仮グラム ★

@yami_menntaru

第1話 見知らぬ世界

「…それじゃお母さん学校に行ってくるね!」


ショートカットの女性が制服を着て、靴を履き玄関を出ていく。青空に天高くある太陽の光が町並みを照りつける中、青々生い茂る緑豊かな木々達が風に揺られ、葉のさざめきが聞こえてくる。


──────


…私、大日女薫おおひめかおるは毎日なんの変化もなく穏やかに暮らしている…、学校生活もそれなりに楽しく過ごせていて、基本的に不満な所は無いけど…、小言うるさい姉には流石に毎日ストレスが溜まる事が多いです……それでも、お母さん、お父さん、おねぇーちゃん、そして私の家族四人で過ごす毎日には、なんだかんだ言っても幸せを感じています。…ただ。お爺ちゃんが亡くなったここ最近は少し悲しみに暮れる事が家族みんなあったけど、それでもみんな明かるく前を向いて生きています。毎日平穏な日々が当たり前の様に過ぎていくだけだったはずなんですが…、私の平穏な日常が一遍するある事件がきっかけで、いつもの私の日常は無くなってしまいました……。


「薫~部屋に入るわね、ちょっとお願いがあるんだけど」


薫が飴を舐めながら寝そべった状態で、スマートフォンをいじっていた時、ドアをノックをして母親が部屋に入ってきた。


「な~に~お母さん」


母親は薫の部屋に入って来た瞬間、部屋を見て呆れ始めた。


「あんたまた部屋ちらかして、休みの日くらい部屋の片づけちゃんとやりなさい! 高校生にもなって片づけも出来ないなんて、まったく!」

「なに? そんな事をわざわざ言いにきたのお母さん」

「あっ、そうそうお母さんこれからちょっと出かけてくるから蔵の整理を頼みたいんだけどいいかい?」


薫はその言葉を聞いてムスッとした表情をした。


「それおね~ちゃんに頼めないの?」

「今おね~ちゃんは仕事で忙しいから、薫に頼んでって言われてねぇ、だからあんたに頼みに来たのよ、今あんたどうせ暇でしょ?」


その言葉を聞いた薫はよりムスッとした表情をした後、ため息をつきながらも承諾した。


「はぁ~、暇ではないけど分かった、それで? 蔵ではどこを整理すればいいの?」

「蔵の中にある空の木箱とかを外に運んどいて欲しいのよ、今度まとめて投げようと思っていてね」

「それ整理って言うの? まっ…木箱を外に運んどけばいいのね、分かった」

「うん、それじゃあ頼んだわよ」


薫の母親は部屋から出て行った、そして薫も部屋を出て蔵に向かい蔵の中に入ったが、あまりのほこり臭さで咳こみ、手をはらいながら薫の足並みが一瞬止まったが、覚悟を決め、手前にある木箱から整理し始めた。


「ケホッ、ケホッ…ケホッ、ケホッ、うっわ~蔵の中結構汚いし…これは流石にちょっとな~……どうしよ…まあ空の木箱を外に出すだけだしいいか…」


そうして薫は蔵の中に置かれている空の木箱を外に出し始めた。そうしてしばらく片づけていると蔵の奥まで行けるようになり、薫がその奥の方に行くと鏡の様な物を見つけた。変わった装飾がしてあるのもあってか、手に取って薫は見始めた。


「う~んなんだろこれ? ちょっとすすけているけど……見た事がない鏡? なのかな? 変わった鏡……なんで家の蔵にこんな鏡があるんだろ…? 鏡の後ろは……勾玉? が上下左右に合わさっている様な見ための感じだし、前面に装飾されているのも変な装飾な感じ……これなんて表現したらいいのかな…うーん桜の花びらや桜の木が描かれている様な感じなのかな? 側面の周囲には開いてある扇の様な感じ? なのかな? …う~ん分かんない」


薫がその鏡らしき物に付いているほこりを布でこすった、そして鏡の様な物をまじまじと見つめていると、急に鏡が光り始め、その光に薫は吸い込まれてしまった。


「う、うわぁ~~~~!? な、なにこれ~! 」


鏡に吸い込まれた薫の目に飛び込んできた光景は特殊な異次元だった、そのまま流されるかの様に薫の体は奥へと進んでいく。そして出口の様な光が見えたと思ったら、また光に吸い込まれるかの様に薫の全身が光に包まれた、その先に薫が見たものは今まで見た事も無い様な景色だった。神秘的な竹林が沢山見え、その景色に目を奪われていると、空間から出てしまったのか、着地に失敗し、お尻から落ちて着地した。


「う、うわぁ~~~~~! いっ! たたたた……いったいなにがあったの…と、とゆうかここはどこ…? 確か変な鏡を見つけた後急に鏡が光って…えっ!? ……ま、待って! …これどうゆう状況なの…、それよりなにここ……なんか神秘的な感じがすごくする…、あんまりいたらダメな所だよねきっと……鳥居みたいなのも複数あるし…、なんなんだろここって…」


しばらく薫は竹林の中を歩き回った、そうすると怒号な様な叫び声と地響きが聞こえてきた、気になった薫がその方へ歩いて行き竹林を抜け、下を覗いて見てみると異様な光景が目に飛び込んできた。


「な、なにこれ……人と化け物が戦っている……うっ! うぇ!」


その光景を目にした薫は血なまぐさい臭いあてられ、吐いてしまったが、落ち着きを取り戻し、徐々にその光景と臭いに慣れてきた。


「こ、これっていったい……戦争? で、でも戦っている人の相手は黒い変な化け物…これは戦争って言っていいのだろうか……」


しばらく薫は歩き抜けた竹林の崖の上からその光景を眺めていた。


「伝令!! 第一陣の神兵がクドゥグアの強化兵と思われるフサッグァにより壊滅との事」

「くっ! クドゥグアめ! なぜこの高天原の世界に攻め入ってきた! 多世界への干渉は古き掟で守られていたはず! なのになぜ戦争などけしかけてきた、アザトースは何をしているのだ!」


