最終話 一先ずは大団円

最終話 一先ずは大団円


 上空から見ると戦場全体がよく見渡せる。戦場の中心はグージェルと黒曜たちの戦闘の場で、人間たちはそれを取り巻くように離れている。

 それでも総崩れというわけではない。

 陣形の立て直しに奔走している人が見える。


「一番しっかりしているのは王様か?」


 多分そうなんだろう。その一番しっかり武装した集団が中心になって軍の再編が進んでいた。中でも壮年の男性が声を張り上げ、身振り手振りで周辺を指揮している。

 今まで縁がなかったがこの国の王様、意外としっかりした人なのかも。


 無秩序に走り回っていた兵たちがその集団に吸収されて陣形が整っている。

 少し後ろに衛生兵のような集団も展開している。


「うん、悪くないね、なかなかやるじゃないか」


 おもしろいのが戦場に近い位置にいる兵士たちだ。

 先頭を放棄しているというか戦闘よりも応援に力を入れているみたいだ。

 肩を組んで声を張り上げて。


 彼らはすでに戦力ではないだろう。

 だが彼らから発せられる魔力は祈りに似ている気がする。

 こういうのを見るとここが本当に異世界なんだと思える。


 さて、なんで俺が暢気に周辺を観察しているかというともう一度感覚を加速する時間が必要だったからだね。

 さすがに瞬時に加速とはいかないみたいだ。


 かなり上空に移動するのに時間がかかったのもある。


 その間黒曜とイアハートがグージェルの足止めをしてくれている。

 戦闘に関してはほとんど解禁状態だ。

 ありとあらゆる攻撃手段でグージェルを攻撃する。


 グージェルもグラビトンウェーブまで使うようになって、ここが天下分け目の決戦になってしまった。

 ここで仕留められないと世界は大変なことになってしまう。


 俺の攻撃もこれが最後だろう。

 一発ずつの狙撃では敵が固すぎる。だから残った三発。一気に使う。

 一発二発目を装甲の切り崩しに使って、三発目でコアを撃ち抜くのだ。


 真上からスローモーションで動く下の戦場を観察する。


「あ、上っていい」


 上下に展開しての空中戦というのは普通やらないよね。普通は横に展開する。でも横から狙うと射線によって障害物が発生するんだけど、真上だとまずそれがない。

 じつに狙いやすい。


 真下に向けてレールガンを構え、起動する。方針が展開し、力場が構築される。

 今回は最初から三連射。

 砲弾も三発、すべて出しておく。


 そして。


「主砲、斉射三連!」


 すみません、ちょっと言ってみたかったんです。

 一発目が発射された。


 超スローモーションで動くグージェルのコアに向けてどんどん進行するペークシスの砲弾。

 一撃目はやはり分厚い装甲にそらされた。

 だが装甲もかなり削れている。


 グージェルの反応を見て第二射を放つ。

 いくら超スローモーションだとは言え全く動かないわけじゃないんだ。どちらの方向に反応するのかは大事なことだ。

 動きを観察し、着弾位置を予測しての第二射はさらにきわどいところに着弾した。


 コアの周辺の装甲はほとんどがそぎ落とされてコアはむき出しと言っていい。


「勝った」


 そして第三射。

 引き金を引いたその瞬間…グージェルが加速した。


「え?」


 一瞬加速が解けたのかと思った。

 だがそんなことはない。

 黒曜もイアハートも静止したように見える。


 なのにグージェルだけが、グージェルと俺だけが動いている。


 そしてグージェルの腕が黒曜を弾き飛ばした。自分の上に、射線を遮るように。


「げっ!」


 すでに引き金は引いているので砲弾は動き出している。

