第204話 グージェル戦③ 出撃
第204話 グージェル戦③ 出撃
子供たちの夜は早い。ラウニーやキオと遊ぶ時間は限られている。仕事はチビたちが眠ってからでいいのだ。
一緒に遊んで、一緒にご飯を食べて、風呂に入れ、二人が寝落ちした段階で仕事の時間だ。
「結構騒ぎになっているわね」
ネムが町の様子を教えてくれた。
もちろんここには直接の被害はない。
国内で一番遠い位置にあるからだ。
だがキルシュ公爵領の領都に王国のお姫様が避難してきたのはそれなりに大きなニュースとしてこのベクトンでも話題になっているらしい。
「なんといっても今までなかったことですから。さすがにそんなに状況が悪いのかとみんな不安に思っているみたいです」
シアさんの言葉は正しい。
グージェルの余波でこの辺りの魔物が騒いで討伐騒ぎなどになっているのもその一因だ。
魔物というのは一般人にとっては間違いなく脅威で、出会えば死を覚悟しないといけないものだ。
そういうものから王女が逃げてきた。というニュースはかなり衝撃てきなんだろう。
「中には王国失陥のうわさまである」
これはマーヤさん。
しかしもう失陥か。気が早いな。
もっともグージェルを倒せないとそうなる可能性が高いわけだけどね。
「にしても本当にぎりぎりのタイミングだったよ。あのまま残ってたら魔物になってたかもね」
「どうかしら。勇者別格のような気がするけど」
「勇者と言えども人間」
後半は与太話だが、晶の話はもっともだ。
あのタイミングでこちらに移らなければ巻き込まれてただろう。まあ、王都にいたのであれば魔物になるよりも先に消し飛んでいたとは思うが。
「それで今回私たちにできることは?」
「ないね」
ネムの申し出を、可哀そうだけどぶった切る。だって単に魔物というだけならともかく相手は飛行生物だ。空を飛ばれると普通の人にできることなんてない。
「まあ、今回で型が付けば世話がなかったということだよ。これでダメだとまた別の方法を考えないといけないしね。
それに魔物被害は当分続くからそちらの対処をお願いするよ」
それが順当なところだろう。
ただあまり出番はないかもしれない。ここは冒険者の町だからね。彼女たちがでるような場面はたぶん来ない。
今の戦力で十分に対応できている。
問題は西、つまりシアさんの実家のラーンあたりだけどこちらは魔族であるイアハート達とうまくやっているようで心配ない。
なので本当に問題はあのグージェルを倒せるかどうか。
たぶん行けると思うんだよね。
俺の攻撃は重力とか空間とかをこねくり回して威力を爆上げした物なんだけど、これはグージェルに無効化された。
力の質が同じだから対抗されるとなかなかね。
でも最後、グージェルが逃げるときに気が付いたんだよね。あいつの身体に傷がついていたこと。
どんなものでも切れると自負していた重力サーベルとか、どんなものでも粉砕できると信じていた重力パンチとかは完全に無効化してみせたグージェルの身体につけられた深い傷。
ただ意味もなく俺の剣がぶつかったときにできた傷。
俺の剣は、〝真理〟を長年封じ続け、破壊するのが不可能と言われたペークシスで出来た剣だ。
そうなんだよ、思い出したくないけどあれ物理にも魔法にもめっぽう強かったんだよね。
まあ、最後には壊してやったけど。
ちょっとずるして。
いや、違う、あれは知恵をもって壊したのだ。ずるではない。うん、ずるじゃないぞ。
つまりペークシスを使えばグージェルの力場防御を敗れるということになる。
だが方法が問題になる。
重力でレールガンとか使ったら、まねされたらたまったもんじゃない。
もし岩を亜光速でぶっ放すようなことをされたらもう、どこまで被害が広がるやら。
だから以前使った古代王国のレールガンを借りたのだ。
あれなら機械だから真似されることはないのじゃなかろうか。
もし真似されたとしてもあのレベルならまあ、何とか。うん。
というわけで今日も今日とてペークシスをコネコネして砲弾を作る。
魔力投射砲の弾。
力場で撃つ出すから細かい形状に指定がないのがいいところだよね。
先の丸まった円柱形。柱部分には螺旋のみぞ。
まあ、ライフルマークなんだけどね。
これ、実は昔本当に使われた物なんだよ。
今の銃は銃身に螺旋の溝を刻んであって、それの力で弾を回転させるんだけど、一時期弾自体に溝を刻んで回転させる。という方式が本当にあったのさ。
どの程度効果があるかわからないから、全部ではなく一部にその細工を施す。
他にも先端がとがった形とか、紡錘型とか何個か作ってみました。
と言っても手間のかかる作業なので出来たのは全部で六発。
これでグージェルの核を破壊できればそれで勝ちだ。
もちろん時間の許す限り砲弾を…
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「遠くから響く地響きだね」
感じるか感じないか、程度のかすかなものなのだが、さすがラウニーは敏感に感じ取って吃驚して起きちゃった。
それでネムたちも何かあったと気が付いたみたいだ。
「行くの?」
「ああ、ちょっとね、行ってくるよ」
「はい、御無事のお帰りをおまちしています」
「待ってるからね」
「きっと帰ってきてください」
「子作りするために」
マーヤさんは直截すぎる。
みんな頷かないように。
とりあえずやってみてダメなら帰ってくるんだから雰囲気出さないで、行きづらくなるから。
外に出れば空が白み始めている。
夜明けも近い時間だったか。
黒曜が歩いてくる。今回の作戦では黒曜も重要な役割を持っている。
黒曜にまたがって走り出す。
みんなが小走りに追いかけながら俺の無事をいのって手を振って…
だからあんまり雰囲気出さないで!
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