長い髪を束ねたポニーテイルの女性が怖い表情をして怒っている。すると、そこに小さな子供の様な女の子の桜花おうかとセミロングの髪をした女性十六夜いざよいがやって来た。その二人もポニーテイルの女性と同じく巫女装束みこしょうぞくの様な物を着ている。


「やあ~ヨシノちゃん、きっと苦戦していると思って遊びにやって来たよ~」

「苦戦しているようだな、ヨシノ……」

「桜花様に十六夜様……ここへ何をしに来たのですか? 特に桜花様は」


ヨシノは、桜花の姿を見ると同時に毛嫌いするかの様な言葉使いで言った。


「そんなつれない事言わないでよヨシノちゃんってば」


その言葉にヨシノは呆れ、ため息をつき困り始めた。


「はぁ~、十六夜様はともかく、貴女が来ると私の邪魔をしに来たとしか思えませんからね。それで何をしに来たのですか? 見て分かるとお思いですが、私は今戦で忙しい状態です、用があるなら手短にお願いします」

「随分嫌がられているな桜花、ヨシノに何かしたのか?」

「いや~私は特に何もしてないんだけどね~、まあ~あえて言うなら度々修行の邪魔をしたぐらいかな……えへへへ」


それを聞いた十六夜は、腰に差している刀を鞘ごと取り出し桜花の頭を叩いた。


「いた!」

「充分嫌われる事をやっている、嫌がられて当然だな……うん」

「だってヨシノちゃんは性格が固すぎるんだよ!」

「逆に桜花は楽観過ぎなんだ、少しヨシノを見習え!」

「え~~」


それのやり取りを見ていたヨシノは呆れていたが、せき払いし、そのやり取りを止めた。


「う、うぅん! もう一度伺いますが、ここへ何をしにきたのですか? お二人は?」

「あっそうそう、それはね! ちょっ、ちょっと十六夜ちゃん何するのさ」


桜花が話そうとしたが、十六夜に止められ、代わりに十六夜が話し始めた。


「今のお前が話すと話がややこしくなるから私が話すんだ、さっそくだが、お前の姉、染井サクラの居場所が分かった。これによりお前もサクラの討伐の任に当たれ、お前の力なら長達が認めている。お前も我々と同様今は三支柱さんしちゅうの神の者だからな、神格を超えた神格を扱える者でないと、あのサクラとはまずまともに戦えない。神格を超えた力を扱える者は、ここにいる桜花、そしてヨシノ……私を含め三人しか今は扱えるものがいない、今の長達は大昔にあった多世界との大戦争で力と言う力がほとんどないからな、私達の住む高天原たかまがはらもかなり傷つき強力な神達も沢山死んでいる。あまり良い現状とも言えない、それに神達は誰でも神格化は扱えるが、通常の神格を超えれる者がほぼいないと言うのもあるがな…。急な話しでもあるから…辞退してもらっても構わない。だがなるべく早急に決めてくれるとありがたい」


その話を聞いたヨシノは顔をうつむき悲しげな表情を浮かべていたが、少しした後決意のある凛とした表情に変わり、十六夜と桜花の前で左膝を地に付け手を胸に当てその話に答えた。


「……分かりました、その任、承らせていただきます。ですが一つお聞きしますが、その任務を任された方は私の他にどなたがいるのですか? それと今は戦をしています、この戦が終わりしだい、任に付かせていただきます」


その姿を見た十六夜と桜花はお互いの目を見つめ合い安堵していた、そして十六夜はヨシノの問いに答えた。


「分かった、他の任務の者だが、今決まっているのは私と私の式神二人、桜花とその式神二人、そしてヨシノ、お前を入れた七人だ。しかしこれから私達は北欧ほくおう神話にいるオーディンに会ってくる予定だ、オーディンに頼み戦乙女ヴァルキリー四人を助っ人になってもらう為に説得しに行く。とりわけ三人の戦乙女を束ねる、現、北欧ほくおう神話最強、忘却の戦乙女フローゼは特に仲間として引き入れておきたい所…あの女がいるといないとではかなり違うからな」

「あぁ、あのヴァルキリーですか、確かに…あの者は姉様と戦うなら必要な存在ですね、忘却……、人の身であった全ての時を忘れた哀れな女でしたね」

「そうだ、人であった記憶全てを捨てた女…北欧ほくおう神話を総べるほどの力を手に入れる代償とも言える、今のフローゼには戦乙女の神として必要な慈悲深い心が無い、ただの破壊者だ、それも冷血な。しかしサクラを倒すのであればフローゼがいないと倒せる確率が上がらない、長達も致し方なくと言った所だな」