 このままでは黒曜に当たってしまう。


 とっさにレールガンを動かした。

 ほんの数度。それだけでも射線は変わり、砲弾は黒曜をぎりぎり躱してグージェルにつき立った。


 砕かれていくグージェル。だがコアじゃない。胴体の下のほうだ。


「まずった」


 いや、これはグージェルをほめるべきか。

 グージェルの動きは…おお、まだのろい。

 加速もまだ半端みたいだ。


 無理矢理触手の一本を加速した見たい。だが多少の加速がかかっているのは間違いない。

 頭をこちらに向けてゆっくりと動き出している。


 困った。もう、砲弾が…頭から体を粉砕してコアを狙えるようなものが…

 ものが…


「ああ、あった。あれがあった」


 理不尽ナイフ。

 ペークシスよりも固く、ペークシスを叩きつけてもびくともしない謎物質。

 しかも刃もついてないのに何でも切れるというわけ分からんアイテムが。


「これって多分この世に一本しかない超貴重品だよね」


 これで倒せなきゃあとは知らん。


 俺は理不尽ナイフをレールガンにセットする。

 そして発射。

 さらば理不尽ナイフよ。


 それは油断。たぶん油断。

 今までの砲撃をしのぎ切ったから正面から受ければどうとでもなる。

 そう思ったんだ。


 だが理不尽ナイフはどこまでも理不尽だった。


 ペークシスとレールガンの合わせ技ですらそらせて見せたグージェルの身体は、使い捨てのカバーにすらならなかった。

 理不尽ナイフはありとあらゆるものを一直線に突き抜け、簡単にグージェルの核を貫いた。


 そして加速感覚が戻っていく。

 静止していた。


 グージェルが。


 グージェルを見るすべての人が。


 イアハートと黒曜がゆっくりと離れていく。


 パキンと澄んだ音が響いた。


 グージェルの核、むき出しになっていたそれが一瞬で曇り、割れて崩れていく。


 グージェルの身体も柔軟性を失ってぼろぼろと崩れて大地に降り注いでいく。


 その流れとは逆にグージェルの身体から、残っていた莫大な魔力が、これだけ削ってもこんなに残っていたのかとあきれるぐらいの魔力が天に登って広がっていく。


『残っていた魔力が天の龍脈に乗って流れていくね…いつか大地に降り注いで戻っていくんだろうさ…

 長い間ご苦労さんだったね。

 あんたの役目は終わったんだよ…』


 離れたところで『黒竜様万歳』『イアハート万歳』と叫ぶ声が聞こえてくる。


 状況もわかってないだろうにお祭り騒ぎだ。


『おわったー?』


「ああ、終わったよ、これで帰れる。というかしばらくぐーたらしたい」


『ぐーたらー、いたかったー』


 よしよし、好きなだけやすめ、回復魔法も魔力の譲渡もバンバンやってやるよ。お疲れさん。


 これで魔族と人間が共存できるようになる。なんてことは思わないけどね。人間をご飯と思っている魔族はいるわけだし。

 逆に魔物を飯の種と思っている人間もいて、でも一部だけ、共存に近い関係が作れる場所ができるかもしれない。


 お互いに敵でない関係のやつらもいるわけだしね。

 例えばあの温泉周辺とか、あそこら辺に。


 少しだけ暮らしやすいところがね。


『かえるー?』


「ああ、帰ろうか」


 しばらくゆっくりしてからこれからのことを考えよう。


 黒曜は俺の下をくぐり俺を首の後ろに乗せて北に進路を取った。

 しばらくグージェルに向けて祈るようにしていたイアハートも追いかけてくる。


 地上では人間たちが黒曜とイアハートに手を振っているのが見える。


 龍は友達みたいな感じなんだろうか。

 ボールちゃうよ。大丈夫?


