第206話 グージェル戦⑤ 狙撃

第206話 グージェル戦⑤ 狙撃



 とりあえず肉弾戦で。

 すでに使っている重力でぶんなぐるとかは全然OKだ。


 あとブレスはファイアーブレスにしてもらっている。


『攻撃がほとんど届いていないね』


「そうなんだよねえ」


 どんな攻撃も斥力場ですべて押しのけられている。

 だけで悪くない。


 黒曜の攻撃を受けるたびにグージェルは防御力場でそれを押しのけ、大量の魔力が使われるたびにコアから魔力が補給されていくわけだ。つまり力の出所がはっきりと分かる。

 しかもファイアーブレスが意外といい仕事をしている。


『元が樹木だからね、本能的に力が入っちまうんだろうね』


 しみじみと口にするイアハート、いったい何を思うのか。

 袂を分かったとはいっても友人だったみたいだしね…何か思うところはあるんだろう。


 さて、じゃあ、第一射、言ったみようかな。

 俺はレールガンを構えた。

 長い砲身が三つに分割し、その中に力場が生成される。そこにペークシスで作られた砲弾をセット。

 全部で六発しかないから…ちょっと不安。


『黒曜、俺とグージェルの間に入ってくれる? そんであいさつしたらさっと逃げるんだ』


『わかったー。こいつ硬くて嫌い』


 そらそうだろうね。


 黒曜が俺の射線上に入り込み、大きな声で威嚇する。


 クルオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン。

 とかっこいい声が響く。

 聴衆というか地上に展開している兵士たちも歓声を上げているが、言葉の意味は『ばーかばーか』だったりする。


 うん、家の子はいい味出している。


「はい避けて」


 同時にシュドンという発射音。

 マッハ20ぐらい(たぶん)の砲弾が飛翔する。距離的には数百mだからほとんど一瞬だ。


 つい一瞬前まで黒曜のいた空間を引き裂いて砲弾がとぶ。その砲弾は予定通りグージェルの斥力場を無視してその身を引き裂いた。

 肩のあたりから入り、胸まで、バキバキ、メキメキと大木をなぎ倒すような音を響かせてグジェルの身体が砕けていく。

 数メートルからある木片が大地に落下して地響きを立てた。


 だが残念なことにコアまでは届かなかったようだ。


「魔物のコアって意外と小さいよね」


 移動する飛行目標の中の、ほんの小さなコアの狙撃なんて簡単に行くはずがない。

 だがダメージは与えたな。

 力場を引き裂かれ、これだけ身体を削られればそれなりに…


「よし、結構魔力量が減っている」


『また逃げるんじゃないのかい?』


 グージェルの力は前回逃げたあたりをすでに下回っていた。その所為だろうか、また地面にラブコールしているみたいだ。


『黒曜はそのままブレス攻撃』


 逃がすわけにはいかない。逃げられたらまたやり直しだ。

 俺はもったいないけど次弾を装填し、即座に第二射を発射した。今度は横から胸のあたりを貫通する攻撃。

 一応コアを狙ったんだが…まあ、外れたね。

 だけど目的は達した。


 グージェルは既に頭を地面の中に突っ込んでいたんだけど、そこに攻撃を受け、のたうちまわった拍子に地面を砕いてまた外に飛び出してきた。


「よしよし」


 そこに黒曜の連続攻撃。

 魔力の反応が立て続けに起きたことでコアの位置も大体正確に捉えることができるようになった。

 あとはただ撃ち貫くのみ!


