第6話村上ヒロミチの秘密

 ★姫野城視点


 剣道の授業からその後は、村上くんの話題で持ちきりだった。それも当然だろう。


 このような言い方は失礼だと思うが、私の目から見れば村上くんはパッとしないどこにでもいる普通の男子高校生だ。


 そんな村上くんが、猿山くんはおろかあの鬼瓦先生に勝負を挑み勝ってしまったのだ。

 私は前日までの村上くんを思い起こそうとするが、当然親しくもなくあまり話をしたこともないので断片的にしか思い出す事ができなかった。


 私だけではなくこのクラスのほとんどの人が、私と変わらない意見だろう。

 現に村上くんの友達である三枝くんも、戸惑いを隠せていない。この一晩で、一体何があればあそこまで変われるのか・・・。


 ★


「だああっ!何やってんだ俺っ!?」


 学校が終わり帰宅した俺は、身悶えながらベッドの上をゴロゴロと転がっていた。1日を振り返ってみれば、なんとも痛々しい。


「・・・帰還したばかりで、異世界のノリが残ってるな。」


 自重しなければと反省し、またゴロゴロと転がる。


「なんだよ、大事な人達を守りたいって。この世界に魔物はいないのに・・・アホか俺は。」


 ボフッと枕に顔を埋めて呟く。


「過剰すぎるなこの力・・・。とにかく気を付けよう。」


 ★姫野城視点


 帰宅後、私は境内に取り付けられた防犯カメラの映像を見ていた。昨今、賽銭箱を盗む不届者が多く我が家が管理するこの神社にも防犯カメラを取り付けたのだ。


 録画された映像を朝まで戻す。


「あった。・・・これはっ!」


 ★


 帰還2日目、俺は昨日と同じように転移で学校へと向かった。登校に片道1時間かかると思うと、転移だけは自重できそうにない。


「村上くん、ちょっといいかしら?」


 教室に着くなり、我が校のアイドル姫野城さんからお声がかかる。その時、一瞬クラス内がざわついた。


「何かな?姫乃さん。」


 俺の言葉に、さらにクラス内がざわついた。


「・・・何故名前呼びなのかしら?私と村上くんはそこまで親しい間柄ではないはずよ?」


 おっと、あっちの世界では名前呼びが主流だったからな、気を付けよう。


「気に触ったなら謝るよ。ちょっとしたクセでね。」


 クセってなんだよ。とか誰かつっこめよ。


「別にどちらでもかまわないわ、ちょっとびっくりしただけだから。」


 しょうもない事を考えていると、意外とOKが出てしまった。


「それよりも今日の放課後、時間あるかしら?」


 その言葉に、クラスは一瞬静まり返りその後一際大きなざわめきが起きた。


 余談だが、猿山の姿は見当たらない。


 ★姫野城視点


 放課後、校舎の屋上へと呼び出した村上くんと向かいあう私。


「村上くん、これを見てくれないかしら?」


 差し出したスマホを見ても、村上くんの顔色は変わらず、


「なるほど・・・。これは盲点だったな。」


 と呟いただけだった。


「これはどういうことなの?」


 スマホに映るのは、何もない誰もいない場所に突然現れる村上くんの姿。私は防犯カメラの映像をスマホに移し、村上くんに見せたのだ。


「ウーン・・・。それを知って姫乃さんはどうするの?今の時代こんな動画はいくらでも捏造できるし、トリック動画だなんだと言い逃れはできるんだよ?」


 どうやら村上君は勘違いしているようだ。この動画で、私が村上君を脅迫するとでも思っているのだろう。


「村上君、私が言いたいことはそういうことじゃないの。どうして・・・あなたはを使えるの?」


 私の言葉に、村上君は目を見開いた。


「姫乃さん、君はもしかして・・・。」


「村上君の考えている通りよ。・・・私も


 ★正宗・環・知恵視点


「なんか告白って雰囲気じゃないね。」


「そうだね・・・。けど姫野城さんはヒロミチと何を話してんだろう?」


「な、なんでしょうかね?」


 屋上に出る扉から、こっそり覗きながら三人は思考する。


「姫から男子に声かけるのはとっても珍しいよ。1年に2回あるか無いかだよ。」


 付き合いの長い知恵が言うのだ、余程の用事があったのだろうが、それは告白では無いようだ。


「そ、そうなんですか?」


「うん。っていうか楠さんは何で敬語なの?」


「あわわ!・・・私は、その、これがクセでして。」


「そうなんだ。楠さんって、なんか面白いね!」


「ちょっと二人とも、静かに。」


 二人を嗜めながら、正宗はヒロミチと姫乃の二人を凝視している。そのさまを見た知恵と環はこう思った。


「まるでストーカーだよ。」
































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ある勇者の帰還~村上ヒロミチの場合~ 日進ニ歩 @hiiro-y

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