第2話 その血を引く者

十六夜と染井サクラが丁度激戦を繰り広げる中、一人の少女…大日女薫おおひめかおるは竹林の中にいた。霊峰れいほう神門山みかどやまに行く手前には森の様な竹林が沢山並んでおり、自然が作り出した迷路にもなっている。高天原たかまがはらに住む者でさえ、一度入ったらなかなか出れない事もしばしばあり、竹林に入るさいは、気を付ける様よく言われている場所である。そして竹林の奥深くには、特殊なほこらが強い結界で守られている。しかしそのほこらを見つける事は神の者でさえ困難である。ましてやただの人間には絶対に見つける事は出来ない。

その中、なぜか薫は鳥居が幾つも並んでいる石の階段を見つけ自然と足が進む。そして薫がその石の階段を上り頂上へ着くと、白く光る美しいほこらを見つけた。その外装は白く綺麗に輝いており、常に手入れが行き届いている様だった。薫がそのほこらを見つめていると一瞬声が聞こえた気がした、気になった薫はそのほこらに近づいて行き、和紙で作られたドアを開けた。すると白く特殊な光を放っていたのは綺麗な白い刀だった。それを薫が手にした瞬間、黄色い温かな光が薫を包み込んでいき、同時に目の前に羽衣らしき物を身に纏った長く美しい白い髪の女性が現れた。


「うっ!うわ! なにこの現象!?」


その現象に薫は驚きを隠せなかった、すると長く美しい白い髪の女性が優しく薫に語りかけてくる。


「…我が血を引く迷い人よ…この先、汝に数多の苦難が訪れるでしょ……しかし恐れる必要はありません……汝には…この私、天照が付いています……その刀は私の血を引く者しか扱えぬ刀……名を霊刀…大日霊ノ命おおひるめのみこと…その刀で数多の世界を救いなさい……数多の戦を平定なさい……そして全ての世界を愛しなさい……それが汝の定められた運命でもあり天命でもあります……さあ……お行きなさい迷い人よ……その刀と共に」


そう言った女性は、消える直前優しく薫を抱きしめ、強い光を放ち消えた、その光は天高くまで届いていた。


「な、なんだったんだろ……今の…」


薫は困惑をしながらも、手にしている刀をまじまじと見て考え込む。


「うーんいったい何の事を言っていたんだろ……?世界がどうとか言ってたけど…まあいいか、…にしても…、はぁ……元の世界に帰れると思って来たのに全然関係なかったし…この先どうしよう……アッ! この感触は!」


薫は元の世界に戻れる事を願って祠まで来た分、ダメだと分かった瞬間がっくりと肩を落とし落ち込んでいる。しかしたまたまポケットに手が当たり携帯が入っている事に気が付き、すぐさま携帯を取り出した。


「頼むよ私の携帯ちゃん……圏外だけは勘弁ね…」


薫は祈る様に自分の携帯を持ったあと画面を見た。しかし圏外の文字が見えた瞬間またがっくりと肩を落とし落ち込み始めた時、辺りが静かになっている事に気が付いた。


「…はぁ………圏外だし…最悪……そういえば変な爆発音とかが聞こえなくなった様な……? いったいあれもなんだったんだろ? まあとりあえずこの場所にいても変わらないから、移動でもしようかな」


そうして薫は来た道を引き返し、石の階段を降りた。すると来た時にあれだけ沢山あった竹林がほとんど無くなっている光景が拡がっていて驚いた。しばらく歩き広い麓へ着いた薫は人が倒れているの見つけた。急いで駆け寄り声をかけようとした薫だが、倒れていたのは血だらけの女性であった。そのあまりの出血量に薫は困惑した。


「…凄い血の量……大丈夫ですか!? しっかりしてください!」


その声に反応した女性は苦しそうな状態でありながら、言葉を返してきた。


「……お前は…いったい……」

「私の事より早く医者に見せないと! ここには病院とか無いんですか?」


その言葉を聞いた女性は、不思議がりながらも薫の隣にある霊刀・大日霊ノ命おおひるめのみことを見て何かを悟った。


「……そう…か…お前は……」


そう言った女性は薫に自分の持っている刀を渡した。


「えっ? あの…これどうすれば……?」

「その……刀を…お前に…託…す……後は…お前に任せる…ケホッ! ケホッ! ケホッ!」

「ちょっ!? ちょっと、大丈夫ですか!? 」


(託すって言われても…私に何をしろってゆうの……いったいどうすればこの人を救えるんだろ…携帯も使えないし…、この場所も全く分からない…私にはどうしよも……血の量を見てもこの人はもう…助からない…)