 ただチョロチョロされると困るんだよね…


 よし、俺は龍気鱗を展開して魔力回路の魔力を強化した。

 身体強化作用が発動する。

 防御力も上がるけど今回の目的はもっと内的なものだ。

 つまり感覚の加速。


 レールガンの発射準備を終わらせて、感覚が十分に加速するのを待つ。

 グージェルの動きが次第に遅くなっていく。

 いや、グージェルだけではなくすべての動きが遅くなっていく。

 俺の時間間隔が加速するからだ。


 弾速がマッハ20もあれば、この加速空間であれば狙撃もできる。


 グージェルの動きが完全にスロー、というか超スローになってから俺は引き金を引いた。

 時速数十キロで動く目標を時速24,500kmで狙うわけだ。

 グージェルの動きはほとんど止まったようにしか見えないのに砲弾はどんどんグージェルのコアに向かって進行していく。


 敵の防御力場をやすやすと貫き、その身を貫いて…


「うそ、外れた!」


 砲弾はコアを外してしまった。


『どうなったんだい?』


 イアハートの質問の俺はこたえる。

 力場を切り裂き、グージェルに弾が食い込むまでは問題なかった。

 だがグージェルの身体を砕き進む砲弾は次第にコースを変え、コアを霞めるようにそれてしまったのだ。


『そりゃたぶんグージェルのやつがやたら頑丈だったからだね。昔からあいつの身体は金剛石かってぐらいに硬いんだ。

 それが何層も何さうも積み重なってあいつの身体を作っている。

 多分一枚一枚を撃ち抜いているうちに少しずつコースがずれてしまったんだろう』


「あーあーあれか、濡れた新聞紙が最もよく刃物を止めるとかいう」


 なんかで見たような気がする。

 そうなんだよ、雑誌とかってペラペラの紙の集まりのくせにくぎとか簡単に打てないのだ。切るのも大変。濡れるとさらに。

 さすがにけんじゅうは試したことないけど、あの調子ならかなり防御力が高いかも。

 というか固い樹皮の層を撃ちぬけなくてそれてしまったのか…


「よし、もう一度」


 と思ったら今度は俺の位置がばれたね。

 こっちに向かってくるわ。


『まかせるー』


『まあ、何とかするよ』


 おお、持つべきものは友だ。

 黒曜が脇から突進してイアハートが援護に回ってくれた。


 よし、次こそ決める。


「ってなればいいけど」


 俺はいったん上空に逃げた。


side ある兵士。


 天は我らを見捨ててはいなかったね。

 化け物はドラゴン様より大きかったがドラゴン様もぜんぜん負けてなかった。


 化け物が六本の触手でドラゴン様に殴りかかって、しかしドラゴン様の周りに浮いた妙に暗い影のようなものがそれを打ち払う。

 蠢く触手を打ち払い、化け物本体も滅多打ちにする。


 さらにはドラゴン様が吐くファイアーブレスは化け物を怯ませてダメージを与えているように見えた。

 一進一退の攻防。


 そのうちドラゴン様の咆哮が響いた。

 スゲーかっこいい声だ。さすがドラゴン様。


 地上の兵士たちはさながらドラゴン様の応援団のようだ。

 その咆哮がとどろいた次の瞬間化け物がドカンと弾けた。


 何本もの触手がはじけ、胴体が爆散した。

 いくつもの巨大な破片が降ってくる。

 ズズン、ズドンとすごい迫力だ。


 俺のそばにも破片が降ってきて俺はコロげた。衝撃だけで転げた。


 だが幸いケガもない。

 近づいてみると欠片はまるで木のようだった。

 まさか、あの化け物、木でできた鎧でも来ているのか?


 その後もドラゴン様の攻勢は続き、化け物は削られた。

 いけるんじゃないか? 行けるよね、これ。


 そのうちもう一匹魔物が参戦した。

 あの姿って聞いたことあるぞ。


「おいあれって」

「天翔ける裂爪じゃないか」


 超有名な魔獣だった。

 知性が高く、人間との対話すらするという賢い魔獣だ。しかもものすごく強い。

 なので人間との間でほとんど相互不可侵みたいになっているやつだよな。


 それがドラゴンと一緒に化け物と戦っている。


「いいぞー」

「さすがドラゴン様だー」

「あんな魔獣まで配下にしているなんて!」


 なるほどそういうことか。

 さすがドラゴン様。新しい時代の幕開けなのかもしれないな。


 まあ、生き残ったらな。


「ばんばれーーーっ」


 応援だけは全力でやるぜ。



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