ある少女の話

リュウ

ある少女の話

 カタリは、世界中の人々の心を救う究極の物語である『至高の一篇』の持ち主を探していた。

「そんなに簡単に見つかるはずないよな」

 と、カタリの独り言。

 謎のトリから貰った能力<詠目>を発動しても、よく分からなかった。

「何処にいるのだろうか?

 じっとしていても始まらないな。

 探しに行こう。出たとこ勝負だ!」

 カタリは、買ったばかりの自動車のアクセルを踏んだ。

 丸みのある軽自動車で、水色の濃淡のツートンカラーだ。


 海沿いの道路を走る。

 いい天気だ。

 海の風が心地よい。

 やはり、考え込むより動いている方が好きだと、

 カタリは、思っていた。

 その時、スマホが鳴った。バーグさんからだ。

 作家のお手伝いAIのバーグさん。

「どこに、行くんですか?」

「地図、見ましたか?方向オンチのカタリさん」

 その言葉に、カタリがムッとする。

「地図は、鞄の中。車なんでナビですぅ」

「ナビは、行くところが分からないとダメなんですぅ。

 目的地、分かってますか?知っていればですけど!」

「ああ、分からないですぅ。すみませんね。悪かったですぅ」

 カタリのやる気が、見事に無くなってしまいそうだった。

 でも、青い海や空がカタリの気持ちを盛り上げてくれる。

「行けるとこまで行ったら、誰かに会える気がしてさ」

「楽天的ですねぇ。と、言うか計画性が無いというか、無謀というか」

「うるさいなぁ、どうでもいいじゃん。

 見つければ、いいんでしょう。見つければ」

 カタリが、面倒くさそうに答える。

「カタリさん、次の道の駅で、私をお供させてください。

 二人で探してみましょう。私もドライブしたいし」

(ドライブしたいだけじゃねぇ)

「わかった、見つけたら手を振ってね」

 断る理由もないので、バーグさんを乗せることにした。

 道の駅に着くと、手を振るバーグさんを発見。

 なんと、AIのくせに、ソフトクリームを食べていた。

 バーグさんの周りに男がチラホラ、原因は分かっていた。

「なんで、AIがアイス何て食べてるの?そのスカート、短か!」

「今日は、課外学習ってことで。何事も経験です」

「そのアイスも」

「そうです。冷たくて最高です。さぁ出発っ!」

 元気いっぱいの笑顔を答えるバーグさん。

(この笑顔も原因か)

 カタリは、車を出した。

 しばらく、海岸線を移動し、少し運転に疲れた頃、小さな港で休憩することにした。

 その港は、漁船の多い港だった。

 カタリとバークさんは、車を降りて堤防を散歩していた。

 青い海と空に一本の白い堤防。

 疲れも吹っ飛ぶくらい気持ちよかった。

 その堤防に人を見つけた。

 どうやら、絵を描いているようだ。

 バーグさんは、その人を指さした。

「あの人は、どう?」

 カタリは、両目を閉じ、そして、左目を開けてみた。

「どう、見える?」

 と、バーグさんが訊く。

「……うん、ちょっと小さいかな」

「傍に行ってみよう。良く見えないのかも」

 バーグさんは、カタリの手を力強く引っ張った。

 カタリは、帽子が海風で飛ばされないように抑えながら、バーグさんにひかれていった。

 絵を描いていたのは、ショートヘヤーの少女だった。

 白い帽子と白いワンピースは、ボーイッシュな色気を感じさせる娘だった。

「見ていいですか?」

 バーグさんが話しかけた。

 カタリとバーグは、絵を覗き込んだ。

「ええ」

 ちょっと、バグさんとカタリを見て、うなずいた。

 水彩だ。

 青い海、青い空、白い堤防、そして、船。

 今、この時が絵に閉じ込められている。

「す、素晴らしい……」

 カタリが、言葉を漏らす。

 カタリは、絵も文字と同じくらい人の心を動かすことを知っていたからだ。

「上手です。画家さんなんですか?」

 バーグさんが、訊いた。

「まだ、画家ではないです。なれたら、いいですね」

 その人は、恥ずかしそうに答えた。

 その人は、今まで描いた絵を見せたくれた。

 山や森の中や、田舎、もちろん、海も。

「小説も書くのですか?」

 絵の間に挟まったメモを見て、バーグさんが訊いた。

「あっ、恥ずかしい」

 少女は、慌ててメモを取った。

「文章も書いたりします。でも、まだ、人に見せるまで出来なくて」

「凄いです。絵も文も書けるなんて、尊敬します。

 私、貴方の事を応援します!」

 バーグさんが、少女の手を取って握手した。

 その時、カタリは、その少女が少し大きくなった気がした。

 バーグさんは、少女と連絡先を交換して別れた。


 しばらくして、カタリとバーグさんは、街の中で少女を見つけた。

「あの娘だ」

 最初に声を上げたのは、バーグさんだった。

「ああ、あの娘だ、元気そうだ」

 カタリも人混みのなかから少女を見つけた。

「私、あの娘を応援してるの。小説も書いているのよ」

 バーグさんは、自慢げにちょっとアゴをあげながら言った。

「ふーん」

 カタリは、出遅れた感があったので、無関心なフリをした。

 その時、カタリのバッグに付けていた縫いぐるみが、トリの姿で二人の前に現れた。

「カタリ、久しぶりだね。物語は見つかったかな」

「あ、いや、ま、まだです」

 カタリは、トリに何か言われるのではないかと警戒していた。

「バーグさん、明るいあなたを見ると元気が出ます」

 バーグさんは、笑顔でトリを迎えました。

「トリさん、今日は何か?」と、バーグさん。

「カタリとバーグさんに、お話があったのです。

 カタリにお願いしている<世界中の物語を救う>と言う件ですが、 

 最初から完成している『至高の一篇』は、数少ないのです。

 誰かが手助けすることにより、物語は増えるのです。

 例えば、バーグさんとカタリで、ある人を二人で手助けするとか。

 種から植物を育てるようにね」

 バーグさんとカタリが、顔を見詰めあう。

「バーグさんとカタリが、前に会った彼女を見てみなさい」

 トリが、あの少女を指さした。

「カタリ、あの娘を<詠目>で、見ましたか?」

「見ましたが、それはそれは、小さな光でした」

「あれから、バーグさんが、ずーっと応援していました」

「そう、あの子は面白いモノを持っているわ」

 バーグさんが、カタリの顔を見た。

 トリが二人に微笑む。

「バークさん、私の翼に捕まりなさい。いいモノを見せてあげよう」

 バーグさんは、そっとトリの翼を握った。

「あっ、あれは……」

「見えるじゃろ、バーグさん。あなたのおかげだ」

 バーグさんは、トリを見上げてうなずく、トリもコクリとうなずいた。

「カタリもしっかり見てみなさい」

 カタリは、左目の<詠目>を起動させた。

 あの少女の心の中は、卵のような丸い光り輝くモノがいっぱいだった。

「これは、すごい!」

 思わずカタリは、叫んだ。

「カタリ、バーグさん、あれが心の灯だ!」

 カタリとバーグさんは、心に焼き付けるように見つめた。

 そして、あの娘の未来を祝福した。

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ある少女の話 リュウ @ryu_labo

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