誘われ、立ち止まる、桜の下。

糸花てと

第1話

 やわらかな風が、肌をくすぐる。袖を通して間もない、癖のない制服。心がふわふわしてて、


“成長したね”


 そんな言葉に、首をかしげるも……新しい制服が、きゅっと気持ちを整えていく。


「高校生かぁ……」


 入学祝で買ってもらったスマートフォン。画面を鏡代わりに、前髪を直す。そっと降りてきた花びらが、イタズラに舞う。



 …──カシャッ


 なんか、鳴った?


 レンズを構えた向こうで、肩がちいさく跳ねた。


「いま、撮りました?」


「いや、あのっ……綺麗で、つい…訴えないでください!」


 メガネ、冴えない男子。


「桜が綺麗で撮ったなら、偶然、あたしが入ってしまった。それだけですよね? 責めたり、訴えるなんてしませんよ」


「……よかった。え、この手は?」


 気になっちゃうでしょ、写り具合が。


「見せてほしいなって、ダメですかね?」


 ゆっくりと、相手のスマホが手前にやってきた。


「下手でも、笑わないでくださいよ?」


 偶然入った、写真に収まってしまった、やっぱり恥ずかしい。消してほしいと、お願いするのもあり。


「撮り方、上手……」


 ほんとに、そう思った。


「僕が思うに、被写体が良くて……桜が合わさり、絵になったんですよ」


 どこか落ち着かない両手。しっかり気持ちがあって、ちゃんと言えるところ。


 ガタンと、電車がついた。


「同じ制服ってことは、同じところですよね? 途中まで、いいですか?」


 そこまで言うなら、言いきって欲しいかな?


「連絡先、交換しましょうよ。これから、よろしく」


 別れと、出会いに咲く花。キミの隣、小さなきっかけが良いつながりでありますように。

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