人生相談

春風月葉

人生相談

 今日も私とこの場所は異常に正常運転している。

「私、もう死んでしまいたいんです。」

 目の前の少女は言った。

 こんな仕事が無くてもよくなればいいのにと、そう思わずにはいられなかった。

 相談室と呼ばれるこの小さな部屋には多くの悩みが入ってくる。

 そして私はその全ての悩みを決してこの部屋の外へ出してはならない。

 秘密を守らなくてはならないのだ。

 今だって私は目の前の少女の悩みを他と共有し、早まってはいけないと諭したい。

 しかし、あくまで相談役の私には、生きろと強要することができない。

 それどころか、生きて欲しいと口にすることもできないのだ。

 私はなんとか目の前の少女が生きる道を選んでくれるようにと、ない案を捻り出し続けた。

「もう少し、頑張ってみます。」

 少女は言った。

 私は心の底から彼女に感謝し、そして懺悔した。

 彼女が生きることを選んでくれたおかげで、私は彼女の死への責任を回避できる。

 そしてそんな私の意思によって彼女はまだ生き地獄を歩むのだ。

 全てを吐き出して楽になりたいのに、私はその行為にさえも怯えている。

 そんな自分が嫌になる。

 鏡に悩みを打ち明けても、悩みは自分に返ってくるだけだった。

 ちっぽけな相談室、私の相談相手はいないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人生相談 春風月葉 @HarukazeTsukiha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る