彼の元へと進んでいた。

彼の前で立ち止まり「ティッシュ二つ下さい。それから頑張ってください。」と言った。

「ありがとうございます。」と言いながら彼は私を見て驚いた顔をした。

たったそれだけだったが私の中で何かが壊れ、心の中が広くなったように感じた。


それから三日後、彼からメッセージが届いた。

「話したい事があるから直接聞いてほしい。」という内容だった。

私は次の日、待ち合わせの場所へ向かった。


彼は今までの経緯をゆっくり説明した。

「僕にはずっと好きな人が居た。告白して付き合って、一か月も経たないうちに彼女は僕の親友と付き合うことになった。僕は二人を素直に応援できずに彼女へメッセージを送り続けた。二人が半年記念日だった日、そうとは知らず僕は彼女が誕生日だったことを思い出し、祝いのメッセージを送った。僕がメッセージを送った一分後、彼女は交通事故にあった。命に別状はなかったが、僕はその件があってから親友とは音信不通になり、僕の周りの友達も僕を避けるようになった。自業自得だと自分でも思ったよ。彼女もまた僕がストーカーだったと彼に言っていたらしい。そんな時に君と出会った。そして君が僕と真逆の性格をしていることに気づいた。控え目で優しい可愛い子だなと思ったよ。」


彼は涙ぐみながら続けた、

「君と遊びに行った日、君は見せたい写真があると言ったね。画面を見ながら君は赤のままの信号を渡ろうとした。その瞬間、全てがフラッシュバックして全身に冷や汗をかいた。君はあの時笑っていたけれど僕は心臓が止まるかと思ったんだ。そして同時にまた同じ思いをしたくないと思ってしまった。僕の友達が君のことを可愛いと言っていたのを知っているかい?僕は弱いから過去にすぐに負けてしまう人間だから君を幸せにできないと思ったんだよ。」


最初は緊張していた私の心も理由を聞いた瞬間に荷物が降りたように軽くなった。


「僕が君にしてしまったことは最低だと思っている。君に恨まれても仕方ない。謝っても足りない。でもやっぱり僕の気持ちを伝えたかった。僕は君に救われて、君と居ると心地よくて、君を好きだと感じるようになった。君が好きだ。」


私の目に涙が滲んだ。

久しぶりに流したうれし涙だった。温かかった。


私は。


「私は君が好き。君の笑顔が好き、君の言葉が好き、君の好きなバンドが好き、君の好きなラーメンの味が好き。君と過ごす季節が好き。」


この日から私は初めて自分に自信を持てるようになった。


何故今まで簡単に大切なものを手放してしまっていたのか、

何故私自身が私の心に寄り添うことをしなかったのか。


疑問や自分を責めるような言葉はいくらでも出てくるだろう。

でも、彼と出会って口に出すことがなくなった。

万が一、私が小さなことに不安になって自身を失いそうになっても

彼が引き戻してくれる、彼が励ましてくれる。彼が叱ってくれる。


大っ嫌いで苦しいだけだった夏が

大好きで甘酸っぱくてキラキラした季節に変わった。


そして、幸せな日々は今も続いている。



おしまい。

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大嫌いだった夏が大好きになるまで。 相夢夢名 @aimukayo

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