第5話 本だないっぱいに願いを

 ここで暮らすことは私の願いだったんだろうか?私は何をしたかったんだろう。見つけたサクラに近づきたかった。それだけなのにできないことが悔しくて、不思議で、苦しくて。もがいているうちにあの一本のサクラにたどり着いた。サクラは私をヒトにしてくれた。私は初めての感覚に驚いた。足があって、地面にたっている。歩く練習を上から見ていたお花見客に笑われたっけ。


 お医者さんが私の喉を調べることになった。ガンガン鳴る機械の中に入ったりしたけど、血を取るのが一番怖かった。針が近づいて来てプスっと刺して、吸い取っていった、私の血。結果、喉は原因不明。健康面は異常なし。お医者さんに声だけ盗まれたんだねと言われた。


それから耳が聞こえない人や喋れない人と話すこともあった。みんな大変なのに私のことも心配してくれた。あるおばあちゃんには突然抱きしめられた。オススメの本を教えてくれた、ステキな歌を歌ってくれた。たくさん励ましてくれた。美人さん、あんたも私みたいになるよ。そう言われて私、歌はもう歌えないよなあと思った。寂しい。だけどこのおばあちゃんみたいに誰かを励ましたいと思った。



 いたいよ、すごく

 いちばん遠く離れてる

 いつも見上げてた

 いてててて

 いとおしいなあ


 たらたらすんな

 ちらちら見んな

 つらつら読むな

 てらてら光るな

 とらとら怖いな


 だらだらしちゃだめ


 いだかれる

 いぢになっている

 いづらいのはしかたない

 いでんしが違う

 いどんでも叶わない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る