そこへ桜花達とナユタ、イズナの二人が神門山の麓へと着き、横たわる十六夜に近づいて行く。


「十六夜ちゃん!」

「十六夜様!」

「十六夜様……私達がお傍に付いていないばかりに、申し訳ありません!」

「……十六夜様…」


その場に来た者達は涙を流していた。十六夜は桜花達の顔を見た後、苦しそうにしながら血を吐いたりするが、静かに目を閉じ両手を祈り手にし言霊を唱えた後、手の平をゆっくり開け天に捧げる様に向けた。


「…我……数多の星を……司る…神子な…り…我に…従いし神の…子らよ……刻印こくいんせし我が名を……取り払いて…悠久ゆうきゅう大平原だいへいげんへと…永久とわに…解き放とう……天佑てんゆう……上下天光しょうかてんこう……」


それを聞いた桜花はふいに言葉が出た。


「これは…輪廻転生りんねてんしょう受け負いの儀…」


するとその場に泣き崩れるナユタと、涙を堪えるイズナの全身を白い光が包み込んでいく。


「えっ? これはいったい…」

「この光は……」


少し時間が経つとナユタとイズナを包む優しく強い光は、次第に弱くなり消えていった。その言霊を言い終わった十六夜はその場にいる桜花達の顔を優しく見た後、薫の顔を見て笑みを浮かべながら息を引き取った。


そこに桜花がナユタ達に言葉をかける。


「ナユタちゃん、イズナ君…君達は今十六夜ちゃんから新たな命を授けてもらったんだよ…式神は本来主を失えばそれと同時に消滅してしまう。その消滅を十六夜ちゃんは助けたの…」


その言葉にナユタは驚き呟いた。


「そっ…そんな事十六夜様は一言もおっしゃって──」


それを聞いた桜花は少し考え始めてからは言葉を返した。


「…これはあくまで私の憶測おくそくだけどね、十六夜ちゃんは君達を式神として見ていなかったと私は思うんだよね、君達を自分と同じ神の存在として見ていたと私は思う…だから十六夜ちゃんは天佑の儀を使ったんだと思う…」


ナユタは涙を流しながら桜花に尋ねた。


「そうなんですか……あの…桜花様、輪廻転生りんねてんしょう受け負いの儀とは一体何の言霊なんですか…?」

輪廻転生りんねてんしょう受け負いの儀…、それは自らの命を引き換えにする事で、対象者に新たな命を授ける禁術の一種だよ。天照様が決めた事で禁術として認可されたの、使用者の霊力次第では数多の死者を生き返らせる事が出来る特殊な言霊…。ただこの言霊を扱える神は霊気を膨大に持っている特殊な神にしか扱えないの、だからこの言霊はほとんどの神は扱えない…、今の君達に話す必要があると思うから天照様の言葉を教えるね、今から話すのは私が天照様に言われた言葉なんだけど、そのまま伝えるね、【汝…例え我身に変えて助けたいと思うていても…それはなりません…刻々と過ぎ去る事は全て運命の輪にて繋がりし事…定められし命の輪を例え神であろうと変えてはなりません…その者の死を受け入れ思いを背負いて前を歩きなさい……それが生きる者の務めであり…亡き者への弔いでもあります…自らの命使いて助けもうしても…残されし者の思いは変わりません……前を向きなさい…そして汝思い人の生を忘れず進みなさい……】これが私が天照様に言われた言葉だよ…十六夜ちゃんから貰ったその命……無駄にしないであげてね……」