「そうですか……分かりました」


そこへヨシノの神兵が走り込んできた来た。


「伝令! 第二陣もう間もなく壊滅との事! ここへ来るのも時間の問題かと!」

「…分かった」


ヨシノの表情が次第に怒りに満ちていく。


「では桜花様、十六夜様、私はまずここの戦を終わらせなくてはいけませんので、失礼します…」

「あっヨシノちゃん、ついでに私達もこの戦に参加するからねぇ~」


その言葉にヨシノは驚きを隠せなかった。


「なっ!?お二人がですか……」

「うんそうだよ! ヨシノちゃんもこの戦争早く終わらせたいでしょう?」

「それは…そうですが……しかしあなた方がいては、私の神兵達の身が危険に晒されてしまいます、私の神兵達は今も戦っておりますゆえ」

「それはヨシノ、お前も直接戦に交われば、我々と同じはずだが?」


その言葉にヨシノは謙遜けんそんした言葉で返した。


「私はまだあなた方程の域に達していませんので、それは大丈夫かと思いますが…」

「いーや、それは違うかな、ヨシノちゃんは充分私達に近い存在だよ」

「それは少し買いかぶり過ぎですよ桜花様、私は……まだ貴女方と肩を並べるほど強くはありませんので…強ければ姉様を止めれていたはずですので……」


ヨシノは悲しみに満ちた表情をしながら言った。その表情を見た桜花と十六夜はお互いの目を見つめ、困惑した表情を浮かべた。やがて桜花が言葉を返した。


「あれは…仕方のない事だよ、500年前の多世界との大戦争、五つの世界がぶつかりあった天神境てんじきょうの戦い…あの戦の中サクラちゃんは、父母と一緒に最前線で戦っていたんだし、最前線は猛者達がひしめく地獄の様な戦い…、そんな戦の中、後方にいたヨシノちゃんは運が良かったとしか言えないよ、むしろ最前線にいなかったのは幸運とも言うべきでもあるんだよ。あの戦いの中、サクラちゃんは自分の式神、桜姫之御門サクラヒメノミカドに突如裏切られ、サクラちゃんの神兵全てが操られた…、その操られた神兵達がサクラちゃん達を襲い、捕まった父母がサクラちゃんの目の前で桜姫之御門サクラヒメノミカドに串刺しにされ殺された…その後の桜姫之御門サクラヒメノミカドの消息は途絶え、今も生きているのさえ分からない…、サクラちゃんの式神桜姫之御門サクラヒメノミカドは、普通の式神と違って特殊な式神だったから…本来式神は、神格化をする事も出来なければ、自らの意志で主の霊気の繋がりを断つ事も出来ないのだけど…なぜか桜姫之御門サクラヒメノミカドはそれらが出来る特殊な式神…その後のサクラちゃんは……」


桜花が話していると、十六夜もその事について話に入ってきた。


「あの後のサクラは自身の制御が出来ないくらい爆発的な力を使っていた…。正直あの時のサクラを止める事はハッキリ言って誰も出来なかった…|長達でさえ手が付けられない状態だった……、当然近くにいた私達も手は出せなかった……、神格化でありながら異質な神格化、それも長達の持つ最高位の神格化、至上神格さえ凌ぐ突然変異の神格化……その神格になった者を私は今まで見た事がない。まさに神の中でも伝説として歴史に書き示されている神格、魔境まきょう神格。……しかしサクラが神格化したあれは、中途半端な神格化でもあった…。しかし至上神格の亜種とも言える特殊な神格の力は想像を絶する力だったのを私は今でも覚えている。ただその時のサクラは敵味方の区別すら出来ないほど力に心を喰われていた状態だった、そんなサクラを止める為に戦った者もいたが、そのほとんどが返り討ちされていた光景も覚えている、命からがら助かった者もいたが、その中の長達も含め満身創痍まんしんそういでその傷が原因で息絶えた者ばかり…あの時近くにいた私達が生きていたのは運が良かっただけだ……その後のサクラも桜姫之御門サクラヒメノミカドと同じくして消息が途絶えた…しかし風の噂で魔境まきょう神格を極めて、神格の名前を変えたと聞く」


しばらくヨシノは桜花達の話を聞いていたが、沈鬱ちんうつな面持ちでその話に答え始めた。


「しかしそれでも!……それでもあの時私もいればもしかしたら姉様をどうにかできたかもしれません、父も母も私がいたら違っていたかもしれません!」


ヨシノと桜花が話している間にヨシノの率いる神兵達が守る最終防衛ライン水霊山すいれいざんふもとから、爆発音や大地の裂ける様な音がヨシノ達の耳に聞こえてきた、強化フサッグァ達が怒涛どとうの様に神兵達に襲いかかっていたのだ、その音を聞いたヨシノはすぐさま神兵に陣形を立て直すように言った。


「すいませんが、もう話している余裕はなさそうです。お二人が戦うと言うのであれば、なるべく私の神兵達に被害がでない様にして下さい、お願いします」


ヨシノは桜花と十六夜に頭を下げ、そう言うと自ら総大将として戦地へおもむいた。


「しかしなんかおかしいね、十六夜ちゃん」


ふいに桜花が言い始めた。


「なにがだ? 戦と言うのどれもおかしいものだ、争う必要も本来無いはずなのにそれでも戦をしたがるバカはごまんといる」

「違うよ、私が言っているのはそうではなくて、フサッグァ程度の魔物に高天原たかまがはらの神兵が苦戦するのがおかしいって事を言ってるの」


十六夜はその言葉にまだ納得がいかない状態だった。


「桜花が言いたい事が私にはよく分からないな、今の高天原たかまがはらは昔に比べてかなり弱っている状態だ、有名な神達はほとんど死んでいる、今の私達がフサッグァに苦戦するのは致し方なかろう……」

「う~んそうかな~なんか私は納得いかないかな~」


(なにかが納得いかない、フサッグァがいくら強化されているとはいえ普通ならこんなに苦戦しないんだけどな~、フサッグァはただ獣の様に突っ込んでくるおバカな存在なんだけど、誰か裏で操っている者がいる様な気がする)


「まあ、戦うのであればそろそろ私達も参入しないと、ヨシノの神兵達がどんどん死んでいくぞ、悪いが私は先に行くからな」

「あ~私も行くし!」


その頃最終防衛ラインは激戦の真っ只まっただ中であった、しかしヨシノが戦地へおもいた事で状況は大分変っていた、ヨシノが来た事により士気が高まり神兵達の勢いが増していったのである、最終防衛ラインである水霊山すいれいざんふもとではヨシノ率いる神兵達が怒涛どとうの様にフサッグァ達を倒していったのである、しかし次第に神兵達の勢いが弱まっていき、神兵達は次々と倒されてゆく、倒しても倒しても奥の方からフサッグァ達が攻め込んで来る勢いが止まらないでいた。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ギシャァァァァァ」


ヨシノは次々来るフサッグァ達に苦戦を強いられていた。


「 ハァ、ハァ、ハァ……くっ! 次から次へと! 切りが無い!」


(…それにしてもいつものフサッグァと動きが違う、強化されているのは分かるが、戦い方がまるで違う、誰かの指示で動いているかの様な感じだ……、やはり神格化し、私の持つ型の技を使って一気に倒した方がいいか……、しかしそれでは私の神兵達に被害がでる恐れが……どうするべきか…)


そこに遅れて桜花が来た。


「ヨシノちゃん! 無事かい?ここへ来るまでの間にフサッグァ達と戦っていたけど、やっぱりいつもと何か違うんだよね、だから私が神格化してここ一帯にいるフサッグァ達を倒すから、ヨシノちゃんは神兵達を後ろに後退させて!」

