異世界はハーレム天国と思いきや酷い目に遭いました(マジ

阿矢間 りん(謝りん)

ぷろろーぐっ! いち

俺は昔から歌が好きだった。高校一年になった今、俺は仮説通りにことを進める。

カラオケ五曲連続全国一位。

しかし、アニソン限定だ。大丈夫、校歌を覚えずしてアニソンを練習したから。

いや、今馬鹿にしたでしょ?

でも大事よ、大事。

だってこの偉業をなした人は異世界に行ける。

ただし条件はもうひとつ。

一人カラオケであること。

ここで間違えてはいけないのは、一人用の歌を選ぶこと!

デュエットが出てきたら終わりだから。

とまあ、とっくに条件を満たし、足元から光がキラキラしているんだけど。

したり顔するなって?

一位の特権よ、特権。

では、行って参ります!


**



ひっそり閑とした家のなか、俺来栖くるす歩夢あゆむは天井を見上げていた。

少し目を移すと、白い横長の物体が天井の一角に付いている。

[……エアコンだよな。異世界だよな……、でもエアコンだよな……いやいや、別物か?]

よし、とりあえずエアコンと仮定しよう。

でもそれぐらいいいではないか?

ここは異世界。エアコンぐらいあるさ。

すると、

[てんせいちゃきたの! いらっしゃいませ]

高くかわいらしい声。

金髪ショートカットのロリ。

上着から延びる白皙はくせきはすべすべで光沢があり、細いお手は綺麗に伸び、細い足は綺麗に伸び、細いおめめは綺麗に伸び、小さなお鼻は綺麗に伸び、小さな睫毛まつげは綺麗に伸び、

[語彙力っ! 途中から綺麗に伸びしか表現してないぞ!]

ああ、これが名状しがたい思いに駆られるってことか。

ちなみに俺はロリコンではない。

なぜなら、可愛ければみんな好きだからねっ。

よし、ちゃんと表現するぞぉ!

金髪の髪はふんわりと伸び(まだ一回しか伸びを使ってないぞ)、円らな瞳はしっかりと俺を見つめ、その瞳から睫毛が綺麗に反りかえって伸び(あれれー、嫌な予感だ)、頭から綺麗に首が伸び、服から出た肩から腕が綺麗に伸び、俺も首から胴体が綺麗に伸びている。

高校生の圧倒的語彙力をねじ伏せる可愛さってことでどうぞ。

なにふざけるなって?

ごめんなさい、五体投地でどうぞ。

と思ったが、そのロリッ子は大きく、それは本当に大きく股を開け、おててを俺の胸に置き、座り込んでいた。

大きなお目めが可愛らしい。

下品な表現をしてしまったが清らかで麗しいよ、ほんと。

下品なのは俺なのでロリッ子じゃないからね。

[わたしはきゃきゃ。こうみえて、けんせいなんだよ?]

[牽制だとっ! くそっ、身動きが取れない。してやられたっ]

[わたしつよいでちょ]

きゃきゃはエアーで剣を振り下ろしている。

ふざけて牽制って言ったけど、剣聖ってこと?

まさか、な。

[きゃきゃ、どうし……]

誰かが部屋に入ってきたらしい。

ごめんみんな、天井ときゃきゃしか見えない。

声はきゃきゃよりも落ち着いてるよ。

さあ、今度はどこが綺麗に伸びているかな。

おい、綺麗・伸びるの語句を見るだけで嘔吐えずくだとっ!

お腹のものも、心のわだかまりも、セクシー黒タイツも全部はいちゃえよ。

それで吐くものはなくなるさ。

[大丈夫ですか、転生者さん。この方は大事な人なんですから]

[それは都合がいい。俺もだよ]

美しい声は聞いたのよ、その身形みなりこの俺に見せな!

俺はよこしまに程遠い様子……、ごめんなさい邪の塊でした。

五体投地でどうぞ(二回目)。

[ねえ、ぱんちみたい?]

[きゃきゃ、さあ俺が全て受け止めるよ]

カラオケ転送はなんとスキルが貰える。よってハーレムを形成しやすいらしい。

軽いパンチを強力にして返すとかないよな、たぶん。

まあ、きゃきゃを傷つけることは無さそうだし、パンチくらいくらってやっても。

[ふぃりあ、てんせいちゃのためだよっ]

スカートが大きく舞い上がった。

その風はきゃきゃの金髪を僅かに靡かせ、スカートの中身が俺の心を確かに靡かせた。

不動と言われた冷徹な男、来栖 歩夢。

あゆんの空虚な漆黒の心に一条の光が差し込む。








神風は願うものではない、起こすものであるーーーー来栖 歩夢。







お前こころ揺れ過ぎだろうがって?

その洞察力はあなたの宝です。

冷徹な男にもピンクのパンティは効きます。

きゃきゃのやつ、ぱんちじゃなくてパンツか。

俺は感情的に右手を広げてきゃきゃの頭に向かって……、

[きゃきゃ良い子だ。本当にかわいいな]

頭を撫でる。滑らかな髪から桜のような優しく甘い芳しい香りがして俺が癒される。

この子欲しい。

ちょ自重します、警察呼ばない……、ふふふ。

警察が五曲アニソンカラオケ一位を取れるとでも?

