第50話 休暇

翌々日から早速門番としての仕事をお願いした。と言っても王都からもそこそこ離れているので、たまに来る商人の出入りくらいしか門番としての仕事なんてないけどね。




 防壁も作ったし、人員も増やしたし教師を招く以外でやることが終わったので今日から1週間は俺の休暇だ。新人騎士たちに他の騎士メンバーを紹介して通常業務を決めた後は家に戻りゴロゴロしていた。




 昼食を食べてさらに部屋でだらけているときに、ふとあることを思ってしまった。




『あ、あれ。あんなに休暇が欲しかったのにあんまり楽しくないな......』




 ゴロゴロするのが結構好きだった自分の性格が少し変わってしまったのを少し意外に思いながら疲れない範囲でなにが出来るか考える。お、そういえばべスが後輩の教育を始めてから何日か経つしちょっと見学にでも行こうかな。










 家を出てべスの訓練広場に向かう。グラウンドが見え始める前から金属を打ち付けるような音が聞こえてくる。2分ほど歩きグラウンドの5メートルほど前に姿を現すとべスがこちらに駆け寄ってくる。




「どうしましたか、何か問題がありましたか?」


「ああ、いや、そういうんじゃないよ。ちょっと暇だからべスの訓練風景でも見ようかなと思って」




 それを伝えるとべスが緊張した面持ちを見せる。いやいや、そんなに緊張しなくてもいいんだけど。べスがどんな風に部下を育ててるのか気になるし。そのことを伝えるが、




「いえ、タクミ様にご教授受けた身なので、その人が自分の教育を観察すると言われればやはり緊張してしまいますよ」




 と、言われてしまった。そんなもんかと思いながら訓練が見える位置に移動する。どうやら今は実技訓練を行っているらしい。ちなみにべスの俺への呼び方は教官以外で何かないかと尋ねたらこうなった。




「実技訓練か」


「はい、基本的な攻撃・受け・回避を教えたら後は体にしみこませるためにひたすら実践訓練を積ませます。いざ、というときに頭で分かっていても体が反応しないなど在ってはいけませんからね」




 なるほど、基本を教えたら体に染み込ませるのか。確かに理に適ってる。知識だけあっても行動に移せなかったら意味がないからな。おっと、話している間に一人が短剣を弾かれた。




「そこまで」




 べスが一言声をかけると、訓練中の2人が動きを止めてべスの前に集合する。どうやらここからは反省会のようだ。




「レーヌ、フェイントの入れ方がまだぎこちないぞ、先ほどのようなフェイントを入れるなら重心を前にずらしながらやるのだ」


「はい!」




「シーナ、武器を弾くまではよかったがそこからが遅い、攻撃を加えるときに攻撃箇所に戸惑いが出ると相手からの思わぬ反撃につながるぞ」


「は、はい」




 べスは少しむっとした顔をする。レーヌは自分の反省点が見えてるからかちゃんと返事をしているが、シーナの方は納得がいっていないらしいのか返事が弱い。まあ、その年齢の子ならそうだわな。俺だってそう思うだろう。




 べスは、シーナの方を見てから俺の方を向いてくる。




「タクミ様、いえ、教官。少し訓練を手伝ってもらってもよろしいですか?」


「ああ、いいよ。ちょっと待ってろ。動きやすい服装に変えるから」




 べスがやりたいことは何となくわかるので自室に転移してザッと着換える。いくら俺でもあそこで着替えるのは少し恥ずかしい。




 王都で買ったジャージ並みに動きやすい衣服に着替えてべスの元に戻る。俺が手伝うのはべスが剣を弾いてからの俺の行動らしい。




「レーヌ、シーナ、良く見ていろ。自分より各上の相手に最後の1撃を戸惑うとこうなる」




 俺とべスが訓練用の剣をぶつけ合い、自然な感じに俺の短剣を弾かせる。べスは訓練なのに本気で殺しに来る勢いで此方に向かってくる。これ、戦い慣れてない奴にやったら勢い余ってそのままゴーヘブンしちまうよ。




 それだけべスが俺を信用してくれてると思い俺も全力で相手をする。前に部隊の訓練を見てやった時も似たような事をしていたが、今のべスにはわかりやすいほどのが出来ている。これがシーナに見せたかった外部から見る攻撃側の隙なのだろう。




 まずは冷静に剣がどこを狙ってるのかを観察する。どうやら喉をついてくるらしい。まずは自分の間合いまで剣を侵入させて、手の甲を上から叩き、短剣を落とさせる。第3関節あたりを狙うと落としやすくなる。剣が落ちるのを確認しながらべスの手を取り、こちらに引き寄せる。当然べスだって抵抗するために俺とは逆方向に力を加える。




 ......ここだな。べスの力が乗り切った瞬間に、べスの方に詰め寄り手刀の先端を喉仏に触れる位まで突き出す。




「こんなもんでどうだ?」


「......完璧です。ありがとうございました」




 べスは殺気を解き息を整える。それにしてもすごい汗だなべス。無限収納インベントリからタオルを出してべスに渡す。




「べス、すごい汗だな」


「いやあ、教官の殺気を浴びたら誰だってこうなりますって。生きた心地がしませんでしたよ......」




 自分では気づかなかったが、かなり殺気を放ってたらしい。シーナたちには分からなかったそうなので、辺り一面に殺気をばら撒いていた訳ではないと言うことか。この殺気も一応コントロールできるように訓練した方がいいかな。




「シーナ、わかったか。攻撃を1舜でも戸惑うと有利な場面でもここまで追い込まれるのだ。1度攻撃すると決めたら迷うな。同格であっても自分が殺されるということを頭に入れとくんだ」


「はい」




 自分の教官が自分と同じミスで死ぬかもしれない状況に至ったからか今度は素直に返事をしていた。反省会が終わったら、先ほどの反省を生かしもう一度実践訓練を開始する。




 他のメンバーは村の外周を走っているらしく、既定の周回分を終わらせるまでは座学も訓練も始めないらしい。この2人はつい先ほど終えたらしく、他のメンバーより成長速度が速いらしい。1周でも防壁を作ったから5キロ以上あると思うんだけど、俺が教えた方法で毎日走ってるならすごい成長するぞ......。




「べス、初めの外周って制御状態でやってるのか?」


「はい、制御状態の訓練がどれだけ自分の能力を向上させるのかは身をもって体験していますからね」




 今でもべスは魔力を制御して鍛錬を行っているらしい。教えた事をちゃんとやってくれるのって結構うれしいな。


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神様の気まぐれで異世界転移した俺は、チートをもらい自由に生きる カラメルtakumin @KarameruTakumin

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