「桜花様! 分かりました」


(やはり、神格化の型技で一気に倒すしか手が無いと言う事か、桜花様が神格化するなら後ろに結界を張っておかねば…私の神兵達が危ない)


ヨシノはすぐさま神兵達を後ろに後退させた、そして自身の力で広範囲に結界を張った。


「桜花様、私の力で広範囲に結界を張りましたが、私の結界を壊す様な大技は控えて下さい、貴女の技はどれも威力がありすぎて私の結界では持ちませんので」


ヨシノは心配そうな面立ちで話した。


「大丈夫、大丈夫、私に任せなさい! 十六夜ちゃんからも言われているからさ、あまり大技を使うなってさ」


その言葉を聞いたヨシノはあまり信用していなかったが、今は致し方ないと自分に言い聞かせていた、いざという時は自分の力で桜花の放つ型技から自身の神兵に被害が出ないよう守らねばと心の中で思っていた時、桜花は神格化し始めていた、その時の桜花はいつも楽観的な感じとはまるで違っていた、桜花は静かに目を閉じ右手の人差し指と中指を立て、言霊ことだまを唱えた。


「…われ天冥てんめいつかさど覇者はしゃなり…天命てんめい捧げしわが肉体は万物ばんぶつ供物くもつにてその身を黄泉国よみこくへ明け渡さん、ことわりをもってなんじ常闇とこやみ冥府めいふへといざなわん……冥鬼めいき竜胆転生りどうてんしょう! 」


桜花がそう言霊ことだまを言った瞬間、桜花の体を取り巻くように全身から紫色のオーラが桜花を包んでいく、着ている巫女装束みこしょうぞくも徐々に変化し紋様も変わっていく。それと同時に周囲にとてつもない霊気の風が吹き荒れていく、その影響で桜花の周囲にある植物や花、青々と生い茂る草木がみるみる枯れていった、その神格化にヨシノは驚きを隠せなかった。


「これは冥王神格!!」


(な、なぜフサッグァ程度に冥王神格を! それにこれは不死型! 桜花様が持つ神格の中でも冥王神格は至上神格の一つ手前の強力な神格! こんな所で使うものではないはずなんだが、それにしても……うッ! くッ! 霊気の風が荒れて前が向けない、桜花様から霊気の力が異常なほど溢れ出ている……こうも力の差を見せつけられると、自分がどれだけ小さい存在であるかとゆうのが身にみる)


「ちょっと、ヨシノちゃんも下がっていてね、ここ一帯のフサッグァ達を黄泉に送るから」


それを聞いたヨシノはうなずき後ろに下がった、それを確認した桜花は持っている刀を地面に突き刺した。その瞬間、紫色をした特殊な丸い空間の結界が広範囲に表れ、同時にその中へフサッグァ達は閉じ込められた。


「黄泉送りの導き手……冥道」


桜花がそう言い放つと紫色の無数の手が空間から現れ逃げ惑うフサッグァ達を次々と掴み引きずり込んでいく、周囲一帯にいたフサッグァ達が全て黄泉へ送られ、水霊山すいれいざんふもとは静かになった、その光景にヨシノとその神兵達はただ呆然ぼうぜんたたずんでいた、その間も桜花は何かの気配を探っていたが、その気配が無くなったのを確認したのち、神格化を解いた。解いた事で桜花の着ている巫女装束みこしょうぞくに現れた紋様は無くなり元に戻っていた。


「ふぅ~疲れた、やっぱり冥王神格は結構疲れるね~」


ヨシノはまだ呆然ぼうぜんたたずんでいたが、桜花が神格化を解いた事ですぐに我に返った。


「あっ、相変わらず無茶をしますね桜花様、フサッグァ程度に冥王神格など」

「まあ~フサッグァなら、ここまでしなかったんだけど……近くに嫌な気配がしたから冥王神格までして様子を見たけど、どれだけその周囲に探りを入れてみても、途中から気配が完全に消えたみたいでね、どうやら取り逃がしてしまったみたいだよ」


(あの冥王神格した桜花様から!? 流石にあの神格から逃れるなんて万に一つもないと思うんだが…そんな存在がいたら、今の高天原たかまがはらにとって危険すぎる存在であるのは間違いない…)


「ところで、十六夜様はどこへ?」

「あぁ、十六夜ちゃんなら他の所に行ってるよ、竹林の奥にある霊峰れいほう神門山みかどやまにね」

神門山みかどやまですか、確かあそこには魂鎮たましずめの祭壇さいだんがあったはずですが?」

「うん、そうだよ、もしかしたら誰かが神門山みかどやまにある祭壇さいだんを壊して、あそこに鎮めている強力な亡者達を復活させるかもしれないって思ってさ、私が頼んどいたのさ」

「そうなんですか、流石桜花様ですね」

「ヨシノちゃん! 褒めてもなにもでないよ~えへへ」


ヨシノは、手を上げて喜びのアピールをしてくる桜花見て猛烈にイライラし始めた。楽観過ぎる桜花に対し一瞬殺意が芽生えたが、その思いを押し殺し我慢をした。


(桜花様がこんな性格でなければ私も慕う気持ちはあっただろうに……、しかし…神門山みかどやまか、桜花様の勘はよく当たる…、いつもふざけているが、姉様がいない現高天原たかまがはらでは最強のお方……、勘も鋭い、その桜花様が言うのだ、何者かが裏で糸を引いているのは間違いないのかもしれないな……しかし…)


いまだに、アピールしてくる桜花にヨシノはイライラを隠せなかった、その右手は拳を強く握りしめ表情もまた怒りに満ちていた。


(くっ! 現高天原たかまがはら最強がこんな性格の持ち主とゆうのが気に食わない!)