それを聞いたナユタはまた泣き崩れた。それと同じく涙を堪えていたイズナも堪えきれなくなり、みんなとは違う方向へ向き涙を流した。みんなが泣いている中、桜花は薫とその隣にある霊刀・大日霊ノ命おおひるめのみことと十六夜の刀、星雲刀せいうんとうを見ていた。そしてみんな徐々に落ち着きを取り戻していき、桜花がイズナとナユタに対し先に帰るよう言った。そしてイズナが十六夜の亡骸を抱きかかえ二人は高天原へ向かって行く。それに付いて行くヨシノを桜花は呼び止め、一緒に帰ろうと言った。そして桜花が立ち止り薫に言葉をかける。


「…君も私達と一緒に来てもらえるかな? 君にはちょっと聞きたい事があってね」

「えっ?、は、はい分かりました」


こうして、薫は桜花達と高天原へと付いて行く事になった。


(なりゆきで付いて行いってるけど大丈夫なのかな…さっき戦争していた人達だし…

ちょっと怖いかな……)


桜花達が高天原へ向かっている最中ヨシノは薫の事をしばらく気にしていた、その事を桜花に問いただす。


「桜花様、なぜあの様な見知らぬ神が私達の後を追うように高天原への道へ付いてきているのですか?」

「ん?あぁ、あの子は大丈夫だよ、それに私が来るように言ったんだし」


それを聞いたヨシノは桜花に対し敵意を向ける。


「いくら桜花様でもあの様な者を高天原へ入れるのは私は反対です! あんな神私は見た事がありません! 神の身に化ける妖の類の可能性だってあります! あの者を道中に置き去りにしてください!」


それを聞いた桜花は得意げに言う。


「ヨシノちゃん少し冷静に考えてみなよ、あの子は私達と同じ神じゃないよ、霊気を一切感じられないからね」

ヨシノは不思議そうな顔したが、薫の霊気を探ろうと少し目を閉じた。そして霊気を一切感じないのが分かり更に激怒した。


「桜花様! 今すぐにあの者を切り捨てるべきです! あれは妖の類であるのは間違いありません! 桜花様が切らないと言うのであれば私が切り殺します!」


そしてヨシノが刀に手を置い瞬間、桜花が強い霊気を纏うと同時に目が鋭くなり怖い表情で桜花が言う。


「…ヨシノちゃん、その手を離さないのであれば私が、ヨシノちゃんを


それを見たヨシノは本気で自分を切り殺すくらいの霊気と殺気の霊圧を放っているのを感じ、渋々刀から手を放した。


「…わっ、分かりました…落ち着いて下さい桜花様…」

「うん! よしよし、いい子だねヨシノちゃんは! それとヨシノちゃんは、あの子の持っている刀を見て見るといいよ」


それを聞いたヨシノは薫が両手で抱く様に持っている刀を見て驚いた。


「あれは!? 大日霊ノ命おおひるめのみこと!? なぜ天照様の刀をあの様な者が……それに十六夜様の刀…星雲刀まで!?」

「ねっ!、凄いでしょあの子、天照様の刀を持ってるいるで本来ありえない事なんだよ、星雲刀せいうんとうもおそらく、十六夜ちゃんが何か察したから自分の刀を渡したのだと思うよ。そもそも天照様の刀は完全に封印されていたから、どんな者でも絶対に封印を解くなんて不可能なはずなのにあの子は持っている…これって凄く興味が出ない?」


目に前で見える光景に整理が追い付かないヨシノだが、ある一点の考えが浮かんだヨシノ、しかし警戒をすぐに解く事はなかった。


「仮に桜花様の考えが私と同じ場合であったとして、どうするおつもりですかあの者を?」

「うーんそうだね、とりあえず長の葦那陀迦あしなだか様に会わせようかと思っているよ」

葦那陀迦あしなだか様にですか…しかし葦那陀迦あしなだか様があの様な者を受け入れるのでしょうか……最近の葦那陀迦あしなだか様は少し様子がおかしくなる事もありますし、つい最近の話では葦那陀迦あしなだか様に本来お渡しするはずの献上品の品を間違て渡した商人の者が、その場で切り殺された事がありましたし…そんな状態の葦那陀迦あしなだか様に霊刀・大日霊ノ命おおひるめのみことを持つあの者を謁見させたら即座に切り殺される恐れがあると思うのですが…特に葦那陀迦あしなだか様は天照様に対して敵対心を持っている事はどの神の者も知っていますし…今の高天原の政策も葦那陀迦あしなだか様とその眷属に当たる者が牛耳っている状態ですし、例え桜花様の話であっても退ける恐れがあると私は思うのですが…」