 こうして俺達の戦いは一先ず終結したのだった。


◇・◇・◇・◇


 後日談というかその後の色々。


 まず帝国はやっぱり大型のフィールド型ダンジョンになってしまった。魔境というやつだ。

 場が不安定で探索体とか送り込めないのでこれから徐々に探索が進んでいくのだろう。


 最後にグージェルから放出された莫大な力は世界を満たした。多少は環境に影響もあったようだ。

 農作物が豊作になったり、動物が増えたり。


 魔物も増えたな。

 魔境の魔物で極端に強くなった魔物とかもいて、冒険者の人たちは大騒ぎをしている。


 ギルド主導で討伐部隊とか組まれて頑張っている。なんとかなっているようなのでいいだろう。

 手に負えないような奴が出るとうちに依頼が来る。

 もうそれだけでお金が稼げる。


 我が家としては現在引っ越しを計画中である。

 引っ越し先はラーン男爵領。


 あそこはイアハートの拠点と認識されて、共存のモデルケースみたいになっている。

 だがやはり強大な魔族。対抗戦力がないとまずいということらしい。

 つまり黒曜だな。


 イアハートはなぜか黒曜(ドラゴン様)の部下ということになっていて、魔族をあがめるのはいろいろ問題があるが、ドラゴンはまだソフトなんだそうだ。

 なので一緒においておくと『ここドラゴンの縄張り、手下色々』ということで無理なく収まるらしい。


 黒曜は普段北の魔境に暮らしていて、たまに人里にやってくる。という感じらしい。いや、表向きね。

 本当は俺んちで偉そうにしているよ。


 俺とネムと晶とラウニー、キオ以外は全部自分の舎弟だからな。あいつにとって。


 そう言うわけでいろいろ面倒なものは一か所にまとめてしまおうということらしい。


「一番扱いに困るのがあなただと思うわ」


 あー、まあ、俺のことはあとで考える。そのうち考える。


 ちなみにだがフレデリカさんも本格的に一線を退いて隠居生活をするらしい。

 俺たちと一緒に。


「あとのことはカウナックに任せたわ。もうのんびりしてもいいと思う。

 マリオン君カウナックの相談役お願いね。週に一回ぐらい飛んで行けばいいのよ、ちゃんとお給料だすわ」


 仕方ない。引き受けよう。

 一家の主が自由業というのもな。問題がある。

 魔物退治だと安定収入とはいかないからな。


 ちなみに魔物を狩ることに関して、イアハートの所にいる魔族たち的に問題がないらしい。

 同族というような認識はないんだそうだ。

 まあ、小鳥を食う猛禽も食われる小鳥も鳥類という意味では同じだというぐらいの感覚か。


 そんな感じで全体としては穏やかな日々だ。


 以前と違うのは魔境の魔物が活発になっているぐらい。

 なので友好的な魔族と共存しているこの辺りはいい環境と言える。


 王国のほうも手を出すつもりはないらしい。

 化け物を倒したドラゴン様の縄張りだから。


 俺ってばちっこかったから人間たちの目に留まらなかったんだよね。おかげて平和。


 そんなとこに大ニュースが。


「赤ちゃんができました」


「おおーーーーーーーーっ」


 ネムさん妊娠。

 これで第一夫人の地位が安泰。


 あんまり安泰なものでシアさん。マーヤさんの嫁入りが決まった。ネムが決めた。

 いいのかそれで?


 毎日ラウニーたちと楽しく遊び、嫁さんたちの相手をし、週一で空飛んでベクトンで仕事して、強力な魔獣だでたらみんなで出張。

 偶に行く温泉が命の洗濯。


 うん、忙しいが実に小市民だ。

 日本人的にいい感じ。

 こんな日々が続くんだろう。続けばいいな。

 ちょっと休みが増えるともっといいな。


 いや、子供たちが大きくなればそう言う感じになるのだろう。


「何言ってんですか、これから作るんでしょ」


 そうでした。今はまだ子作り頑張る段階でした。

 まあ、いいんじゃないかな。いいということにしよう。そうしよう。


 俺はいろいろなものから目を反らしたまま空を見あげた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 皆様、ありがとうございます。

 本作はこれにて完結となります。

 ここまでこれたのは皆さんの応援のおかげです。


 コメントを寄せてくれたあの方。この方。ありがとうございます。コメントがこの作品をここまで進めてくれたといって過言ではありません。

 感謝の嵐であります。


 ちゃんと書き切れたのはこれが初めてということで、感慨深いものがあります。

 登場人物たちに対して一つ、責任を果たせたような気がします。

 すぐにもう一本のほうも仕上げていかないといけないですね。


 そしてその後に別の作品を…


 人気作と言えるようなものではなかったですがとても楽しい作業でした。

 小説書きって本当にいい趣味だと思いますよ、ありがとうございました。


 また別の作品でお会いしましょう。お会いしたいです。ね。ね。


 ではもうすぐ2022年も終わり、皆様のご多幸をお祈りします。


 ぼん@ぼうやっじより、愛を込めて。



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異世界でシッポの可愛い嫁をもらいました。美少女です。 ぼん@ぼおやっじ @74175963987456321

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