犬神家の鍵貸しますⅡ

影宮

鍵の行方

 実は次男は犬神家の秘密を探り、既に知っている。

 両親にも誰にも、次男が知っているということを知らない。

 そして、次男は犬神様が過去に実在した神様であること、そして犬神様の鍵が今本当は何処にあるのかも、その鍵を何に使うのかも知っていた。

 だから、先祖が忍であることを活かし、先祖が残した書物で忍を深く理解し、忍術を可能な限り習得した。

 長男だけが暗殺の目的地に行っているわけではない。

 長男にバレないように、分身を同行させ、長男が暗殺を終えて脱出した後にその分身に犬神様の印、つまり犬の噛み跡を死体につけさせる。

 その作業を終えたら分身を消す。

 分身を送り込むことによって、内部についても詳しくなる。

 次男が忍術を使えたということを、やはり誰も知らない。

 先祖の忍が犬神様の傍に在ったのだと、書物で知った瞬間から犬神家の謎を探っていたのだ。

 知りたい、という好奇心に火が着いたのだ。

 次男の名は、鈴之介。

 元の名を、神吹雪 鈴之介という。

 神繋がりの文字に意味があったとするなら、なんだろうか。

 鍵の行方、それは代々長男の体内にある。

 長男はそれを知らない。

 だからもし、万一、長男が殺されたりして死んだら、体を抉ってでも鍵を取り出して、犬神様にお返しする。

 その為にも、長男の傍に常に分身、或いは自分自身を置いておくのだ。

 そしてその鍵の使い処は、犬神様の眠りを覚まさせる為にあるということ。

 犬神様は両親ですら知らない場所で眠っている。

 次男はそれをすぐそこまで確かめにいった。

 犬神家の屋敷には地下室があり、その地下室から地下通路に入り、それをずぅっと進むと神秘的な森に出る。

 そこにある真っ赤な神社に、犬神様はいる。

 犬神様が眠っているのだと思ったのは、神社の扉の鍵が閉まったまま、そして封印の札がされていたからだ。

 書物にあった通り、先祖の忍が犬神様のお傍に在ったのは間違いない、と確信した理由は、神社に足を一歩踏み入れた瞬間に、体内に強い稲妻が駆けていった感覚を覚え、脳が痺れ、そして懐かしさを感じたからだ。

 俺様が懐かしんでるんじゃない。

 忍の血が、懐かしんでるんだ。

 そう次男は思う他無かった。

 鍵が本当に体内にあるかどうかは書類から確認出来た。

 レントゲンでもとれば、鍵が映るかもしれないし、犬神様の鍵だから神秘的な何かの力が働いて映らないかもしれない。

 俺様がするべきことは、犬神様の『鍵』を守ること。

 そして、犬神様のお傍にいることだ。


 三男の名は、撃也。

 次男が我が家に来てから、兄さんが増えた!と言って大喜びした。

 そして、次男が虐待といじめの果てに孤児院に放り込まれ、さらにいじめを受けていたことを知って、次男にくっついていた。

 次男の性格をあそこまで明るくさせたのは三男の努力の結晶かもしれない。

 次男が笑うようになったのは、三男と様々な遊びと暗殺についての勉強をしていく過程だった。

 三男は長男も次男も大好きだし、金に目がないのは、実は次男の為にその金で喜ばせられる物を贈るためであった。

 次男が知らない世界を、三男なりに伝えたかった。

 そして、次男との初めての暗殺は次男の冷酷な顔をしたのを見てゾクゾクした後、終わって帰って笑顔になるその二面性が好きだと感じた。

 特に、殺した後の笑顔が、大好きだ。

 三男は犬神家の秘密も、次男の隠し事も何も知らないし、興味も持たない。


 両親は、長男の体内に鍵を入れて、それを隠していた。

 時が来れば長男に明かし、鍵を取り出して次の長男に入れる。

 そうするつもりでいる。

 それが犬神家の代々やってきたことだったのだ。

 次男が犬神家について探りを入れてることも知らない。

 次男の先祖が忍であることは知っているが。

 というのも、次男を孤児院から我が家に迎えた理由はそれだからだ。

 孤児院で、暗殺に向く子は居ないかと探していれば、次男がひょっこり出てきて無愛想な顔で声を潜めてこう言った。

「あんたら、血の匂いがするね。」

 勿論、その血の匂いというのは次男にしかわからない。

 詳しく話を聞けばこう言う。

「同類の血だから、わかるよ。俺様の先祖、忍だし。」

 もうこれは引き取るしかない!と両親は即決。

 次男を引き取って、我が家に迎えた。

 その時やけに荷物が多いと思って聞いたら、次男は鞄を開いた。

「駄目?忍道具。書物。これ、俺様の大事な先祖のもんなんだけど。駄目なの?」

 駄目と言うなら殺す、という殺気を含めた目でそう聞いてくる。

 構わないと答えて安心させた後、自室を与えた。

 次男に大喜びの三男はずっとひっついていた。

 そして、次男にも暗殺を教えていれば、そんなことは知っている、という顔をする時もあれば、教えていないのに知らないのに無自覚でやってのけたりすることもあった。

 才能がある、いや、これは忍の血なのかと両親が喜んで次男に愛情を特に注いだ。


 次男は家族となった皆に好かれ愛されながらも、育った。

 暗殺の時に露になる冷酷な顔は次男は無自覚であるらしい。


 長男がまた暗殺に出かけるというのを見送りながらも、またこっそりと分身を忍ばせておく。

 それから事前に調べあげていた情報を準備し、画面の前に座る。

 そして、長男の到着を待つのだ。

 忍の顔をして。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

犬神家の鍵貸しますⅡ 影宮 @yagami_kagemiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