その事を気にするヨシノに対し少し深刻な面立ちをしながら桜花が言う。


「その話は聞いたよ、葦那陀迦あしなだか様のご乱心だって言う神も沢山いるらしいね。あまり詳しい内情が分からないけど、謁見の間で、もしあの子の身に何かありそうな場合は私が割って入るから、そこはヨシノちゃんが気にしなくても大丈夫だよ」

「それはどうゆう意味ですか桜花様?」


ヨシノは桜花の真意を聞き出そうと探りを入れたが、桜花は明るい表情で答えた。


「言葉通りだよヨシノちゃん、葦那陀迦あしなだか様があの子を殺そうとしたら私はあの子を守る為に刀を抜くって事だよ」


それを聞いたヨシノは驚きを隠せなかった。


「それは葦那陀迦あしなだか様に対して敵対するって事ですか?! いっ、いくら桜花様でも葦那陀迦あしなだか様と戦うのは危険だと思うのですが!? 葦那陀迦あしなだか様の力は天照様に匹敵すると言われています、流石に敵対するのはまずいと思いますが…」


その言葉に桜花は右腕の力瘤ちからこぶを見せて言った。


「大丈夫だよ、もしもその時はヨシノちゃんにあの子を任せるから、ヨシノちゃんがあの子を逃がせるように私が全力で食い止めるから!」

「しかしそれでは桜花様の身が…!」

「大丈夫、危なくなったら至上神格を使うつもりだからさ、いくら不死身の力を持つ冥王神格でも、葦那陀迦あしなだか様の転輪てんりんの力を持つ薙刀なぎなた、神滅刀の前では不死の力は無いも同然だからね、冥王神格の力だけで葦那陀迦あしなだか様を止めれるとは思ってないよ、葦那陀迦あしなだか様の力は私でも充分理解しているから」


ヨシノは少し考え始めたが渋々承諾した。


「…分かりました、まあ桜花様の事ですから何かあってもすぐに対処すると想像は出来ますし」

「それじゃその時は任せたよヨシノちゃん」


桜花達が話し終わり丁度薫の方を見た時、後ろから付いてくる薫は足を滑らせ体勢を崩し転んでいた、それを見た桜花達は不安そうな面立ちをした。


「…桜花様本当にあの者は大丈夫なんでしょうか……?」

「たっ、多分大丈夫だと私は思うよ…」


しばらく桜花達と薫は道なりに歩いて行き、坂を下って平原に出た所で桜花達は止まった。その事に対し薫が桜花に対し言葉をかける。


「あっ、あの、どうしたんですか急に立ち止って?」

「ごめんけど今は少し静かにしていてもらえるかい?」

「はっ、はい!分かりました」


桜花は目を閉じ何か気配を探り始めた。


「どうですか桜花様?]

「四体ほど妖が近くにいるみたい、どうやら目的は私達ではなくを狙っているようだね」

「狙いはあの者か…しかし桜花様の存在くらい妖達も分かっているはずなんだが…」

「私に対して怖がっていないとは言わないけど、それでも妖達はあの子を欲しているようだね、いや…正確に言うならあの子の持っている霊刀・大日霊ノ命おおひるめのみこと…あの刀を奪いに来たと言うのが正しいかな」

「…どうなさいますか桜花様? 私が探し出し切りますか?」

「……少し待ってヨシノちゃん」


桜花は自身の霊気を周辺にいる妖達にわざと分かる様に少し霊気を上げた。すると徐々に妖の気配が消えていく。しかしそれでも気配を消さない妖がいる事に不思議がっていた。


「…四体の妖はもういなくなったけど……なんだろう? 新たに違う妖が一体近づいてきている…」


その徐々に近づいてくる気配に桜花は驚き始めた。


「これは! アラクネの妖気!」


その言葉に対しヨシノは驚き気配を探ぐり始めた瞬間、アラクネが木を薙ぎ倒し現れ桜花達に向かって突進してくる。その姿は巨大な大蜘蛛の顔の上に女性の上半身がくっついている妖だった。


「なっ!な、ななななにあれ~!? 大蜘蛛!?

