「魔法使い」と呼ばれた調香師である祖母の工房を受け継いだ仄香。ある日工房に隠された「十戒」と名付けられた10本の香水を見つけたところから、日常を揺るがす事件に巻き込まれていきます。
ファッションの一部というだけでなく、ひとの精神や神経にも深く作用する「香り」。
この小説では、人智を越えたミステリアスな力を持つ「魔香」の謎を追うストーリーの中に、香りの種類や作用はもちろん、香水の原料や歴史、保存法、さらにはフェロモンや嗅覚に関する知識など、関連する様々な教養がちりばめられています。
また、作中の重要なモチーフである、旧約聖書の「モーゼの十戒」の物語での展開の仕方も面白く、物語全体の独特な世界観を作り上げています。
謎の「十戒」を中心に妖しげな雰囲気を醸し出す本作ですが、いいバランスだな、と思うのが、仄香と幼馴染・郁の関係性。互いを想い合いつつ揺らぎのなかにいるふたりの関係……絶妙! 多感な高校生の心情を丁寧に追った学園ものとしても楽しめます。
現在連載中の本作。ますます深まっていく「十戒」の謎とともに、幼馴染の関係のゆくえにも大注目しています。
(「謎解き+教養! 知的ミステリー」4選/文=ぽの)