その頃、水霊山すいれいざんふもとから遠く離れた所にある竹林に十六夜はいた、桜花に頼まれ霊峰れいほう神門山みかどやまに向かっていた途中桜花の神格の霊気を感じ、動きが一瞬止まったが、またすぐに神門山みかどやまに向かった。


(……! これは桜花の冥王神格の霊気……、いったい桜花は何を考えている! フサッグァ程度に使う神格化ではないぞあれは! ……あるいは冥王神格を使わざるを得ないの状況だったのか……どちらにしろ、何を考えているんだ桜花は)


時同じくして、桜花が取り逃がした者は竹林の奥にある霊峰れいほう神門山みかどやまにいた。


その者の姿は長い黒髪をした美女であった、花魁おいらんの様な感じを思わせる風貌ふうぼうでもあり、身に着ける着物は、薄ピンク色をした着物だった。その着物には桜の花びら柄をしていた。


「…すいませんイワナガ姉様、桜花様の神格化が想像以上に強力だったもので、フサッグァ達と傀儡を冥界へ送られてしまいました…」


そこへ、暗闇の洞窟の奥から静かに出てくる者がいた、同じく長い黒髪をした美女であった。その姿は先ほどの者と同じ顔立ちをしていた、この者も花魁おいらんの様な感じを思わせる風貌ふうぼうではあるが、先ほどの者が身に着ける着物に比べ、黒紫色をしていたのもあり、その着物からは少し禍々まがまがしさも感じられた。黒紫色の桜の花びら柄が一層禍々まがまがしさを際立きわだたせていた。


「……サクヤか。いや上出来だ、お前のおかげで時間を大分稼いでもらった、桜花があっち側に行ってくれたのは好都合だった、後はこの先にある魂鎮たましずめの祭壇さいだんを破壊すれば最後の仕上げが出来る、それで…竹林のほこらにある天照あまてらすの使っていた刀はどうした?」


その話を言われたサクヤは困惑した表情をし始めた。


「あ、あの申し訳ありません……イワナガ姉様…実話あの刀を取りに行く最中運悪く十六夜様に鉢合わせてしまい、奪う事が出来ませんでした…本当に申し訳ありません! し、しかし十六夜様は私の顔を知らなかったようで、私の正体がバレる事はありませんでした」


サクヤはイワナガに深く頭を下げ謝った、それを見たイワナガは持っていた扇子せんすを広げ、口元を隠すかの様にした後静かに目を閉じ考え始めた。


(…運悪く…か……確か十六夜もフサッグァと戦っていたと思うのだが……なぜ竹林の所にいた? …どうゆう事だ? こちらの気配はほぼ消して分からないはず…、桜花だけ戦地に残り十六夜をこちらに向かわせたとなると、まずいな…サクヤが言うように顔を知らなかったのは不幸中の幸いか…しかし竹林にいたとなるといずれこの神門山みかどやまにも来よう…今十六夜とぶつかる訳にはいかないか…ここは一旦引くべきか…)


イワナガが考え込んでいると不意に空間から上下左右にくっついた勾玉まがたま紋様が浮かび、その勾玉まがたま模様が開いた。そこから現れたのは染井サクラだった、黒く長い髪が風に揺られなびいていた。サクラの身なりは少し変わった巫女装束みこしょうぞくを身に着けていた、イワナガとサクヤはサクラが来た事に驚きを隠せなかったが、すぐさま二人は左膝を地につけ頭を下げたのちイワナガはサクラの方を向き言葉を発した。


「サクラ様…なぜこちらに…?」

「これからゼウス達のいる天空城を攻める、お前達もついて来い…」


ゼウスの治める天空城を攻めると言う言葉にイワナガとサクヤは驚きを隠せなかったが、二人はすぐに返事をした。


「はい、仰せのままに…」

「しかしこの先にある祭壇さいだんを破壊してからでもいいでしょうか?」


そうイワナガが言うとサクラは何も言わず洞窟の奥にある魂鎮たましずめの祭壇さいだんへと向かった、イワナガ達もサクラの後を追い歩いて行く、その時後ろから十六夜がイワナガとサクヤに刀を切り付け、そのままサクラに向かって刀を振り下したが、サクラは後ろから来る十六夜を気にする事なく結界を張り、そのまま十六夜を洞窟の出口まで吹き飛ばした。


「うっ! なぜサクラお前がここにいる!? 私はお前が破壊したグノシスの世界にいたと思っていたのだが…」


(まずい! まさか十六夜がここまで来ていたなんて! 今はぶつかりたくなかったが致し方ない、こうなってしまっては戦うしか……)


イワナガとサクヤは目を合わせると、すぐさま攻撃体勢をとったが、それをサクラは止めた。


「…お前達は下がれ…」

「し、しかしサクラ様…」

「…イワナガ、私は下がれと言ったはずだ…」


その言葉を言った直後、サクラの周りに少し霊気の風が吹いていた、サクラの長い髪が少し逆立ち浮いた姿を見たイワナガとサクヤは寒気を感じ、すぐに攻撃体勢を解いた。


「わ、分かりました…サクラ様」

「は、はい…分かりました…サクラ様」


「お前は確か竹林で会った者、まさかサクラの新たな式神だったとは、まあ…それはいい、問題は目の前にいる染井サクラなんだからな。……刀を抜いたらどうだサクラ、私一人倒せないようでは最強とは言えんぞ…」


するとサクラが十六夜の方に向いたが、刀を抜く様子はなかった。


「……お前程度に刀を使う必要もなければ私が神格化する値もない…お前は私のおおぎで充分だ」


そう言いサクラが右手を広げ、自身の霊気から扇子を作り手に取った。それを聞いた十六夜は怒り、右手の人差し指と中指を立て、言霊ことだまを唱え神格化し始めた。


天道てんどうつかさどる大いなる星々ほしぼしよ、われ数多あまたの星を解放せし万物ばんぶつ神子かみこなり、われ天津あまつ十六夜いざよいの名において夕星ゆうせい天道てんどうをいざ呼び起こさん! 天涯星てんがいせい……星雲天象せいうんてんしょう


十六夜がそう言霊ことだまを言った瞬間、十六夜の着ている巫女装束みこしょうぞくが徐々に変化し紋様が変わっていく。桜花とは違い青紫色のオーラに包まれていくと同時に周囲に強い霊気の風が吹き荒れていく。そして十六夜の体の周りには赤色、青色、緑色の丸い球体の様な物が三つ斜めに不規則に周り始めた。その姿を見たサクラは少し鼻で笑い、目を少しの間閉じてから言った。


