第4話 邂逅
夕方になり、屋台も店じまいを始めていた。
「もう初日も終わりだなー」
優が呟く。5月の学園祭は毎年2日間開催されるので、明日も当然開催される。
二人でメインストリートを帰っていると、人が集まっている一角があった。
「なんだ?」
様子を伺うと、屋台で学生が揉めているらしい。
「手前の奴らは学生委員会っぽいな」
確かに腕に腕章を付けているあたり、優の推測は正しいのだろう。
「おおかた、屋台の運動部が規則を破ったとか、そのあたりだろ」
無視して帰ろうとしたら、大きな音がした。取っ組み合いの喧嘩をし始めたらしい。
良い大学生が、子供っぽいことを…と思っていると、
「いい大学生が」
一瞬、自分の心の声が漏れたのかと思った。しかしその言葉の主は一人の女子学生だった。
姿を確認しようとすると、雷鳴のような頭痛が襲った。
「っ…」
頭がずきずきと痛む。キーンという耳鳴りに思わず蹲り、なんとか顔を上げると―
そこは、さっきまでの光景とは全く違っていて。
真っ白な空間が、そこに広がっていた。
おおかた、また白昼夢を見ているんだろう。
辺りをきょろきょろと見渡してみる。上下の間隔が分からなくなりそうな空間だ。
今回は二人の少女の姿は見えない。その代わり、目線の先には、
ヒトであって、ヒトでないものがこちらを伺っていた。
なんだ、あれ。
確かに人の形をしたものなのに、その輪郭が揺らいでいる。
まるで消えかけのデジタル画面みたいだ。夢の世界だから、あんなものがいるのか。
「あ、あの…」
異形のモノは周りの空間をひずませながら、こちらに向かってやってくる。
「うわあっ」
とりあえず逃げなければ、と直感し、あてもなくこの空間を走る。
こちらに気付いたのか、異形はものすごい速さで追ってくる。
異形に取り込まれればどうなるんだろう。死んでしまうんだろうか。
そんなことをぼんやりと考えている間に、顔のすぐそばまで手がのびてきた。
どうやって倒すんだよ、こいつ。
思わず振り返ると、今にも異形は飛びかかろうとしていて―
(やられる!)
そう思った刹那、突然異形の姿がはじけ飛んだ。
かつて一つの姿をなしていたモノが、無数の記号となって散らばっていく。
そしてそこから現れたのは、
銀色の銃を携えた、さっきの女子学生だだった。
「っ…」
眼と眼が合う。鋭い眼光にあてられて、僕はその場から動けなかった。
そのまま女の子は僕の方に真っ直ぐ飛び込んでくる。
「ええっ」
気が付くと僕は地面にぶっ倒れていて、その銀色の銃口を胸に突き付けられていた。
ふわり、と少女の前髪が揺れる。少女の右目は黒い布で覆われていた。そして、僕が情報研究会のブースで体験したようなインカムを身に着け、さながらどこかのオペレーターのようだ。
「…」
「…」
沈黙。
数秒間そうしていると、女子学生は銀の銃口を下す。
「…ちっ」
え、舌打ち…。
「あの、助けていただいてどうもありがとうございました…」
とりあえずお礼を言う。
女子学生は無言で僕の方をじっと観察している。その瞳からは彼女の感情は全く読み取れない。
それにしても、最近はよく白昼夢に他人が入り込む。この間の赤髪の少女といい、何かの予兆なのだろうか。そんなことを考えている間に、少女はこちらの方に近づいて、
今度は、僕の額に、銃口を突き付けた。
「は!?」
どういうことですか、そう聞く間もなく、意識は途切れていった―
daydream syndrome みかん @mikan7
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