変は異なもの味なもの

@kinako_moti

第1話 日々は奇だものアレだもの

梅雨の曇天の元、放課後の生徒たちの声で賑わう学校を出てしばらく歩き、俺、東雲湊しののめ みなとは我が家への前に立っていた。


変人。


そう聞いて君はなにを思い浮かべるだろうか。


身近にいる人を浮かべる人、自分自身が浮かぶ人、


2時50分に発狂するおじさんを思い浮かべる人もいるかもしれない。


俺には約3名、具体的に顔と名前が思い浮かぶ人間がいる。


恐らく君たちが思い浮かべる変人とは格が違う変人だ。


そんなヤツらがこの家には集っている。


格が違うは言い過ぎだって?


いや、本当に格が違うからね?


現に今、家の中から何やらエンジン音と刃が回転するような音がしていた。


うんざりしながらドアを開ける。


とそこにはピンク色の入ったショートの髪、クリクリとした目で快活という言葉がよく似合う見た目の幼児体型の少女が勇ましくチェーンソーを掲げていた。


いや、なにを伐採するつもりだよ。


「おー、ミナト!おかえり!」


「おう、ただいま。じゃないわ!何やってんのお前!?どこの業者さんですか!?これからこの家を解体でもすんの!?」


「はははっ解体なんかするわけないじゃん!ミナトは面白いボケをするなー。今からウナギを捌くんだよ。」


そういってチェーンソーを猛らせる。


どこの世にそんなでっかい刃物で捌くようなウナギがいるんだよ。


「いいから一旦落ち着いてそのチェーンソーを置け!おい!壁削れてる!壁に日常生活で絶対つかないレベルの傷ついてるから!」


そう言われて、少女は渋々チェーンソーを止めて玄関に放り投げる。


あぶねぇな。


そして少し拗ねたような表情でさっさと居間へと入っていく。


俺はそれに続いて居間に入る。


すると綺麗な黒髪のボブヘアーに適度なタレ目のおっとりとした可愛らしい少女がこちらに気づく。


「あら、湊さん、おかえりなさい!ご飯にします?お米にします?それとも、ラ・イ・ス?」


「ただいま、それ全部同じだからな。」


「あれ?そうなんですか?たしかにそうですね。でもエッチなお嫁さんはみんなこう言うってお言われたのですが…。」


少女は困った顔でこちらを見てくる。あかん、100%だまされてる。


てかお嫁さんとかいうな。かわいいだろ。


俺がちゃぶ台の横の座布団に座ると


居間から繋がるキッチンから茶色の髪をロングにしたキレ目の少女がスマホを片手に入ってくる。


「おーい、まずはウナギを氷で仮死状態にするらしーぞー。って、湊か、おかえり。ご飯にする?おこm」


「もうそのネタはさっきやったから。」


犯人はお前か。


「とりあえず座れ。状況説明してもらう。」


そういってちゃぶ台の周りに3人ともを座らせる。


この3人の美少女は誰かって?


まあ落ち着きたまえ、今から紹介するから。


1人目のピンク髪の幼児体型の少女は花形紫はながた むらさき、世界的大企業、花形グループの会長の孫にあたる、言ってみれば超がつく金持ちだ。


そのため、って言ったら世の中のお金持ちに失礼なくらい常識を知らず、自分のやっていることを正しい信じて突き進むタイプ。


やだなにそれ、かっこいい。


紫なのにピンク髪ってなんやねん。


2人目のおっとりした少女は四ノ宮三子しのみや みこ、みんなからミコと呼ばれている。


よく言えば純粋、悪くいえばバカで、人に言われたことをなんでも信じるし、人を疑わない。


ほんと、どうやって今まで生きてきたんだか。


四ノ宮で三ってなんだよ。三と付いているが一人っ子。


どっかの将棋のすごい人かよってくらい漢数字並んでんな。親テキトーすぎだろ。


3人目のキレ目の少女は咲夜楓さくや かえで、この3人の中で唯一、常識というものを知っている少女。


知っているだけだけど。


知識は知っていると使えるは違うからな。それは常識も同じ。


常識よりも面白さを優先する、1番タチの悪いタイプだ。


さらに花形グループほどではないが有名企業の社長令嬢。


これほどまでに令嬢って言葉が似合わない人間はなかなかいない。


どっちが名前かわからない姓をしている。


やべ、英語風に言ったら咲夜が名前かと思っちゃうわ。


ちなみに3人とも美少女と呼ばれる部類に入る。


ちなみに俺の推しはミコだ。なぜって、実害が少ないから。


しかし一緒に住んでいてもなにも嬉しくない。


なんで家族でもない4人が一緒に暮らしてるかだって?