「……望星ぼうせい神格か…それも憑代よりしろ型…随分星の力を取り込んでいる。なるほど…これなら私も刀を抜いてやってもいいかもしれん…」

「そう、サクラ…あんたも知っている通り私の神格化の中でも最も強力な神格…望星ぼうせい神格…あんた相手に様子見なんてしない、最初から全力で戦わせてもらう」

「相変わらず、その神格化をしたら性格が変わるようだな、私と同じような厳格な言葉使いではなくなる所を考えると、星の力を身にまとうせいか…?」

「それは私にも分からない、でも私には星の声が聞こえる、おそらく星達の思いが私の中に取り込まれているからなのかもしれえない…しかし今はそんな事は関係ない、目の前にいる敵…染井サクラと言う敵を私は倒せればそれでいい」


その話を聞いたサクラはまた少し鼻で笑った、そしてふと思い出したかの様に、桜花の事を聞いてきた。


「……桜花は相変わらず至上神格した時本来の姿に戻っているのか?」

「桜花は本来の姿に戻るのがあまり好きじゃないようなのは変わらないと思う、私もあまり好きではないしね、高飛車たかびしゃな性格は相変わらずだし…」

「……そうか…」

「変わったのはサクラあんただけよ、本来この高天原たかまがはらを守るべき存在でありながらその真逆の事をしている…。500年前の事を考えると確かに私もあまり責める事は出来ないけど、それでも私達同じ同胞を殺したのは許されるべき事ではない! あんたが天照大御神あまてらすおおみかみを殺した時からこの世界はかなり弱まってしまった、高天原たかまがはらに住む全ての神達の為にもその命で償ってもらう!」


そう十六夜が言った瞬間サクラに攻撃を仕掛け切り付け始めた。しかしサクラは手に持っているおうぎで刀を止め弾き返した。


「はぁぁぁぁ! くっ!」

「……格の違いというのを教えてやろう…」


サクラは持っていたおうぎを投げた、と同時にサクラの周りに霊気の風が吹き始めていく。そして脇に差してある刀を抜き十六夜に刀を向けた。そこに十六夜がまた攻撃を仕掛ける、キィーーンと両者の刀がぶつかり合い、鍔迫つばぜり合いの状態が多くなってきたが、十六夜が次第に型技をするようになっていく。


火夏星ひなつぼし熒惑刃ケイコクハ!」

「……火をつかさど天道てんどうか…」


十六夜が自分の周りに回っている赤い天道てんどうを空高く上げ、その天道てんどうに向けて刀を投げた。すると空からまたたく間に炎をまとった隕石いんせきが無数に現れサクラ目掛け降り注いでいく。自分に迫る隕石いんせきを見つめるサクラだが、その攻撃に対して微動だにせず、自分の所へ来る隕石いんせきを持っている刀を振り、剣圧だけで真っ二つにしていく。そのなか落ちて来る隕石いんせきの後ろに隠れていた十六夜が、サクラに隕石いんせきを真っ二つにされた瞬間、即座にサクラへ切りかかった。


一等星いっとうせい……霊咎流溯レグルス!!」


十六夜が刀で切り付けたが、サクラはその攻撃を避けた。しかしそれと同時に違う意思を持つ大きなかまの形をした炎が無数に空間から現れサクラに襲いかかった。


(…霊咎流溯レグルス…十六夜の意思に関係なく独自に動く炎のかま…少し邪魔だな…)


サクラは少し自身の霊力を上げた。そして刀を両手に持つと、霊咎流溯レグルスに対し大きく刀を振り抜いた。


「……!!」


青色に光る広範囲の衝撃波が、真正面に渦を巻くように十六夜達へ向かって飛んでいく。十六夜はとっさに回避をしたが、無数の霊咎流溯レグルス達には直撃し、跡形もなく消え去った。サクラが放ったその衝撃波の威力は周りにある木々どころか、地面すら削り取りながら隣にある山へと飛んでいき、当たった山は丸くえぐられているかの様になっていた。その場にいる十六夜やイワナガ達は呆然ぼうぜんとその山を見ていたが、サクラがその技を繰り出した事でその霊気を感じとり、この高天原たかまがはらの世界にサクラがいると分かった者達が何人かいた。


「……! この霊気…サクラちゃんの霊気だ!? 絶対にそう! それに近くに十六夜ちゃんの神格の霊気も感じる。この感じ……間違いなく十六夜ちゃんの最強神格、望星ぼうせい神格の霊気だよ!」

「た、確かに、姉様の霊気と十六夜様の望星ぼうせい神格の霊気を感じます…これはいったいどうゆう事なんでしょうか桜花様?」

「…私にも分からない…私達が得た情報では、サクラちゃんは壊れたグノシスの世界にいるはずだったから、それに私達の高天原たかまがはらからグノシスの世界はかなり遠いから高天原たかまがはらにいるなんて思いもしなかった…」

「桜花様! 十六夜様一人では確実に姉様に殺されてしまいます! 私達も一刻も早く十六夜様の所へ行きましょう!」

「うん! 十六夜ちゃん一人だけでは流石にサクラちゃんの相手は命に係わる、早く助けに行かないと!」


(うぅぅぅ! こんな時に限って私の式神ちゃん、ミコトちゃんとエンキ君に北欧ほくおう神話の世界にしかない、お菓子のおつかいを頼んでいたのは間違いだったよ~。それより早く行かないと、十六夜ちゃんが本当に危ない!)


