僕らはブチのめされたいと思っている(悪役として)

『【何様くん】悪役として舞台に立つ。』を読んだ感想なのですが──。

高校生の頃に書いていた小説を思い出したのですよ。いや、他人様の作品を紹介する場で何故に自作語り? などと思われているやもしれませんが、その辺りの非常識さはまあ書いている本人も承知の上でして。

どういう話かざっくり説明致しますと、これといって何の根拠もないくせに「俺は普通の人間とは違うんだ」と思い込んでいる主人公(男子高校生)の住む街が、ある日突然異世界の怪物たちから襲撃を受けまして。直前まで「こんな腐った世界にいられるか。もういい自殺してやる!」などと胸中にて息巻いていた主人公が、逃げ惑う群衆に飲まれながら、必死こいて生に縋ろうとしている──腐った世界(笑)で生き延びようとしている自分に気づいて「何だ俺もその他大勢とちっとも変わらないじゃないか」と絶望するところから物語が始まる──みたいな現代ファンタジーだったのですが。

どうして当時そんな小説を書いていたのかと自問したら、多分「俺は解っている感」を出したかったんじゃないかな──と。

俺は架空の世界で身の程知らずである俺の分身を痛めつけている。お前は特別なんかじゃない。そこら辺に歩いている奴らと何ら変わらない、むしろ標準よりずっと下の存在だろうって云い聞かせている。

だから、俺は自覚のないお前らより弁えているんだ。そんな──解っている俺を責めてはくれるな。そんな感じで結局標準より上にいる、その他大勢より弁えている(という設定の)自分を演出したいがために、そういう作品を書いていたような気がします。

特定のコンテンツを悪く云うわけではありませんが、昨今ブチのめす爽快感ばかりが何かと脚光を浴びがちじゃないですか。ただ、ブチのめされる爽快感──ブチのめされることで救われるものってあるよなって。そういう感覚を作品を通して思い起こした経験は、久しくなかったものでして。

端的に云えば、これは悪役として舞台に立った"僕"がヒーローにブチのめされるお話。

人間って、自分にとって眩しい誰かさんに完膚なきまでに叩きのめしてくれって祈る瞬間があると思うのですよ。私はね。