まてまて、説明するから。


変人部。


なんだそれ。と思った人。正解です。


もちろんそんな部活作ろうとしたら学園側は普通反対する。てかされた。


だが、ここにいるこの部活の創立者、花形紫の実家からの圧力と大量の寄付によって、学園はなにも言えなくなり、部活を認めた、という訳だ。


金と権力が物を言う大人の世界をこんな生々しく感じたのははじめてだったね。


そしてこの家も花形グループから変人部に寄付されたもの。


そしてこの家を使って我々変人部は毎日合宿という名目で一緒に暮らしている。


何目的の合宿だよ。


天下の花形さん孫娘甘やかしすぎじゃない?


そしてそんな変人達の中にぶち込まれた唯一常識人。


それが俺。


いや、常識人ってのは少し言い過ぎかもしれないがこんなやつらと比べられたら、ねぇ。


まぁ、詳しい話はまた別の機会に。


うらやましいなんて言うやつが居たら変わってほしいくらいだね。


3人を見回しながら引つる顔を無理やり笑顔にしながら言う。


「で、どうしてこうなった。」


慣れてるなって?


そりゃ、こんなやばいメンツが住んでいるような場所に入れられてから2ヶ月も経ったからな。人間の適応力ってすげー。


さて、読んでくださってる方との楽しい会話はこれくらいにして、あいつらの相手をするか。


ハイハイと紫が手を上げる。


学校か。


紫の幼児体型もあいまって小学生が授業中に当ててもらおうと必死になっているようである。


当てると紫はなぜか立ち上がる。


もう1回言わせてくれ。


学校か。


「さっきも言ったけどウナギを捌こうとしただけ!ミコがうなぎパイ食べたいって言い出したから。」


予想の斜め上を行くすごい返答が帰ってきた。


「あの静岡の!?お土産で有名な!?」


おいしいよなー、あれ。ウナギどこって思うけど。


「はい、昔食べたんですけど、とっても美味しかったのを思い出して。食べたいなーっと。」


ミコがニッコリとしながら答える。


なにこの子かわいい。


食べたいなーじゃねぇ。少なくともそれを作ろうとするのはおかしいだろ。


「あのうなぎパイには身の部分は一切入ってないんだぞ!?うなぎエキスだけ!しかも味の殆どは蒲焼のタレ!それにあれ包み焼きの方のパイじゃないし。」


このていどの情報量についてこれないのか紫はしばらく腕を組んで言葉を反復した後ポン、と手を打つ。


「そーだったのか!だからってウナギ捌こうとしただけで怒るのはおかしくなーい?おかしくなくなくなーい?」


なにその言い方すっごいうざい☆


紫が不満そうにほっぺたを膨らませながらブーブー言っている。


「お前、あれのどこがおかしかったのかわからないのか。。。楓、言ってみろ。」


「ウナギを捌くのにはチェーンソーなんか使わない。だろ?」


だろ☆じゃねぇよ。


ちょっとドキッとしたじゃねぇか。


「知ってるならなんで、なんて言っても無駄か。」


そう、この少女は面白いということを優先する。なによりも。常識を分かっていても紫を放ってほいたほうが楽しいことが起こる、と考えたらそんなもの無視する。


しかもその度合いが半端じゃない。


自分に不都合が起きるようなことでも少しくらいなら面白いでスルーする。


「知ってる!豚の耳に小判ってやつだろ!」


と紫が嬉しそうに飛び跳ねながら言う。


色々混ざりすぎ。豚さんを軽々しく虐待すんな。


あとお前が言うな。


「でもチェーンソーじゃなかったらどーやって捌くんだよ!バカ?」


紫こいつにだけは言われたくねぇ。


「包丁があるだろうが包丁が。それとも包丁の存在を忘れたか?」


「んなもん効くわけないじゃん!ミコが言うにはウナギって大蛇の如く手足がないのにヌルヌルした液体を出すんだろ!包丁で戦うとか無理だって!アサシンでもなければ!」


手足がなくてヌルヌルした液体を出す。たしかに間違ってない。


ん、まてよ?大蛇?大蛇って…。あの?


神話とかで自分の尻尾食べてたり、寝てるとこ腹割かれたり結構不遇なアレ?


