閑話 絶望の萌芽

 とある満月の深夜。


 ネメッサの街の近くには、地下水路に繋がっている湖がある。その湖のすぐそばには三十人程の街の人々が住み、少しした規模の村となっていた。


 しかしその村はもう見る影も無かった。


 月明かりに照らされる中、薄暗い闇の中でくちゃくちゃと湿った音が響いていた。


 音を立てていたのは数匹の食人鬼。


 食人鬼達は嬉しそうに次々と人の肉を咀嚼しては黒い笑顔を浮かべて嗤っていた。


「ゲェッゲェッ!」

「ゲッゲッゲッ!」

「ゲェ.......ゲエッ!」


 食人鬼達の周りには、かつて街の人であった亡骸が散乱していた。


 村の民家は全て無残に破壊され、地面にはいくつもの赤い染みが残っていた。


 食人鬼達は人の肉が大好きだ。人の肉はだけは一欠片すら残らずに全て綺麗に食べてしまう。辺りに散乱している亡骸は全て骨と化している。


「ゲェ.......」


 不意に、人の肉を咀嚼していた一匹の食人鬼が食事を中断して頭をあげた。


 食人鬼の特徴は赤い肌に、頭部が異常に発達した独特の体躯を有している。腕と脚には鋭い鉤爪を持ち、その血のように濁った赤い目は、月夜に照らされ鈍く輝いていた。


「ゲァァ.......」


 だが、その食人鬼の中に一匹だけ他とは違う異質な食人鬼の姿があった。


 他の食人鬼は赤い肌なのに、その食人鬼だけは何故か黒塗りの漆黒の肌で、身体の大きさが他の二回り程大きい。


 その食人鬼は村の中心に座り込みながら、人の肉を貪るように齧り、血をベッタリと口に付けながら笑みを零していた。



個体名 貪食どんしょく食人鬼しょくじんき

  Lv72

 HP673/673

 MP489/489

 筋力465

 耐久279

 魔力68

 精神312

 俊敏376


所持スキル

 超高速再生Lv-、伸縮する豪腕Lv-

まるかじりLv-、人族特攻Lv-

血濡れの鉤爪Lv-、同族掌握Lv-

七大罪スキル【暴食】Lv-

鬼化Lv-、豪爪列破Lv-

全能の魔眼Lv-


 称号

人類の天敵者Lv-



 貪食の食人鬼は人の肉を咀嚼しながら、この先にあるネメッサの街をじっと見つめていた。


 そして、自分が齧っている肉を見て思った。


 嗚呼、食べたい。もっと食べたい。人の肉を腹がぱんぱんに膨れるまで食べたい。こんな少ない肉じゃ足りない。もっともっと食べたい。食べたい。食べたい。食べたい。食べたい。食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい.......。


「ゲァァァァ.......」


 月夜の暗闇の中に、不穏な声が反響し続けていた。

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