「まずい! ヨシノちゃん! あの子を連れて高天原に走って!」

「しかし…桜花様は!?」

「私の事はいいから急いで!」


急な展開に薫はどうする事も出来ずあたふたしている時、ヨシノが薫を抱き抱え、霊気を纏い、アラクネの攻撃を素早く避し、飛ぶようなスピードでヨシノは走り始めた。


それを追おうと、アラクネがヨシノ達へ体を向けた瞬間桜花が刀を抜き、瞬時にアラクネの足を1つ切り落とすと、耳を劈くつんざく様なけたたましい声が辺り一面に響き渡る。


(昔の私だったアラクネを一人で足止めするのも大変だったけど、今の私なら問題ない…でもいったいなぜアラクネがここに…アラクネは昔サクラちゃんにバラバラに切り刻まれて死んだはずなのに、どうして生き返っているんだろ?)


桜花がアラクネを足止めしている時、桜花の反対側の木が薙ぎ倒され違う妖が現れた、しかしその妖は桜花でも見た事がない妖だった。


「なっ!? あんな妖見た事がないよ!」


桜花の反対側から現れた妖はアラクネとは別に男性の上半身がくっついている妖だった。


「男性のアラクネ版って言った所だね、私が名付けるとしたらアラネアって名前かな」


アラクネ、アラネアの二体の妖はヨシノ達ではなく桜花をターゲットに決め体を向けた。そして猛スピードで突進してくるアラネアに対し桜花が足に切り付けるが、アラネアの足が硬過ぎて刀が弾かれる。その硬さに桜花は驚きを隠せなかった。


「痛たっ!」


(腕にまで痺れが来たよ~、こんなに硬い体の妖に会うのは初めてかな…さてどうしようか、神格化する為の言霊を待ってくれそうな妖達じゃなさそうだし、仕方ない…言霊無で無理やり神格化するしかないかな、無理やり霊気のくさびを外すから体への負担が大きくなるし、少し痛いからあまりしたくないのだけど、そんな事言ってられる様な相手ではないよね、それに今は周囲に誰もいないから思いっ切り力も使えそうだし)


桜花は人差し指と中指に霊気をかなり集中させ、溜めた霊気を刀の剣先までなぞる様に指を動かした。すると桜花の持つ刀の刀身全体が紫色に変わり、その刀を桜花は自らのお腹に刺した。桜花のお腹から血が流れる様に滴り始めると、その血が桜花の足元を円を描くように流れて行く。流れた血から小さな血の結晶が何個も浮上し、途中で弾けて消えていく。そして桜花の巫女装束みこしょうぞくの模様が変わり始め、紫色のオーラを纏いとてつもない霊気の風が吹き荒れていく。神格化を終えると桜花は、お腹に刺さっている刀を抜いた。抜く瞬間周囲に血が飛び散ったが、刺した傷と共にすぐに修復され血も止まっていた。


「ふぅ……流石に無理やり神格化したから、神格化しただけで疲れが結構来るね、…さて、あの妖達を切り殺さないと…」


神格化した影響で桜花の表情がかなり鋭く、いつもの楽観的な感じが一切なくなり、禍々しい紫のオーラを纏いながら、目にも止まらぬ速さでアラネアの足を切り落とし、続けざまに桜花は攻撃を仕掛ける。アラネアも攻撃をしてくるが桜花はアラネアの攻撃を掻いかい潜りくぐりアラネアの足を回転切を交えながら何本も切り落としていく。動けなくなったアラネアの蜘蛛の頭に桜花が刀を突き刺した。するとアラネアが耳を劈くつんざく様なけたたましい声を発し倒れるアラネア。その時猛スピードでアラクネが桜花に突進してくるが、それを見た桜花がアラネアに突き刺した刀を抜き、アラクネの所へ自ら行く。そしてアラクネの足や腕を何本も切り落としていくが、それでもアラクネは桜花に攻撃してくる。そのアラクネの攻撃を掻いかい潜りくぐり、左手に刀を生成した桜花は、アラクネの腕の上からジャンプし、その勢いで回転を交えながら両腕でに持つ刀で女性の上半身の両腕を切り落とした。その瞬間アラクネもけたたましい声を発しながら痛み悶え始め倒れた。桜花は一旦二匹の妖から距離を置いて様子を見始めた。


(にしても昔のアラクネとは力が増している感じがする…あの新しい妖に関しては手練れの神達でも太刀打ち出来ないくらい強度もパワーもある…もしかして魂鎮めたましず祭壇さいだんに何かあった可能性が!?)


