人は光り輝くものをありがたがり、道端に落ちている石ころには目もくれない。
キャリアやブランドをありがたがり、それに群がる人間たち同士が馴れ合い、媚び合い、輝かしい将来のため、上へと登っていく。
資本主義において、上に立つ人間が放つ正論はあまりにも辛辣だ。何故なら、綺羅びやかで人が集まり賛美するものが正義であるから。正論は、弱者を簡単に切り捨てる。
一方で、そういった世界では人が目を背け、侮蔑の対象とする落ちこぼれたちに居場所はない。
出世街道から外れた主人公がこの町で多くの今を生きる人たちに会い、関わりの中で、人情に浸っていく。この空気感が僕は好きだ。
最後の、広中が西成を認めている描写で救われた。広岡は悪いやつではないのだろう。そもそも、悪いやつなんていないのだろう。ただ、皆立場があり、それぞれの生き方があるだけだ。僕も、欲望を叶えることが悪いことだとは思わない。
それでもやはり、上へ上へと背伸びをする社会は少し辛い。
向上を求められる世界の中で、停滞を許してくれるこの町の優しさは、今の時代、あまりにも尊い。