繋がり

 私の家庭環境、もとい人間関係は人に比べて恵まれた方だと思う。両親は愛をもって育ててくれたし、友人はよくつるんでくれた。いじめにも遭遇しなければ、生活に困ったこともない。

 しかし私の心が欠けているからか、それで幸せだと思ったことはない。両親の愛は私には届かなかったし、友人と遊ぶより一人で遊ぶ方が好きだった。私のためにしてくれたことに感謝する心を持ち合わせていなかったのだ。


 そんな人間が歳を取ればひねくれていくのは当然であり、拗らせていけば人との理解は得られないことは当たり前だった。理解を得られない人は集団に属すると孤独に苦しむことになる。これまではその孤独に我慢していったが、私は弾けた。


 高校三年の夏、私は学校を退学した。



 自宅から十分歩いた先の駅から三駅離れた繁華街に私はいた。今は平日の午前なので私のような若い男がいたらおかしい話だが、もう学校は辞めてしまったので理屈として何もおかしくはなかった。


 学校を辞めた経緯として、その数日前に私は無断で学校をサボった。いつも通り登校していたら何やら気が変わり、降りる駅を変えてそこから新幹線で県外まで遠出した。その先で遊び歩いた後、夜に家に帰ると両親は鬼の形相をしていた。

 理由を説明すると両親は心配した。何か嫌なことでもあったのかと聞かれた。特に嫌なことがあった訳じゃないが、なんとなくいつものように学校に登校することに嫌気を差したのはあったのでそれを隠して普通に振る舞った。それから私は学校を退学することを決める。


 街を歩いていると友人からメールが届いた。私は読まずにメールを削除した。


 学校を辞めたこと、まるで今までの関係を清算するかのようだった。全部整理して、終わらせるかのように。



 私は人でなしだから、人といても楽しくはなかった。


 昔から周囲に人はいた。慕われていたかどうかはわからないが、なんとなく人が周りにいた。それが鬱陶しかった。どんなに離れていてもずっと人が付いてきそうで怖かった。


 昔遊びの誘いを断って一人で遊びに出掛けたことがあった。その方が気楽だったからだ。人といると人として振る舞わないといけないし、笑わないといけない。人と関わるには、それ相応の無理をしないと関係は築けなかった。


 学校を辞めたとき、誰もが心配した。ストレスがあったのか、精神を病んでいたのか。しかし、私は正常だった。しかし私の正常は、人の普通ではなかった。辞めたのだってただどうでもよくなっただけだ。学校でも、社会でもこれから人と関わることは増える。死ぬまで人と関わることが嫌になった。


 だから、綺麗に終わらせたくなった。


 私はビルの屋上に来ていた。これから自殺するため。無駄なことを終わらせるためにここにきた。しかし、それをするには人間関係を清算する必要があった。

 人でなしでも、一応その辺りは気にする。自分を気にかけてくれる奴がいる状況で死ねるわけがない。だからここ数日人との関係を断っていた。皆私を忘れるように。


 その点で言えば両親だけは別だが、まあその辺りは言っても仕方ない。親不孝を許してもらう他はない。

 屋上から下の景色を眺める。この高さなら死ねる。柵に手を掛けたとき、電話がなった。相手は友人だった。電話に出ると


「あっ!やっとでやがった。おめーさっきはよくもメール無視してくれやがったな!ジュース奢られてやるから今から駅に来い!以上!」


 そう言うだけ言って電話が切れた。奢らせてじゃなくて奢られてって言う辺りが奴らしい。

 自殺を邪魔された怒りもあったが、なんだか興醒めした。それに久しぶりに人の声を聞いた気がする。人は自分に対して声をかけると死ねないらしい。

 自殺は後にすることにした。とりあえず今日のところは奴に感情でもぶつけないと気が済まなくなったからだ。


おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

-USS- シオン @HBC46

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