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午後八時。
今日は定時に上がるつもりだったのだが、夕方になって急ぎの案件が入ったために少し残業をすることになってしまった。
私の住むマンションが視界に入った。あと数分後には家に着く。
そのときマンションの入り口近くに人影が見えた。少し目を細めて人影を探る。
塀に体を寄せて辺りをキョロヨロと伺う姿は不審者として通報されても仕方がないレベルだ。
しかも犬耳カチューシャと首輪、そして尻尾まで付いている。
コツコツとヒールを鳴らしてその人物に歩み寄った。その人物は一瞬警戒の視線を送ったが、私だと分かるとパッと笑みを浮かべた。その尻尾が本物の犬のようにうれしそうに揺れる。
「あ、あの、おかえりなさい」
「ただいま」
「猫も拾わないって言ってたから犬にしたんですけど、犬なら拾ってくれますか?」
レイは少し不安そうな上目遣いで私を見る。胸の奥にキュッと心地良い痛みが走る。
どんなアプローチがあっても断るつもりだった。その方が色々なレイの姿を見られると思ったからだ。
だけどかなり直球のコスプレに私の手は思わず伸びていた。
私はレイの頭をゆっくりと撫でる。くすぐったそうに少し首をすくめるレイは本当に仔犬のようだ。
「仕方ないから拾って上げようかな」
そうして仔犬にするように両手で頬のあたりを包み込んで撫でるとレイは幸せそうな笑みを浮かべて目を細めた。
「いい子にできる?」
するとレイは間髪入れずに「はい」と答えた。そこは「ワン」と言って欲しいところだ。
でも仕方がない。こんな子を放っておけるはずがない。レイの笑顔をもう一度見たいと思ったときにはもう落ちていたのだ。責任を持ってしっかりと面倒を見ることにしよう。
私は「いい子ね」と言いながら仔犬のレイの額にキスをした。
そしてその手を引いて家に招き入れる。
他にもレイのコスプレを見たいと思っていたけれど、それはこれからお願いすればいくらでも見られるだろう。
本当におわり
女子高生【は】拾わない。 悠生ゆう @yuk_7_kuy
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