桜花が魂鎮めたましず祭壇さいだんを気にしている間に、二匹の妖の体が徐々に再生していき、桜花がきずいた時にはアラネアの方は完全に再生されていた。


(再生!? 前のアラクネならあり得ない! それにアラネアはアラクネより再生のスピードが速い…ただ切るだけでは再生され、同じ事の繰り返しになるって所かな…なら行き着く考えは二匹共体ごと消滅させるしかないよね)


完全に再生されたアラネアが桜花から距離を保ち、アラネアの人間部分が両手に黄色い光を溜め始め、溜まりきった所で桜花に対し放った。その威力は凄まじく、当たった地面が抉られていた。その攻撃を桜花は避けると、今度はアラクネの方から紫色の光が無数に飛んでくる、その攻撃を刀で弾きながら桜花はアラクネに迫り、女性の人間部分を交えながら一刀両断し、そのままアラクネの後ろへ回り込み両目辺りから目に見えない強力な念力の衝撃波をアラクネに飛ばしぶつけた。するとその衝撃でアラクネの体が吹き飛び、バラバラに肉片が飛び散る、そこにすぐさま桜花が刀で黄泉送りの冥道を開き、バラバラに飛び散ったアラクネを黄泉へ沈めた。


「まずは一匹完了、さてアラネアの強度を考えると念力だけでは体を吹き飛ばせれそうもないから、久しぶりに……食べちゃおうかな…」


桜花が更に霊気を上げると、表情が更に怖くなる。球結膜の部分の目の色が黒く染まり、それと同時に瞳の色が全て赤く変わっていく、そして桜花はアラクネにぶつけた念力の衝撃波より、更に強い念力の衝撃波をアラネアに対し飛ばした。その衝撃波をくらったアラネアは大きく体勢を崩し、けたたましい叫び声を発しながら物凄いスピードで遠くの岩場まで吹き飛び地面に叩き付けられた。すぐに体勢を直そうとするアラネアに対し、桜花が目に見えない程のスピードでアラネアに向かって行き全ての足を切り落とし、持っている刀と同じ様な刀を4つ生成しそれをアラネアの体に飛ばして突き刺し、完全にアラネアの動きを封じた。


「ふぅ~こんなに力を使うのも久しぶりだから本当に疲れる、…さてあとは食べて体力を回復しよう…」


桜花の体が紫色の液体状に変わり、そこから巨大な紫色をした化け猫に姿を変えアラネアを頭から食いちぎり食べ始めた。


その頃、薫を抱き抱えるヨシノは高天原の大門に着いていた。そして目を閉じアラクネの気配を探っていたが、なにも感じられない事を確認したのち、薫を少し投げる様に下した。


「うわっ!」

「あのアラクネの気配が一切ない所をみると桜花様は問題なく倒されたようだ…流石と言うべきか当然と言うべきなのか、相変わらず恐ろしい方だ」

「あっ、あの~さっきの変な蜘蛛の化け物はどうなったんですか?」

「あれはもう私達の所へは来ない、桜花様が倒したみたいだから、そういえば名前を聞いてなかったが、名はなんと言うのだ?」


それを聞かれた薫は、服に付いた土や汚れを手で掃い自己紹介をした。


「私は大日女薫おおひめかおるです、あの…助けていただきありがとうございます」


薫はヨシノにおじぎをした、ヨシノは薫の名前は聞いて驚いた。


(まさかと思っていたが、本当に天照様の名前が入ってる者だとは…それならば大日霊ノ命おおひるめのみことの刀の封印を解く事もあり得るのかもしれない…天照様の血が入っているのならば…しかし…顔つきは天照様にあまり似ていないような…)


まじまじとヨシノは薫の顔を見続ける、そこに困惑した薫が話かける。


「あっ、あの~私の顔に何か付いて…いますか?」

「…すまない、なにも付いていないから安心するといい、それより私の名は染井ヨシノだ、よろしく頼む大日女殿」


(うっ…名前の呼び方が硬いとゆうか、なんで殿を付けるんだろ…それより染井ってソメイヨシノから名前を取っているのかな?)


