愛犬
これは我が家の愛犬のお話し。
高3の夏私の家に新しい家族が増えた。
柴犬の雄で名前はゴン太。
とても人懐こくて家族にも直ぐに懐いた。
私以外には。
両親や兄弟には尻尾を振って寄っていくのに私が近づくと牙を剥いて威嚇する。
噛まれはしなかったがいつまでも変わらぬ犬の態度に徐々に距離を置くようになった。
そして暫く経ったある日街で買い物をしていた私は久しぶりに中学の頃に同級生だった舞に会う。
お互い違う高校に進学したのでほんとに久しぶりの再開だった。
私も彼女も特に用がなく街をぷらぷらしていたので2人でお昼でも食べようと店に入った。
「ホントに久しぶりだよね!元気だった?」
とか再開を喜びつつ昔の話だったりお互いの心境報告をしていた。
そんな中は彼女は楽しく話しつつも何かもどかしそうな表情を浮かべる。
私が「どうしたの?」と聞くとバツが悪そうに話し始めた。
「あのさ...私ね、ちょっとだけだけど霊感があるんだよ..ね...」
中学の頃はそんな話を一切しなかったので少し驚きつつも真面目で成績も優秀だった彼女が嘘を付いているとも思えなかったので話を聞く。
「愛李さ、最近周りで変な事とかない?」
「変な事?」
「うん。自分だったり家族で誰か体調不良になったりとか。」
「う〜ん...特にはないかな...あ、でも半年前から犬飼い始めたんだけどね私にだけいつまで経っても懐かないのよね。」
「あ...それね...多分愛李の後に居る男の人のせいだと思う。」
「え...」
言葉を失う。
「えっとね...その男の人まだ生きてて生霊なんだと思うんだけど...」
舞が今私の後に居るという男の特徴を話し始める。
その特徴を聞きその男が誰だかは察しがついた。
元彼だ。
別れた後もしつこくメールや電話、それに留まらずストーカー行為までする始末。
余りのしつこさに元彼の友人に頼んで話をつけてもらってからは落ち着いていたのだけどまさか生霊になって憑かれているとは想像も付かなかった。
そしてゴン太がなんで私にだけ懐かなかったのかもこれで分かった。
私に威嚇していたのでは無く私の後ろに居た元彼の生霊に威嚇していたのだ。
元彼は優しいのだけど優柔不断でなよなよしてて最初は良かったのだけれど段々それが嫌になってきて別れた。
それを今もまだ未練タラタラで私の後に憑いていると思うと怖さよりも呆れと怒りが込み上げてきた。
「今からちょっと元彼の所行ってくる。」
「え?ちょっと!」
舞の静止も振り切り元彼の家に行き、
「いつまでもくよくよしてるんじゃないわよ!」
と怒りに任せて思いっきりビンタをしてしまった。
いきなり家に来てビンタをされた向こうからすると何が何だか分からなかった事だろう。
それでも怒りが収まらない私を宥めながら舞が事情を説明する。
彼は状況を理解し泣きながら謝っていたが私の怒りは収まらない。
けれど舞に説得され彼の家を後にした。
落ち着きを取り戻した私はその後はひたすら舞に謝っていたのを覚えている。
彼女は笑いながら許してくれたっけ。
そして、
「もうねあの人の生霊は居ないよ。」
そう言った。
その後は舞とまた会う約束をして帰宅した。
玄関にはいつも私を威嚇してくるゴン太が居る。
生霊は消えたもののまだ確信がない私は恐る恐る玄関に向かう。
ゴン太がこちらに気付いた。
また威嚇されると思ったがまるで今までが嘘だったかのように尻尾を振ってこちらに寄ってきた。
この子が来て半年にもなろうとしていた。
初めて私はゴン太に触った。
嬉しくて泣いた。
涙をゴン太がぺろぺろ舐める。
「くすぐったいよ〜。」
思いっきり抱きしめた。
その日から私とゴン太の新しい生活が始まったのだ。
今では私にいちばん懐いてくれている。
そして月日は過ぎ彼もお爺さん。
私も新しい家族が出来て今は時々でしか実家には帰れないが久しぶりに帰郷し
「ゴン太」
と名前を呼ぶと尻尾を振って拙い足取りで寄ってきてくれる。
可愛いやつめ。
まだまだ長生きしてね。
そんな私の大切な、大切な家族のお話し。
創作怪談 nissy @nissy0908
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