第205話 グージェル戦④ 陽動

第205話 グージェル戦④ 陽動



「ずいぶん回復したね…」


 俺は王都の南に広がる田園地帯。そこを見下ろす丘の上で状況を確認していた。


「だけど最初ほど圧倒的な感じはないさね」


 そう言ったのはイアハートだ。

 イアハートもグージェルの復活を感じ取ったようで奇しくも合流という形になった。


 そのグージェルだが確かに回復して復活していた。

 その後砦を飛び越えて、その後ろに展開していた貴族連合軍に襲い掛かったらしい。


「おそらくまだ回復が万全ではないんじゃろうね、いや、お前さんの話からするともう完全に回復することはないのかもしれん。

 だから人間を襲っているんじゃろう」


 人間は魔力回復に役に立つらしい。

 そう言えば黒曜も魔力を補給するために魔物だの食い荒らしていたよね。そんで人間に町に来るとまずいってんで戦闘になったんだ。


『なに?』


 もう気にしてないというか記憶もないみたいだけど。

 グージェルも魔力を補給するために人間を襲っているのだと思われる。


 砦は無視されたみたいだが、砦にいる人間よりもこちらで展開していた軍の方が人数が多いからだろう。それにこっちは魔法使いとかかなりいるみたいだしね。

 ただ戦闘にはなっていない。

 はっきり言うと相手にされていない。


 あいつの戦闘力なら貴族軍なんか簡単に薙ぎ払えるだろうに、どんな攻撃を受けても意に介さずに兵士を、押し楽魔力の高い兵士を捕食するのに専念している。

 そして捕食のためか、大規模な攻撃は繰り出していないのだ。


 なので貴族軍の被害も大きくはなく、何とか戦闘の態を保っている。


 それでも一部が後退しているのは…


「王様じゃないかね」


 俺も目に力を入れて確認してみる。なんか偉そうなおっさんが周りの人に運ばれていくのが見える。

 あれが王様なんだろうか?