「……!! この霊気は!? イズナ! 早くその三色団子を食べて十六夜様の所に行くよ!」

「わあってるって、ほの霊気は間違ひふぁくサクラ様の霊気だ」

「分かってるならのんびり団子食べてんじゃねぇ! それと、口に含んだまま喋るんじゃね! 近くにいるのが私達の主、十六夜様なんだぞ!」

「わぁはってるって」

「て、テメー……だから口に食べ物含んだまましゃべるんじゃねぇ!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」


気楽でマイペースなイズナに対し、イライラをつのらせたナユタは握拳にぎりこぶしをつくり、思いっきりイズナを殴った。するとその勢いでイズナは近くにある田んぼへ飛んでいき落ちていった。


「お、お連れさん…大丈夫で…?」

「問題ない! 釣りはいらない、美味しかったぞ八屋はちやの親方。」

「へ、へい、どうもで…」


丁度お茶屋にナユタとイズナと言う十六夜の式神がいた、男勝りの女性ナユタはセミロングの髪をし 、くノ一が着る装束しょうぞくの様な服を着ていた、それに対しイズナは陰陽師おんみょうしが着る様な着物をした男性だった、その素顔はどちらも綺麗な顔立ちをしていた。


──────


その頃、高天原たかまがはらの世界に迷い込んでしまった薫は、十六夜とサクラの戦いに巻き込まれていた。


「う、うぁぁぁぁっ!! も、も~なんなのよ~この世界は! 戦争みたいなのが終わったと思ったら次は地響きどころか凄い風に大きな爆発音…しまいには隕石いんせきみたいなのも降ってくるし……それに! …それになんで隣の山に大きな穴が開いているの~~~~! ハァ、ハア、ハァ、……はぁ…早く元の世界に帰りたい……ん? なんだろここは? ほこら? 竹林の奥にほこら……? あっ! ほこらと言ったら特殊な道みたいな物があるかもしれない! もしかしたら元の世界に戻れるかもしれない! 行ってみよう!」


薫は愚痴をこぼしながらもほこらの方へ向かって歩いて行った。


──────


呆然ぼうぜんと立ち尽くしていた十六夜と、イワナガ達はようやく我に返った。


「…くッ!! サクラめ!!」

「……あれは天衣無縫斬てんいむほうざん相変わらずサクラ様はなんてお方だ…あれで神格化すらしていないとゆうのが末恐ろしい…霊気と言う霊気もほとんど使ってすらいない…」


(それにあの技、霊気の力を大分抑えながら放っていた…サクラ様が手加減をした…とゆう事か…珍しいな……普段なら手加減などしないお方なのに…)


イワナガが尊敬の眼差しでサクラを見ている中、サクヤの目は輝きに満ちていた、サクラに対する思いが強すぎるのか、少しはしゃぎ始めた。


「い、今の見ましたかイワナガ姉様!! 流石私のサクラ様! いつ見てもカッコ良すぎてサクヤ失神しそうになってしまいました!」


それを聞いたイワナガは少しイラだった。


「私のではなく、のであろう、……それに私達はサクラ様のの存在だ、そもそも私達はサクラ様の霊気と高天原たかまがはらにいた神の者と融合して作られた特別な式神…、どちらかと言うとがサクラ様の物なんだ、そうであると言う事くらい分かっているのかサクヤ?」

「そんな事はどうでもいいじゃないですか! イワナガ姉様! 今が大切なんですよ! ! サクラ様の戦うお姿を見れるとゆう事が大切なんです!」


その姿を見たイワナガは呆れていた。


「……はぁ…まったくこの子ったら…」


持っている扇子せんすを頭に当て呆れるイワナガ。


(サクラ様が戦う度にこのテンションになるのは流石に姉として嫌気がさす…)


「……これで分かったか十六夜? …私とお前ではそもそも格が違い過ぎる」


(…相変わらずバカみたいな霊気の質量、神格化無しであれ程の力…これでもかなり修行したと思っていたのだけど…サクラとこんなにも力の差があるなんて…! しかしそんな事言ってられない、ここから更に攻める!)


攻めの構えを見せた十六夜は、言霊ことだまを唱え始めた。


天道てんどうきらめ水星すいせいの星よ、我が天道てんどうの大地に恵みの雨を……海王星かいおうせい…龍水!」

「…今度は水の天道か…」


十六夜が二つ目の天道てんどうを空高く上げ言霊ことだまを唱えると、その天道てんどうが次第に膨張していき、中から龍の形をした水を呼び寄せた。その無数に表れた龍達は一斉にサクラの元へ飛んでいく。次々襲いかかってくる水の龍達をサクラは神門山みかどやまふもとへと移動をしながら、持っている刀で切り伏せていく。


(追尾型の水の龍か……鬱陶うっとうしいな……)


「これだけじゃないよサクラ!」


十六夜は、更に言霊ことだまを唱え始めた。


天道てんどうに吹きし大いなる風よ、その刃にて全てを切り裂かん、木王星もくおうせい極散大赤斑きょくちだいせきはん! 更に!天道てんどうを天高くから照らす大いなる光よ…全てを溶かす熱き世界へいざないたまえ! 太陽星たいようせい……炎気燋爛えんきしょうらん! おまけに! 太陽星たいようせい火炉拿埜コロナフィールド!」


十六夜は自分の持っている天道てんどう全てを使いサクラに攻撃した。木王星もくおうせいからすさまじい風が吹き荒れ、徐々に大きな台風の目の様な塊に変わっていく。その形が形成された直後十六夜は、台風の目に高熱の光の玉を照らし合わせた。更に十六夜はサクラに向かって円形の炎を広範囲に広げ、サクラを閉じ込め、作った高熱の台風の目を中に入れた。そしてその台風の目が収縮すると同時に大爆発を起こす。その爆発の勢いでサクラを閉じ込めていた円形の炎も大爆発し、二重に大爆発を起こした。その影響で辺り一面、青々生いしげっていた綺麗な大地はほとんどなくなっていた、それは広範囲にまで影響を及ぼしていた。


「サクラ様!!」

「くッ! サクヤ! 馬鹿者! 今サクラ様の所に行くのはやめろ!! お前まで巻き添えをくらう!」


十六夜のすさまじい攻撃に思わずサクヤはサクラの所へ行こうとしたが、イワナガに止められた。しばらくそこ一帯は爆発の影響で土煙が立ち込めていた、その威力は

イワナガでさえも目に余るものであった。


(この攻撃なら流石のサクラも……)


