魔法少女☆絶体絶命
プリティエリアンは海中でもがいていた。
両足にがっちりと絡みついた巨大タコの触手は、表面がぬめぬめしていて力任せに外そうとしても、なかなか上手くいかない。
ただでさえ、水の抵抗で満足に身動きも取れない中、プリティエリアンの身体はどんどん海底へと向けて引きずり込まれていく。
徐々に周囲の水圧が増し、身体がぎしぎしと軋みを上げている。
変身後の魔法少女の身体は頑強で、水圧自体にはまだ耐えられる。
ただ、それ以上に問題なのは――呼吸が持たない。
いきなり引き込まれ、プリティエリアンには満足に深呼吸する余裕もなかった。
こうして息を止めるのにも限界はある。
たとえ身体が耐えられたとしても、酸欠で意識を失いでもしたら、それで一巻の終わりだ。
(でも、もう息が……!)
無意識に酸素を求めて喘いだ口から、がはっと残りの空気が泡となって吐き出される。
気泡となって海面へと上がっていくのを、海中からプリティエリアンは虚ろな目で見上げていた。
海面付近には巨大タコの胴体と、その上に立って勝ち誇って見下ろす、”魚使い”ラゥのエビ姿が窺える。
(くっそ、油断した……)
たった数回の勝利を得ただけで、上から目線でいた自分が恥ずかしくなった。
なにがプランだ、なにが平和的に退却させるだ。
いかに事の発端がふざけた理由であったとしても、負ければ人類が滅亡することはわかっていたはずなのに。
アキラは、己の浅はかさに腹が立って仕方なかった。
しかし、こうなってはもはや挽回のしようがない。
意識は薄れ、身体は重い。このまま自分は暗い闇の底に沈んで窒息死し、世界は――地球は滅ぶ。それが現実だ。
(ああ……)
最後の空気が肺から逃げ出し、終わりを覚悟したそのとき。
「なにやってんのさ、プリティエリアン?」
暗い水中にお迎えの白い天使が舞い降りてきた――と思いきや、白は白でももこもこした丸兎のラビだった。
アキラは残った力を必死に振り絞り、足首に巻きつく触手を指差し、
「ほうほう。足が捕らえられて逃げられず」
両手で自分の首を絞めた。
「息が続かず苦しくて死にそうだと?」
よくわかるな。
「そりゃあ、息止めてたら苦しいよね。だったら、息したらどうかな?」
海中にもかかわらず、ラビはいつもの調子で呑気にぽよんぽよんと跳ねていた。
「アホか! 水中で息できるか!?」
「あ。ダメだよ、プリティエリアン。言葉遣い」
「てへっ☆ 水中じゃ息できないんだよー?」
つられて律儀に言い直す。
「なんで? できてるでしょ、息?」
「……そだね。できてるねー」
なんか、普通に海中でも息できた。
「そりゃあ宇宙空間でも生存可能だからね。水の中くらいはどうとでも」
「そっかー☆」
……ってことはなに?
俺って息できないと思い込んで、勝手に自分で息止めて死にかけていたと?
…………
「マジカル☆スクリュー!」
プリティエリアンはマジカルステッキを下向きに回転させ、猛烈な水流の勢いで触手もろとも一気に海上に飛び出した。
海上では、巨大タコの頭の上に立ったまま、勝利を確信していたラゥが、目論見が外れてやや唖然としていた。
「くっ! やるわね、プリティエリアン! あんな絶望的な顔していたから、これで決まったと思ったのに!」
「魔法少女はこれくらいじゃ挫けない!」
「そうだよ! 僕らのプリティエリアンは負けないのさ! 赤面しているのには触れないであげてね?」
「ラビ君! それは余計だよ☆」
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