別れた世界で
@marelessREFILL
第1話
『人の心を動かすのは、本当に人を動かすのは言葉だ。言葉や文字で人を殺めることだってできる。一言で戦争になることだってある。魔法はただの力だ。力に任せて人を傷つけても何も解決しないんだよ』
シオンは俺にこう言った。
俺は幼い頃、スラムでシオンに拾われ、彼女に育てられた。彼女の目にこの世界はどう映ってていたのだろうか。
結局、俺はシオンの言うような人間にはなれなかった。
「おいターゲットはすぐ近くだぜ」
パートナーの一言で現実に引き戻される。
「しっかりしてくれよな。お前がミスったら終わりなんだからよ」
トルカ王国の軍に所属している俺たちはある人物の暗殺のため大きな街に来ていた。ただ命令されたから殺す、それが俺たち軍人の仕事だ。ターゲットについての詳しい情報は教えられていない。
大きな戦争が起きていない今、軍人の仕事はあまり多くない。暗殺か魔獣の退治くらいなものだ。
突き刺すような夜風とこれから誰かの命を奪わなければならないという事実が俺の心を冷やしていく。
これから俺たちに殺される予定の男は何かの会議をしているのか高そうな椅子に座り、タバコを吸っている。
俺たちが潜伏しているのはそこから50メートルほど離れた家の屋根の上だ。
「レイ、今回はここからか」
俺のすぐ近くで周りを見張る相棒、ゴーシュが囁くような声で俺に尋ねた。
体を巡る魔力を集中、それを自分のイメージする形に変換する。
「ああ、俺の魔法のぎりぎりの射程圏だ」
水魔法を使い水滴を発現させ、氷魔法で凍らせる。魔力を込めた氷の弾丸は当たった者の体温を一瞬にして奪う。大型の魔獣は無理でも油断しているただの人間を殺めるには十分だ。
俺の放った弾丸が当たるとターゲットだった男の身体は糸の切れた人形のように椅子から崩れ落ち、動かなくなった。
それと同時にとてつもない吐き気に襲われる。
人を殺したのは初めてだったわけではない。それでも、人を殺した後のこの吐き気は初めての時からずっと治らない。
住んでいた小さな村が賊に襲われ、自分の居場所を失ってから、俺は生きるための手段は選ばなかった。どんな犯罪にだって手を染めた。
シオンはそんな俺に魔法を教え、真っ当な道に戻そうとしてくれた。シオンから教わった魔法をこんな風に使っているのだから笑えない。
「さっさとこの国を出て、王国に戻るぞ」
この国ではもう俺たちはただの犯罪者だ。さっさと自分の国に戻った方がいいだろう。
俺は吐き気を堪えながら暗い街を歩いた。
トルカ王国の王都は平和だ。俺たちの普段生きている場所と同じ世界にあるとは思えないほどに。
この王都では16歳になった次の4月に魔法学園に集められる。王都内では義務になっているものだ。
この学園は国が経営するもので、魔術や戦い方を学ぶためのものだが、卒業生のほとんどは王都で働き、戦場に出る人間はほとんどいない。実践的なことを学ぶことは少なく、その多くは研究のようなものだ
王都内で就職したり、身分を証明するためにはこの学園を卒業していなければならないため、この国でまともに生活するためにこの学園に通うことは必須とも言える。
俺は王都で暮らす予定はこれからもないのだが、学園に通わなければならない。上司からの命令のためだ。軍もトルカ王国直属の機関であるため義務を放棄することはできなかったのだろう。
別れた世界で @marelessREFILL
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