恋人
温
第1話
私には恋人がいる。
彼はおよそ…現実な世界の人。ビルとか、飛行機のファーストクラスが似合う人。
私は多分、水だ。
仮想の世界が好きだし、いつもどこか思考は内巻きで楽天的。他力本願、気付くとすぐどこかへいっている。一つのところにいるのは大の苦手だけど、人に囲まれているのが好き。愛されている自分が一番好き。
なんで彼が私を選ぶのか、未だによく分からない。
私は粘り強く超人的な精神力で努力できるから…らしいけど、残念ながらそんなことはない。全くもって美化しすぎである。
終わりまで あなたといたい
最近そう思うことが増えた。
遠距離恋愛というやつなので、会えるのは1、2ヶ月に一回。そもそもお互い多忙人間なので連絡すら日による。1日2,3回会話ができればラッキー。
会いにきたり、会いに行ったり、他愛もない話をして、彼の話を聞いて、私の話をして、おいしいご飯をたべて、ろくに休まない彼を抱きしめて眠る。が、体温の高い彼にいつも朝方蹴りだされる。
彼はおよそ現実の人なので、食べ物に執着もこだわりもない。いつも、私が食べたいものを食べる。気が付けば仕事をしていてご飯を食べない日も多々あるらしい。仕事で会食が多いはずなのに食事マナーはあんまりよくない。吸い込むようにご飯を食べる。いつもどうしているのかそのたび疑問だけれど、私が不快じゃないので問題ない。私も肩肘張らずにご飯を食べる。私の頼んだ卵焼きを当たり前のようにかっさらってほおばって「おいしい」って笑う彼が大好きだ。
彼は良いものが好き。最近彼の好みが分かってきた。私は彼が好きそうだと思っていったレストランで一本の木から出来たテーブルを見て珍しくテンションが高い彼を見て、こんなにも嬉しくて愛おしいことがあるのかと思った。
彼は、「この頻度であるから喧嘩もしなければめんどくさくないんだろうな」と呟く。
彼は、最近気づいたけれど本当はとてもロマンチスト。でも現実の人である自分を自認しているタイプなので、そういって自分自身を牽制する。だから私はそのたびに、「何で?」と心の底から不思議そうな顔をするはめになる。
彼はものすごくかっこいいわけじゃないけれど、たまにめんどくさいところもあるなと思うけれど、この先たくさんの困難があることなんてわかりきっているけれど、私はきっと彼とずっと、終わりまで一緒に居たいと思うのだ。たかだか20年と少しの月日しか生きていないのに、順当に行けば残り60年近くのこの人生をこの人と一緒に居たいと思うなんて、不思議なものだ。
結婚、という言葉が聞こえてくる年になって私は、彼と結婚したいのか?と自問したが、答えは「?」だった。でも、もし結婚するなら?と聞かれたらそれは間違いなく彼以外とは思わないな、なんて彼の気持ちも聞かずに勝手にそう思う。
もし、彼と結婚して上手くいかなければ別れればいいだけの話なのだ。きっと別れても友人に、なんて出来るほどお互い器用じゃないから、死ぬほどつらいと思うけれど。人間は現金だからきっと立ち直れる。それくらいの図太さはお互い持っているはずだ。
彼に愛されている自分が一番好き。彼はロマンティックな自分を言葉にするのは苦手みたいだけれど、たまに漏れる言葉や視線が私を愛おしいといってくれる。自意識過剰でも構わない。そう居られる方がこの人生は幸せだと私は知っている。
でも最近、彼を愛おしいと思う私も、愛する、という感情もたまらなく好きになった。私は彼がくれたりしてくれることの少しも返せないけれど、たくさんの愛情を惜しみなく伝えることができるのは私くらいだと、脊髄反射でそうしたいと思うくらいには彼が好きだ。
いつだったか彼が「一緒に北欧に行きたい」と言っていた。今は彼が忙しすぎるので間違いなく無理だけれど、そのくらいの余裕が出来るまで私は彼と恋人でいたい。
愛しの恋人へ。最北の恋人より。
恋人 温 @ruuyakureaharu
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