第6話 小説一編に願いを

 あなたの願いを教えてください。あなたの願いが叶いますよう、桜ひとひらに願いを込めて書きます。人魚のメッセージカード、桜の押し花がつきます。


 私はモデルとして働きながら、字の勉強をした。キレイに書けるように、伝わるように。うまくいかないことも多かったけど、少しずつかたちになって、依頼も増えた。書くのが大変になる程の量ではないから、自分のペースでできた。手書きの文章なんて時代遅れだと言われたが、喜んでくれた人もいた。


 私は決めた。願いの叶う薄桃色の花びらをみんなに届けよう。貝がらは割れやすいから、花びらを。みんなといっても私の出来る範囲で。それとあの姉さまの願いも、わからないけれど叶いますように。


 みんなの願いはたくさんあった

 小さいものから大きなものまで

 可愛いものから怖いものまで

 私は全て願いを込めて文字にした


 人気者になりたい

 ギターが弾けるようになりたい

 ようくん大好き、結婚して

 呪いの成功を願う

 めまいが良くなりますように

 疲れがなくなりますように

 政治家になる

 どこか遠くに行きたい


 たくさんたくさんあった。それはいつのまにか流行して、そのうちモデルの仕事ができなくなった。その流行が過ぎると私に童話や小説を書く仕事が来た。そして私は今日、インタビューというのを受けている。


 人と話すとき昔は手話も使ったけど、今はこうしてスマホやパソコンを使います。


 私が人魚に見えるのならね、こんな白髪の人魚なんているのかしら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜花一片に願いを 新吉 @bottiti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説