「染井ヨシノさんですね、改めよろしくお願いしますね」


薫は満面な笑みで言った。


「…そうだ、大日女殿に聞きたい事があるんだが、貴女は何者なんだ?私達の様な霊気を一切感じとれない、そんな事は本来ありえないんだが?」

「うーん、そ、そもそも霊気ってなんなんですか?」


それを言われたヨシノは驚きを隠せなかった。


「なっ!? 霊気すら知らないのか貴女は!? 大日女殿は本当に天照様の血を持つ方なのか!? 返す言葉次第では、この場で切り殺す!」

「えっ!? えぇぇぇぇぇ!?」


殺気を放つヨシノの対し何も出来ず慌てふためく薫の所に桜花が到着し、ヨシノをなだめた。


「よっと、ヨシノちゃんはまた殺気放ってるのかい…全く、少し落ち着きなさい!」


桜花は持っている刀でヨシノの頭をコツンっとやろうとしたが、身長が全く足りずヨシノの頭に届かないでいた。その光景を目にした薫はあまりの可愛らしさに思わず桜花を抱き上げてしまった。桜花もビックリしたが、それ以上にヨシノが驚き呆然と佇んで見ていた。


「うわっ!」


(なっ、なんて可愛いんだろ~こんな生き物がいるなんて)


「桜花様…その姿はいったい…?」


戻ってきた桜花の姿がいつも見ている子供の姿から、幼女の姿へ変わっていて、着ている巫女装束みこしょうぞくがブカブカの状態でいる姿にヨシノはまだ驚いていた。


「あぁ、ちょっと無理な神格化をしてしまったせいで随分体力と霊気を使ったからアラネアを食べて回復を試みたんだけど、まだ体が元に戻らなくてね、多分もう少しで元に戻ると思うんだけど…」


桜花を見ていたヨシノが我に返り、桜花の体を薫から奪い地面におろした。桜花を持ち上げた行動に対し無礼極まりないと激怒しようとした時、桜花に止められ、あえなくヨシノの怒りは不発に終わった。


「あははは、なんかあんな風に持ち上げられたのは天照様以来だよ、ちょっと天照様にされた事を思い出してしまったよ」

「全くいきなり何をするのかと思いきや、桜花様の体を持ち上げるなんて、本当にビックリしたぞ」


薫は自分の頭に右手を置き、撫でながら困惑して謝る。そして薫はヨシノに対し頭を何度も下げ謝った。


「ごめんなさい! なんてゆうか…あまりの可愛らしさについ体が勝手動いてしまいまして…」


薫がヨシノに謝っている所に桜花が薫にまた持ち上げて欲しいとおねだりし、また桜花を薫が持ち上げ今度はクルクル回って遊んでいた。その光景を見ていたヨシノは呆れていた。


(…はぁ…また変なのが増えた気がする…十六夜様の苦労がよく分かります…)


桜花が薫と遊んでいる間に、いつの間にか桜花の体が元の子供の状態に戻り、それを区切りに高天原の国に入るよう薫とヨシノに言った。


「あっ、そろそろ葦那陀迦あしなだか様の所に行くよ2人共。えーと名前はなんて言うんだっけ?」

「私は大日女薫おおひめかおるです」

大日女薫おおひめかおるちゃんか、じゃあ薫ちゃんって呼ぶね」

「はい! 分かりました」

「私は黄泉國桜花よもつくにおうかだよ、気軽に桜花でもいいし好きに呼んでもらって構わないよ」

「分かりました、じゃあ…桜花ちゃんで」

「うん、いいよ了解」


そうして桜花達は高天原の国へ入って行った。

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