瞬間、頭に激震が走った。

ついに神の鉄槌が下されたようだ。

ごめん、五体投地でどうぞ(三回目)。

[痛っ]

[このエッチ! きゃきゃ退]

だと!

出会ってすぐに口説かれたらいくらこの俺でも。

だが彼女いない歴=年齢という禁欲主義者だぞ、そう簡単におちるか。

[わたし、てんせいちゃのなまえきいたらどくの。おちえて]

やばい、俺の顔赤くなっている?

唐紅かな。

だがまだ甘い。俺のこころは紅蓮、まはや臙脂えんじ色だ。

いや、見惚れてないからな。ただたぎってきただけだ。

[我は伝説の来栖家、歩夢だ]

[ねえねえ、あゆ・んっていうの?]

なんか言い方おかしいけどいいや。

[そうだ。伝説の来栖家な]

[すんごーい]

きゃきゃはやっと俺から降りた。

そして起き上がると、異世界!

なに言ってるかって?

橙色のふさふさ耳、ひょっこりしたもふもふ尻尾、青い目、起伏のある谷、獣人だぞ。

やっと異世界来た。

[フィリアだっけ。いい名前だね]

[はい。昔の転生者がそうつけてくださいました。友愛って意味だそうです]

[ふーん。すごいね]

棒読みです。友愛ってなんだよ、インテリアしか分からないだろ。

スマホ持ってないから無理だ。

この言葉現代人っぽくね?

それから部屋を出てリビングのテーブルに着いた。

胡座である。

見渡すと台所があった。

華奢な様子で台所に立つ少女。普段紳士の俺がこんな表現をするのは良くないが、きゃきゃがじぇーえすとしたら、フィリアがじぇーけー、台所の少女はじぇーすぃーぐらいの年齢らしい。

フィリアの情報だし正しいだろう。昼食を作っているらしく、こちらを見向きもしない。

テーブルの左にじぇーけー、右にじぇーえすという恵まれた環境。

昇天しそうだが伊達にカラオケをやっていない。

もっと楽しんでからじゃないと!

[フィリア、質問いいか]

いつも通り紳士で落ち着いた様子で話しかける。

モテ男の必須技である。

[はい。なんでもどうぞ]

[エアコンか、あれ]

[あれがエアコンですか?]

[そうだ。さっきの部屋にもあったが]

[いいえ、エアーコンディショナーです]

はい、エアコン決定。

英語だとムカつくわ。

[略してエアコンですね]

と言うと、

[あの<略式>ですか?]

知らんがな。

啓蒙とは無知という闇を照らすことらしい。なんか知らんけど今思い出した。

[なんだそれ?]

[<略式>とはいろんな仮定を飛ばす技術です。魔法なら詠唱を、錬成なら製造過程を、体術なら動きを作るまでの過程を。体術は瞬間移動のことです。範囲がありますけど]

…………は?

反応が遅れたが仕方がない。

何を言ってるか分からないだろ。

<略式>とエアコンの繋がりも分からない。

[そっか]

分からないなら流しましょう。

小さい頃を思い出しなさい。

糞したとき一体それが何だったのか考えるでしょう。

でも答えにはたどり着かない。そこで流したでしょ?

同じですよ、それが人生。

[ところで、転生者の俺と普通に会話できるのはなぜだ?]

[はい。知的生命体同士の会話が<天地の摩天楼>によって自動翻訳されるからです。あの、来栖さん。遥か彼方にある摩天楼だけは調べてはなりません。危険です]

なにこの突然の物騒?

でもここで聞けて良かった。

知らずに出ていったらな。

[料理が完成。ボクはどこに座れば]

ボクっ娘サキュバスだとっ!

めたように曲がった二つの角、胸元を見せる服装、赤い瞳、冷酷な表情。

あどけない表情のなかに妖艶さが紛れている。

かわいい、接吻したい。

[な、貴様。ボクに喧嘩を売ってるのか?]

誰か喧嘩を売るやつがいたのか?

俺は知らんぞ、俺は知らん!

[かわいい、接吻したいなんて]

[あれ? 俺口にしてないけど]

[ボクは心が見えるんだぁー]

こうして転生した俺はボクっ娘の右アッパーで吹き飛ばされた。

でもいいのさ。可愛い子三人組と住むことになるのだから。

[ねえ、泊めるの?]

ボクっ娘は聞こえていたらしい。

[ボクっ娘じゃなくてロザリー]

[ロザリー、かわいいな]

[ばっかじゃないの]

ロザリーははにかんで指をくねくねしている。

[ロザリー、私たちの役目は転生者と暮らすことだから]

[うん。知ってるよ]

どうやら俺は本当にここで暮らすらしい。さあ、ハーレムの始まりだ!

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