翌日

朝日が窓から差し込む頃、二人の姿は既に消えていた。空中に舞う埃が太陽の光に反射してきらきらと舞っていた。


それから一時間ほどして、シャッターが持ち上げられて入り口から朝日が差し込んでくる。扉に鍵が差し込まれて、扉を開く音がすると男が一人店に入ってきた。胸元に坂田というプレートがついている男だ。男は中から鍵をかけて、鼻歌を歌いながら店の掃除を始めた。床を磨いて、テーブルを念入りに拭き上げる。テーブルを拭きながら、男はソファの方に目を向けて、手を止めた。赤いソファの上に黒いライターが転がっていた。それを拾い上げて、ポケットに突っ込んだ。

掃除が終わると、店の裏で欠伸をして、ポケットから煙草を取り出した。一緒に取り出したのはさっき拾ったライターだった。男は一瞬動きを止めたが、すぐにそれで煙草に火をつけた。煙が頭上に登って、しばらくして消えた。そうする間に幾らか時間が過ぎた。


男は腕時計に目をやると、腰を上げて店の鍵を開けた。カウンターに立ち、手元で何らかの作業をしながら、思い出したようにポケットからライターを取り出した。表面には削ったような文字が書かれていたが、男はそれに気付かずに、カウンター裏の『忘れ物』と書かれた箱に放り込んだ。

男は再び欠伸をした。長い欠伸だった。


日が暮れて、今日が、今日も再び終わる。

店内には必要最低限の明かりが、所々にぼうっと灯っているだけだった。カウンターの上では、小ぶりなスタンドランプが儚げに白附 唯の横顔を照らして、起伏の薄い右のほおを浮かび上がらせている。


視線は手元にある帳簿に向けられているものの、思い出した様に、あるいは何か物音がした様な顔つきで、正面にある扉に目をやることがある。しかし扉からは外界から入り込んでくるかすかに街灯から漏れ出た明かりを、さらに薄めた様な灯りが見えるだけだ。

扉はそのまま、鍵がかけられるのをほとんど延々を想像させる程に待った。

店内が完全な闇に包まれて、ようやく鍵がかけられる音がした。そうして、朝の光がさしこむまで、虚ろな沈黙が店内に横たわっていた。

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ボヘミアン オクタヴィア 三栖三角 @saicacasai

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