ミコがそんなこと言うなんて珍しいな。また誰かに騙されたのか。


「え?なにか間違ってましたか??そう聞いたんですけど。。」


やっぱりか。


「なにか間違ってましたか?楓さん??」


ミコはあわてて情報源に確認をとる。かわいいなぁ。


てかやっぱりお前か。


こんなに純粋なかわいい子を騙すなんて。


お兄ちゃん許さないぞ。同い年だけど。


楓の方を睨むと楓はヤレヤレといった風なポーズをしている。


「とりあえずその伸びきった鼻の下をなんとかしたまえ。まぁ、情報というものは世界に溢れすぎていてね、もちろん嘘もある。それを取捨選択する必要があるんだよ。メディア・リテラシーと言うやつだね。それをこの子が怠ったまでだな。」


友人からの言葉にそんなもの求められたくないわ。


まぁ、こんなあからさまなのに引っかかる方も引っかかる方だけど。


「何自分がわるくないみたいに言ってんだよ諸悪の根源。」


またこの程度の情報量についてこれていない紫が少し考えたあと立ち上がって楓を指さす。


「な、カエデに騙されてたのか!どうりで、おかしいと思ったんだよな!ウナギ美味しいし、そんなデカくないし。」


紫がやっと気づく。いや、おかしいと思ってたならもっと早く気付けよ。


「どうしてくれようか、なぁ?紫。」


そう言って紫を見ると紫もとても悪そうな顔をしていた。


「ぐへへ、姉ちゃん。まずは脱いでもらおうか。」


なに!?紫、なにをさせるつもりなんだ。


「おっと、紫様。靴下だけ残させるのはどうでしょう。」


いや、調子乗っただけだからね?


そういう趣味とか言うわけじゃないからね?


俺の趣味はミコだから。


「なるほど、それは恥ずかしいな。。。お主も悪よのぉ。」


そう言って紫もノリノリだ。悪代官様怖い。


「いやー、うなぎの話をしていたらお腹が空いてきたなー。そろそろ夕飯時じゃないか?」


完全に俺と紫に責められる状況だとわかったからか、楓があからさまに誤魔化しに入る。


いや、逃がさねぇよ?


「そうですねー、わたしもお腹すいてきました。」


えーミコさんそれ乗っちゃうのー。


「たしかに、アタシもお腹空いてきてたんだよねー。」


紫、お前もか。ブルータスに裏切られたカエサルの気持ちがよくわかったね。


まぁ、代官様あっちだったけど。


「ああ、湊くん、ミコくん、ウナギはキッチンで人数分仮死状態にしてある、蒲焼のタレと網もあるからあとはよろしく頼むよ。あ、塗ってから焼くのは1回じゃなくて何回か繰り返してくれたまえ、そっちの方が味が染みておいしい。」


こいつ、反省どころか注文まで付けてきやがった。


ウナギの蒲焼って難しいんだぞ。


串打ち三年、割き五年、焼きは一生って言われるくらいだからな。


蒲焼焼くの上手い人ほんと、尊敬します。


はーいと言ってミコは軽い足取りでキッチンへと向かう。


自分でやれ、と言いたいがそんなこと言っていても仕方ないので渋々俺もキッチンに行く。


一緒に住んではいるが、料理は基本ミコと俺の2人の担当になっている。


紫はなにをぶち込みやがるか分からないし、楓は面白いからと変なことをされたらたまらないからだ。


その点ミコは言われたことはしっかりとこなすし、料理は親に教わったらしく、ある程度の品の手順はしっかりと頭に入っている。


なによりかわいい。


そしてかわいい。


ココ重要。


岡山県産高級青ウナギと書いた発砲スチロールの箱の中に氷水と一緒にウナギが入っている。


知ってるー。


幻のウナギって呼ばれてるやつだー。


いや、金の使い方間違ってんだろ。


食費は経費だからということで紫が出してくれているんだが、手に入りにくいものは紫が実家に電話したら最高級品がその日の内に届けられる。


本当、どうなってんの花形グループ。


孫に甘すぎじゃない?