 なんか荷物みたいにかつがれていくな。しかも結構扱いがぞんざい。

 うーん、俺も王様なんぞ見たことないからな…


 ああ、もちろんただぼけっと見ているわけじゃないよ。

 ちゃんと準備を進めている。


 レールガンの調整も万全だし、砲弾の準備もできた。


「あとは黒曜の活躍にかかっているね」


『おれはやるぜ、おれはやるぜ。たのしー』


 横を見ると妙に楽しそうに飛び跳ねる黒曜がいる。やる気が漲っているみたいだ。


「それだけに不安だ」


「まあ、問題あるまい。とにかく全力で攻撃してくれればいいんじゃからの」


 なぜそうなるかというとそれはグージェルのコアを攻撃するためだ。

 魔物を倒そうとした場合、一番いいのはコアの破壊だろう。


 いや、普通は現実的じゃないんだよ。

 コアってのはかなり丈夫で普通の戦闘で破壊できるものじゃないし、第一素材の中で一番高く売れるものだ。

 なので普通はコアを破壊しようなんて考えるやつはまずいない。


 だが今回は撃破が最優先。しかもやたらしぶといと来ている。

 コアを破壊できればそれで完全撃破。それを狙うべきだろう。


「というかそれ以外の方法であれを倒すのはものすごく手間だと思う」


「そじゃな」


 そこで問題になるのかコアがどこにあるのか。

 おそらく胸のあたりというのは分かっているのだ。

 なぜなら前回の戦闘の際にイアハートがグージェルを観察していたから。


 グージェルは攻撃を防御するときとかつらい力を使うときとかコアの部分に力が集中することが分かったのだ。

 これはあとから話を聞いてよく見ていたなと感心したような話なんだけどね。


 なので黒曜が全力で攻撃して、コアの位置を特定。

 その後レールガンでコアを狙撃。これを撃破。というのが今回の作戦なのだ。


 胸の位置だと分かっていれば狙撃すりゃいい? なかなかそうもいかないのよ。

 巨体の魔物ってのは本当に大きくて、胸の部分だけでも数メートルからあるんだから。


 そんでもってこっちが使う砲弾は直径で6cmぐらいだよ。

 山はって撃ったってあたらんよ、マジで。


「おや、動くよ」


 イアハートの言葉で戦場をみる。


 地上に降りて蛇のように行動していたグージェルが飛行体制に移るようだ。

 つまり周囲の人間が倒れたり逃げ散ったりしていなくなったので場所を変えるということだな。

 地上にいられると大技が使えなくて手が出せなかったんだ。


「よし、黒曜、頼むよ」


『わーい、おれはやるぜー』


 俺の合図で黒曜が引き絞られた矢が放たれるように飛び出していった。

 高速で飛翔しながらその姿を龍に変えていく。

 一直線に飛んでいくその姿は本当に矢のようだった。


side ある兵士


 とんでもない化け物との戦闘に駆り出されてしまった。

 いや、俺だって軍人だ。

 戦って死ぬのはしごとだと了解はしている。

 命を的の商売だ。それを知っていて軍人をやっているのだ。


 あまり給料は高くないよ。ただ年金が付くからな。引退まで勤めれば生活にくろうはなくなるだろうし、もし、戦死しても遺族年金で子供たちが暮らしていくのに困るような事はないだろう。だからやっているのだ。


 まあ、冒険者とどちらがいいかと聞かれれば難しいな。

 あっちは実力がないと老後が立ちゆかないが、実力があれば一攫千金だ。

 俺の実力じゃ、職業軍人がいいところだと思う。


 ただこれはないだろう。と、今回の戦場では思わずにはいられなかった。

 うちの侯爵様は王都を守護するお役目の貴族だ。だから王都が危なくなれば戦場に立つのが当たりまえ。

 いやー、根性なしだと思っていたんだけど、意外とやるもんだね。

 ただ戦う相手は頑張れば勝てる相手であってほしかったよ。


 巨大な蛇のような胴体から生えた六本の触手、いびつな翼、そしてまるで花のような顔。

 動物だか植物だか分からない歪な魔物。しかも空を飛んでやがる。

 空を飛ばれると攻撃なんてしようがないじゃないか。


 降りてこーい。


 と思ったら本当に降りてきた。いやだなあ、本気にしないでいいのに。


 うちの軍じゃないが、兵士の密集したあたりに降り立って蛇のように行動して人間をピックアップしてぱくっとやりやがる。

 最初は懸命に攻撃していたその部隊も全く攻撃が通らないので逃げ散っていく。

 そうするとこの化け物は空に上がって次の目標に移動するんだ。


 いやー、迷惑な引っ越しもあったもんさ。


 あっという間に地上は混乱状態。

 お貴族様が声を張り上げている。


 そんで理由が分かった。逃げたら身の破滅だー。とか言ってやがる。

 まあ。王都防衛任務なんだから逃げたら家もつぶれるよな。

 話じゃ王子とか王女とか疎開させたって言うし、つまり負けても王国はなくならないのよ。

 となれば敵前逃亡はデッドエンドだ。いやー、困ったね。だから貴族様たちはあんなに必死なんだ。

 王様も前線に…あっ、少し後ろに下がったのね。


 逃げ散るやつらと魔物に向かうやつらとが入り乱れてみうごきが取れない。

 そうこうするうちに化け物がこっちに来やがるじゃないか。

 今度はここが食卓か?


 ヤベー、大混乱で逃げられねえ。


 おおう、近くで見るとこんなにでかいのかよ。こりゃ死んだな。


 そう思ったときまだ空にいる化け物になにかが体当たりした。結構吹っ飛んだぜ。

 助かった。マジで助かった。


「ドラゴンだー」

「ドラゴンが助けに来てくれたぞー」


 あっ、本当にドラゴンだ。こっちもでけえ、しかもこっちは黒くて輝いていてなかなかかっこいいじゃないか。

 まあ、ドラゴンが人間を助けるという話は聞いたことが…まあ、たまにあるらしいが、それは個人レベルだな。軍隊を助けたとか言うのはないと思う。


 しかしドラゴンはなんか世界的にやばいやつが出るとそいつを叩きにくるようなことがあるんだって言っていたやつがいた。

 ドラゴンをあがめている宗教にはまっていたやつだ。

 胡散臭いと思っていたけど、ああ、俺も改宗してもいいかもしんないな。

 助かったらな。


 ドラゴンと化け物が空中で激しく争っている。

 頑張れドラゴン。応援しているぜ。


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