魔法少女☆海の悪魔
あらためて海上で両雄は対峙する。
海中から脱出した勢いで、上手いことタコの触手は外れたが、あれはかなり厄介だ。
伸縮性に富んでいる上に粘液まみれの軟体で、一度捕まると容易に抜け出せそうにない。
しかも、それが8本もあるときている。
巨大タコは海上に出ている胴体部分だけでも20mはある。
ちょっとしたビルでも海面に生えているかのようだ。
胴であれなら、スーパーで売られているタコから想定すると、1本1本の足の長さは確実に200mを超えているはず。
射程が200mで、360度全方位が攻撃範囲とか、とんでもない。
上空から攻撃したいところだが、海上にはいつのまにか海上自衛隊かテレビ局だかのクルーザーが数艇見受けられる。
下手に攻撃すると、起こった津波で転覆させかねない。
「余所見とは余裕ね! 魔法少女!」
警戒している先から、海中からタコの触手が伸びてきた。
辛うじて避けるが、続く2本3本と異なる方向からの波状攻撃に、ついにプリティエリアンの右手首が絡め取られた。
「しまった!?」
「――そこよっ!」
息吐く間もなく、海中から突出してきた無数の大きな物体に、プリティエリアンは撥ねられた。
銀色に輝くそれは、本マグロの群れだった。
重量300Kgを超えるマグロの突進だけに、いかな魔法少女といえども直撃するとダメージは大きい。
しかも、タコに身体を掴まれているせいで、衝撃を逃がすこともできない。
「太刀魚なんてどう!?」
「カサゴはどうかしら!?」
「ウツボやオコゼは!?」
毒持ちの尖った棘や、強力な牙を持つ魚の群れの怒涛の連続攻撃だ。
攻撃を終えると同時に海中に逃げるので、追撃のしようもない。
さざ波できらめく海面が、魚たちの攻撃方向を隠すスクリーンの役目も負っている。
実に地の利を考え尽くされた戦術で、絵面としては微妙なものの、確実に魔法少女にダメージを蓄積していっている。
(ここままじゃあ、ジリ貧ね。生臭いし)
プリティエリアンは身体に纏わりつく魚のぬめりを拭いつつ、ラゥの立つ巨大タコに目を向けた。
敵の攻撃の起点となっているのは、やはりあのタコだ。
タコのフェイント織り交ぜた巧みな触手捌き(?)で捕らわれた瞬間を狙って、ラゥは魚をけしかけてきている。
それさえなければ、攻撃方向が不明でも、魚が海面から飛び出すタイムラグで避けることはできる。
(懐に潜り込んで肉弾戦? でも、この体格差の上、あの軟体動物に物理が効くかどうか……)
やはり魔法で一撃で吹き飛ばすしか、手はなさそうだ。
プリティエリアンはマジカルステッキを握り締め、タイミングを見計らう。
触手の動きは素早く変幻自在で捉えにくいが、静止している胴体の下に潜り込むのにはさほど苦はない。
「今っ!」
複数の触手を掻い潜り、海面すれすれの低空飛行で、プリティエリアンは即座に距離を詰める。
一度懐に入ってしまうと、今度はその巨体ゆえ、死角となりやすい。
案の定、巨大タコはプリティエリアンの姿を見失っていた。
「マジカル――あっ!?」
魔法の発動に入る寸前で取り止めて、プリティエリアンはUターンして距離を取る。
「あらら? どうしたの、魔法少女? 今のは絶好の機会だったのではなくて?」
巨大タコの頭上で、ラゥが楽しそうに笑っている。
確かに攻撃には絶好のチャンスだったのだが、プリティエリアンはタコ越しの空中に、報道ヘリの姿を見ていた。
あのまま魔法を放てば、射線上にいるヘリも撃墜してしまう。
「うふふふ――あーはっはっはっ!」
ラゥがもはや堪えきれないとばかりに、エビ姿だけにエビ反って哄笑する。
「ああ、おかしい。そんなものなの、プリティエリアン? 先のふたりを負かせたのはマグレだったのかしら? この仔は、あなたたちの間では悪魔の化身と恐れられているそうね。正義を謳う魔法少女が、悪魔に屈するなんて、面白いとは思わない?」
プリティエリアンは忌々しげにタコを見つめた。
タコ……タコなんて……
――軽く湯通しして、ワサビと醤油で、日本酒なんかと一緒にきゅっと。
「ぐびり」
「…………ねえ、魔法少女。今あなた、なにか違うことを想像していなかった?」
「ソンナコトハナイデスヨ☆」
おっさんは魔法少女で涙目です まはぷる @mahapuru
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