「じゃあ、焼くのは俺がやるから蒲焼き用に捌けるか?」


「ウナギを見るのは初めてですけど、ヌメりを取ってから背開きですよね?なら多分できます、少し難しそうですけど任せてください。」


ミコはそういって小さくガッツポーズを取る。


かあいいよぅ、おっ持ち帰り〜。と、ここが家だった。


ということでウナギを開くのはミコに任せて俺は汁物の準備に入る。


水で戻した乾燥ワカメとさいの目切りにした豆腐を鍋に入れ火にかけ、その間にほかの具材を切って入れる。沸騰したら火を止めて沸騰が収まったのを確認して味噌を溶き入れて、沸騰しない程度に火をつける。


簡単だが味噌汁の完成だ。


ちょうど捌き終えたのかミコも出来た!と嬉しそうにする。


かw、もうかわいさは伝わっただろうしいいか。


棚から串を出してミコの方へ行くと驚きの物を目にする。


ウナギの身がカバを型どった形に組まれていたのだ。


動物のカバだよ?カバ。汗がピンクの。


それも4つも。家族かよ。


たしかに蒲焼って言ったけども!そんな形にする!?


「え、捌き方間違えましたか…?難しくて…。」


こんな形にするのはそりゃ難しいだろうな。


てかどうやったらそんな形に組めるの?逆に芸術だよ?SNSで映えちゃうよ?


しまった。ウナギを知らなかった時点で蒲焼も知らないと気付くべきだった。背開きまで分かってたから大丈夫だと思ってた。さすがにそんな間違いは予想出来なかったわ。


こんな具合に色々ありつつ、なんとか食卓につくことができた。


4人で囲んだ机の上には残酷にもカバのお腹に串が刺さっているなんとも不思議な文字通りのカバ焼が並んでいた。


焼いた時のまがり方とかまで計算されているのか、焼いても崩れず、綺麗にその形を保っていた。


なぜ無駄なとこで高スペックなんだよ。


ミコ、恐ろしい子。


「ほぇーすっげぇ。これミコがやったの?さすが!アタシの部の部員!こうでなくっちゃ。」


紫さんのお気には召したようで、プラモを見る少年よろしく目をキラキラさせながらカバ焼きをながめていた。


「一体どうやったんだい?これは。カバ焼きとはまた芸のない。」


一方の楓が楽しそうにニヤけながらミコを見る。


「え?え?違いましたか?湊さんがこれでいいよって言ったので大丈夫だと思ったんですけど…。まさか湊さんに騙されて…。」


ミコは自分の切った形が間違っているといわれてシュンとしながら俺の方を咎めるような目で見てくる。


ち、楓め、余計なことしやがって。最悪だ。


ミコに嫌われるだろうが。


「そんなことない。これで大丈夫だ、ミコありがとな。」


誤魔化すようにミコの頭に手を置いて撫でる。


えへへーとミコはだらしない声をだして気持ち良さそうにする。


やだなにこの動物、かわいい。


いつまでも撫でていたいと思ったがそうもいかなかった。


それを見ていた紫が俺にずつきをしてくる。


しっかりと腹にジャストヒットし、若干後ろにふっとびながら、かはっっと声がもれる。


某ポッケにはいるモンスターのゲームでずつきの威力が70もある理由がわかったわ。


これ痛い。


「アタシも、撫でろ。」


なんで紫を、と言いたかったがもう一度ずつきをくらいたくなかったので大人しく紫も撫でる。


「モテモテじゃないか。よかったな。湊くん。」


と、楓が茶化してくる。


ミコはともかく紫にモテても全くうれしくない。


どころか嫌気さえする。


「ささ、冷めないうちに早く食おうぜ。」


という俺の一言で全員が所定の位置に座り、いただきますを言って食べ始める。


始めたはいいのだが、蒲焼を食べた紫はいきなりTシャツを脱ぎだした。


ブラが丸見え、、って、してないのかよ。


まぁ、そうですよね、AAAですもんね。


アイドル活動してそうですもんね。


期待して損しました。


そして脱いだ紫はというと。


「美味いぞー」


パァンと言う効果音を口にしたかと思ったら上裸のままで叫んでいた。


ああ、最近マンガよんだのね。


俺が紫を残念なものを見る目で見ていると紫は自分のやっていることに気付く。


満面朱を注ぐとはまさにこのことだと言わんばかりに顔を一瞬で真っ赤にする。


嫌な予感しかしない。


「見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


そう言って俺の顔面に玄人はだしのライダーキックを叩き込む。


クリーンヒットして壁に頭を打ち付ける。


自分で脱いだやん。


そう思いながら、俺の意識は消えていった。


こういった具合に俺と3人の変人達との日常は日々、大変だ。


主に俺が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

変は異なもの味なもの @kinako_moti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る