しばらくの間、神門山みかどやまの近くは静けさが戻っていた、土煙がまだ舞う中イワナガとサクヤはサクラの身を案じていた。そして徐々に土煙は落ち着いていき、辺りが見えるようになってきた中、そこに一人たたずむ影が見え始めた。それは紛れもなくサクラの姿だった、その身は一切の傷すらついておらずサクラは無傷であった、土煙がまだ少し舞う中、サクラの放った斬撃が十六夜目掛け飛んでくる。


「なッ!! あれ程の大爆発で無傷!! はっ! うぅっ!!」


無傷のサクラを見て十六夜が困惑していた時、不意に飛んできた斬撃が十六夜の体に当たり、傷を負った十六夜から多量に血がしたたっていた。自分の最大攻撃を全てしたのにもかかわらず、サクラが無傷であるとゆう事に驚きを隠せなかった、驚いたのは十六夜だけではなかった、近くにいたイワナガやサクヤでさえ驚いていた。だがその後サクヤは手を口元にあて涙を流し喜んでいた、イワナガも無事を確認し安堵していた。


「よかったサクラ様!本当によかった!」

「はぁ…流石の私もあの攻撃には冷えを覚えたぞ」


土煙が無くなった後、サクラは静かに十六夜の元へ歩いて行く。


「なぜあれだけの爆発の中…!?」


納得のいかない十六夜はサクラに問いただした。


「…簡単な事だ……あの攻撃によって爆発が起きる直前に、結界を張った…とゆうだけだ」

「なっ!? 結界で防がれる程私の攻撃は──!!」


そこへ十六夜の言葉に被せて答えるサクラ。


「元々私とお前では霊気の質そのものが違い過ぎる…お前程度の霊気では私の結界を破る事はそもそも出来ない…」

「くッ!!」


しかしサクラはさっきの攻撃を軽んじる事はしなかった。


「…しかし随分面白い攻撃を覚えたものだな十六夜……久しぶりに私は楽しめた……が、そろそろ時間切れのようだ……何人かここへ向かってくる者達がいるようだ、悪いがこれ以上お前に構っているほど私は暇ではない、この一撃で終わらせる」


サクラはそう言うと、手に持っていた刀を収め、腕を真横に伸ばし霊気を集中させた。すると小さな空間が出来上がった。サクラはその空間に手を伸ばし赤く燃える様な刀を取り出した。それを見たイワナガとサクヤは驚き始めた。


「イワナガ姉様! あれは!」

「…鬼神刀きしんとう…サクラ様が持つ七本の刀の内の一つだ。あの刀は普通の刀と違って、ご自身の治まりきれない霊気の分を封じ込めて作られた強力な刀だ、しかしあれを神格化なしで扱うのかサクラ様は…」


サクラが鬼神刀きしんとうさやから抜くと、赤色をしたとてつもない霊気が辺り一面に漏れ出した、それを見た十六夜は自分の死を受け入れざるを得なかった。


「…最後に私に言う事はあるか…? 神格化していない私は鬼神刀きしんとうの力をうまく制御しきれない、悪いが手加減は出来ない…」

「……私が死んでも、私の代わりにいつかあんたを倒す者が必ず現れる、私は先にあの世に行かせてもらうけど…いつの日かあんたが来るのをずっと待っている、でも鬼神刀きしんとう…その刀だけでもあの世に持っていかせてもらう、私の最後の力で!」


そう言った十六夜は、持っている刀の刀身に自身の霊気全てと天道てんどう全ての力を注いだ。


(…私の最後の型技……これで決める…)


十六夜は目をゆっくり閉じ、静かに息を吸った後にその息を吐いた。そして目を閉じたまま言霊ことだまを唱えた。


「…天道てんどうつかさる全ての星々ほしぼしよ……全ての時をきざみし星の生を止め、やいばつどえたわまし…… 」


すると十六夜の持つ刀から鬼神刀きしんとうに負けないくらいの青紫色をした霊気が漏れ出した。その霊気を見たサクラは目を閉じ笑みを浮かべた、久しぶりに強者と戦えた事が嬉しかったのか、サクラは手を抜かず鬼神刀きしんとうの霊気を更に上げたのち目を開いた。そして両者しばらくにらみ合いが続いた後、十六夜から動きだした。十六夜は刀を両手に持ち、その後思いっきり刀を振った。


極超新星きょくちょうしんせい天衣無縫斬てんいむほうざん!!」


それと同じくサクラも刀を両手に持ち、思いっきり刀を振った、二つのすさまじい霊気の斬撃がぶつかり合う、十六夜は最後の力を振り絞るように霊気を出し放っている。しかし無情にも十六夜の放った斬撃がサクラの斬撃に消し飛ばされ、そのまま飛んでくる斬撃の光が十六夜を包み込み十六夜は消えた。それと同時にすさまじい爆発音が辺りに響いた。土煙が舞う中サクラは十六夜の元へ歩いて行く。そこに血だらけで倒れ込む十六夜を見つけたサクラは生死を見極めていた。


未だ十六夜のいる神門山みかどやまふもとに着かない桜花はなにかを感じ察したのか、自然と涙がこぼれていた。


(……!!十六夜ちゃん……)


かろうじて息のある十六夜が桜花の名前を呼ぶ。


「……桜……花……」

「……まだ息があるか…しかし私が手を下す必要はもうなさそうだな…」


サクラは十六夜の生死を確認すると、鬼神刀きしんとうさやに収め、空間の中へ戻した。その光景を見ていたイワナガとサクヤは呆然ぼうぜんと立ち尽くしていたが、サクラに名前を呼ばれ我に返った。


「イワナガ、サクヤ、行くぞ……」

「はっ、はいサクラ様」

「わ、分かりましたサクラ様」


サクラ達はその場を後にし、魂鎮たましずめの祭壇さいだんを壊した。そして勾玉門まがたまもんを開け高天原たかまがはらの世界を後にしようとした瞬間、竹林の奥深くから天高く届いている光の柱が現れた。その霊気に気が付いたサクラ達は光の柱が出来ている青空を眺めていた。その光を見ていたのはサクラ達以外にもいた、高天原たかまがはらに住む者のほとんどがその光の柱を見たのである、そこにサクヤが問いただす。


「サクラ様、あれは…いったい…?」

「……天照あまてらすの光……」

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