ぷろろーぐっ! に
なんか分からないが和食が出てきた。
意外ともとの世界と同じような感じなのかもしれない。
ロザリーに和食か聞いてみたが、首を横に振った。
お風呂は残念ながら一人で入り、布団を始めに寝転んでいた部屋に敷いた。
俺が一番端、右隣にロザリー、隣にきゃきゃ、隣にフィリア。
布団は特別ふわふわとは言い難いものの、旅館のような布団で寝やすかった。
**
[歩夢、ちょっといい?]
星空の下、殺伐とした丘に座る俺と、そこに立つシルエットしか見えない黒い彼女。
真っ黒で形しか見えない剣を、地に刺した。
[お前、だれだ?]
[この世界のインベーダーかな]
[インベーダー?]
[そんなことはどうでもいいでしょ]
彼女はゆっくりと腰をおろした。
[伝言。<天地の摩天楼>を調べなさい]
[いや、それはダメだっ]
叫んだ瞬間、彼女は霧散した。
誰もいない世界では月はなかった。
些かの星の光しかなく、不可視の世界だった。
どうして彼女のシルエットが見えたのか。
どうして彼女の剣が見えたのか。
**
[お・き・るよ。てんせいしゃ]
起きると、きゃきゃが顔の上に乗っていた。
不思議と痛みがない。
もしかして可愛い子は天使だからか?
浮いてるからか。天使の翼、俺も欲しい。
ちなみにピンクのパンチ、否、パンツが額に乗っている。
[きゃきゃ、ちょっといいか]
きゃきゃの横腹を持って退かす。
これが痛いんだよ。
仰向けで寝た状態でこのように腕を動かすと筋肉の弱い方を使うからね。ぷるぷるよ、ぷるぷる。
[てんせいちゃ、ごはんのまえにさんぽだよ。ふぃりあもいっしょだよ]
[まじかよっ! こっちは眠いのに]
というわけで家を出て散歩である。
木造二階建て建築がならび、僅かにマンションも林立する。
そこはまるで、
[日本、そのものか]
獣人をはじめとした亜人はいる。
しかし、日本の風景そのもの。
山も川もある。
異様なのは、遥か先にある、もとの世界とは乖離する建物。
確かに塔というより楼である。
<天地の摩天楼>とはあれのことだろう。
鰯雲を超え、さらに先に伸びる。
[にほんってなに? なにみてるの?]
[でかいな]
感嘆というより戦慄。
背中を走る恐怖はすぐに体を抜けた。
妙だな。
[あゆさん]
[あゆさんって俺?]
[はい。覚えてますよね、<天地の摩天楼>を詮索するのは危険ですよ]
フィリアは摩天楼を見て尻尾を振っている。
なにが楽しいのか。
<この世界のインベーダーかな>
途端、冷たいものが頬をつたる。
たった一粒すぐに乾く。
[俺、泣いて……]
夢じゃないか。
なのにどうして?
[てんせいちゃさん、ふれいやーかーど]
[きゃきゃ、プレイヤーカードでしょ]
[なにそれ? そんなのあるの]
[はい。万能魔法をつけたカードです。自分の名前を十回詠唱してください。本当はパスワードひとつで出せますけど]
気になる単語。
異世界って感じだな。ゲームみたいな?
[来栖 歩夢……]
なんか恥ずかしいな。きゃきゃのやつがキラキラした目で見てくるし。睫毛が綺麗に伸びてるし。
[来栖 歩夢、来栖 歩夢……(略)、……来栖 歩夢]
すると、手のひらが煌めく。
そして名刺ほどのカードが現れた。
<来栖 歩夢(15) 金貨五枚 銀貨十枚所持 ゲーム:未 能力:ランクC 精神ブースト 魔法:なし 術:なし 個体スキルZ:なし>
と記載されていた。
ゲームとか、術とか個体スキルは分からないな。
<精神ブースト>ってなに?
[<精神ブースト>とはなんです? あゆさんの能力ですけど]
え? これがチート能力?
ブーストって高めるやつでしょ。
精神高めるってなんだよ。
[フィリア、個体スキルって?]
[獣人なら耐寒とかですかね。サキュバスだと耐幻覚。そんなものです]
[きゃきゃもないよぉ]
[そっか。で、どうやって戻すの?]
[戻れと言えば]
意外と単純だな。
それになんか落胆するわ、チートスキルじゃないし。
[残念がる必要はないですよ。魔法とかできれば。それにこの国からでなければモンスターにも暴徒にも会いません。この国が一番。法律もしっかりしていますし]
フィリアが言うならな。
化け物と乱闘しないならいいか。
[能力ってどうやって使うの?]
[カードを出した状態で、能力を火の玉のようにして出すイメージをするのです]
[きゃきゃはちがうよ]
[こらっ、余計なことです]
目をゆっくり閉じ、体内にあるエネルギーを一点に集めて、放つっ!
すると風が起こった。
[あの、私ワクワクしてきましたよ!]
フィリアが人が変わったように尻尾を振って、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
もしかしてだけど、<精神ブースト>ってこれかよ。
いくらチートスキルでは無かったとはいえ、ショックはでかかった。
異世界はハーレム天国と思いきや酷い目に遭いました(マジ 阿矢間 りん(謝りん) @mirai-sekai
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