第6話 弄ぶもの

ミツルの魂を育成すると決めた日向だったが、どういう試練を与えるか、思い倦ねていた。一緒に登校し、教室の席で一人考えていると、三人の女子がやって来て、日向を取り囲んだ。

「あんたさぁ、なんで生き返ったのよ。やっとミツル君を私のモノに出来ると思ったのに。」

「そうよ。あんたみたいなゾンビと付き合うより、麗子の方がミツル君にはお似合いだわ!」

「今からでも遅くないわ、あんた死んでくれない?」

『やれやれ、下等な魂の人間など、相手にしたくないが…』

「あの、誰か知らないけど、仮に私が死んでも、ミツルは貴女とは付き合わないと思うよ。魂の質が違い過ぎる。」

「ちょっと!失礼にも程があるわよ!その美しさで学校の頂点に立つ麗子に向かって!」

「あんた、ちょっと来なさいよ!」

三人組は日向の腕を掴み、中庭のプレハブ倉庫へ連れ出す。

「あんたさぁ、私の心が汚いとでも言いたいわけ?ゾンビのくせに、私に意見しようっての?」

『うーん、見たところミツルの試練には、使えそうもないなぁ…学校の頂点とか言ってるし、使い魔にでもするか…』

「ゾンビじゃないけど、ゾンビを作ることは出来るよ。」

「はぁ?アッタマおかしっ…」

日向は無造作に、麗子という少女の胸を掴み、心臓を引きずり出すと、下級の魔物を呼び出す。ムカデのような魔物は心臓に巻き付き、日向はそれを確認すると、再び埋め込んだ。残る二人は、金縛りにあって動けない。足元から這い上がったムカデのような魔物が、耳や鼻から体内に侵入し、脳を貪る。

「「あ、いやあぁぁ、アァァァーーッッ!」」

二人はすぐに、何も言わなくなった。その一部始終を見ていた麗子は恐慌し、足の間から温かい液体を漏らす。

「麗子って言ったかしら、貴女の取り巻きの二人は、今日から貴女の監視になった。私に従うなら何もしないけど、私やミツルに手を出そうとするなら…」

そう言った途端、胸の中の魔物が爪を立て、心臓を締め付ける。

「うっ、アァァァーーッッ!や、やめて、聞く、言うこと聞くから…」

「そう。意外と素直なのね。もちろん今日の事を他人に漏らすような事をすれば、貴女を魂ごと消滅させるよ。それ以外なら今までどおり、好きにやってもらって構わない。」

「う、うん。わか、りました。」

「じゃあ、足元、掃除しといてね。」

そう言って日向は、倉庫を出て教室へ戻った。


ビル街の一角。旅行鞄を提げた男が、呆然としている。黄色いテープが張られた敷地には、押し潰された瓦礫があった。

ミツルの父親は、この現場の指揮をとっている。これだけの家屋の倒壊で、火事が出なかったのは不幸中の幸いだろう。多少不自然な部分もあるが、重機や爆発物を使った形跡は、一切見られなかった。老朽化による倒壊としか、説明のしようがない。

「ご主人、検証は終わりました。ご不明な点があれば、警察の方へ…」

「どうすりゃいいんだよ!もう住めないじゃねぇか!警察は調べたら放ったらかしか!」

「それは警察では、どうしようもないですね。保険会社と相談されたらいかがですか?」

「ふざけんじゃねぇぞ、俺たちの税金で飯食ってんだろうが!なんとかしろよ!」

「あのねぇご主人、自然災害じゃなく、誰かに壊された訳でもない、老朽化による倒壊。この意味わかりますか?もし周りのビルに被害が及んだり、人が巻き込まれたりしていたら、貴方の責任になりますよ?」

「う、うるせー!とっとと帰りやがれ!」

「一応、周辺のビルの持ち主に、被害が無かったか確認しますので。あと、目撃者や怪我人が居ないかどうか…」

「わかったわかった、もう好きにしろ!」

家を無くしたこの人に、同情しないではないが、住む者の責任と自覚くらいは持って欲しいものだ…とミツルの父親は思った。


警察と消防が撤収を始めた頃、一人の男が近付いて来る。

「大変でしたねぇ。もっと早く、ウチにお売り頂いてれば、頭を抱える必要も無かったでしょうに。」

「お前は安河内んとこの!まさかてめぇらが…」

「冗談言っちゃいけませんよ。せっかくお見舞いに来たのに、言い掛かりにも程がある。老朽化が原因だと、さっき言われてたじゃないですか。こっちはいい話しを持って来たのに、不愉快です!」

男はそう言って帰る素振りを見せる。

「ま、待て。なんだいい話しって。」

男はニヤリとして振り返った。

「単刀直入に申します。この土地、ウチにお売りください。」

「またその話しか!売らんと言ってんだろ!」

「最後まで聞いてくださいよ。周りのビルはウチの所有、ここが倒壊したお陰で、ガラスが割れ、壁に傷がついたビルも多い。全部請求するのは簡単ですが、もしお売り頂けるのなら、その請求は取り下げましょう。瓦礫の撤去もタダじゃない。撤去の費用に産廃の処理代、業者に頼めばかなりの額を言われますよ?それもウチで賄います。あぁ、ウチの空き物件で良ければ、今日から入居可能なものもございますよ?もちろんタダではないですがね。ここの土地代と相殺でいかがですか?ウチとしてはマイナスなんですがね…」

「うーん…」

「保険金が入ったところで、瓦礫の撤去と周辺の保証で無くなりますよ?お売り頂けるのであれば、住む家も手に入るし、保険金はまるまる残る。いい話しだと思うんですがねぇ…」


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善魔と悪神 菊RIN @kikurinmoon

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