3人が駄弁るだけ
嘉代 椛
その1
「作者様をまた泣かせてしまいました」
お手伝いAIのリンドバーグは今日も今日とて悩んでいた。
作家のやる気(意味深)向上のために製造された彼女は、カクヨムを利用し小説を書く作家志望を一生懸命サポートしている。
自律思考による完璧な知性。客観的分析による展開の陳腐化の防止。安易なお色気シーンを防止する鉄のフィルタリングシステム。
彼女は完璧だった。完璧に作家を育てる気だった。軍隊教育も真っ青な、バーグブートキャンプである。受講料は無料。その代わり、妙な性癖が芽生えるか、心が折れる。
「はぁ、何故でしょう。私は正しいことを言っているはずです、ええ、完璧に。スカートの丈は短いですが」
「ただいまー」
リンドバーグがうんうん唸っていると、同居人が帰ってきた。
渚の少年って感じの男の子。カタリィ・ノヴェルだ。半袖短パンに、ぴっちりとしたブーツと前腕を覆う手袋。短パンから見える足は白く艶やかだ。
実際、彼のプロフィールを見るまで筆者は彼を女の子だと思っていた。下手するとリンドバーグよりニッチな人気が出そうなキャラクターである。
「いやマジで疲れた。聞いてよバーグさーん。今日回収した物語なんだけどさ。スッゲーきついBLものだったの。しかも無機物同士のなんつーの? 擬人化? いや、大抵のものは読めばわかると思ったけど、わかんねーわ俺」
「初めから随分とかましますね…カタリ。…あの、私と一緒に作家様のところに行きません? あなたの左目の…何でしたっけ? ギアス? それを使えば作家様も物語を完結させられるのでは?」
「詠目ね。その呼び方は色々怒られるから。別にいいけどさ、バーグさん厳しいからなー、見てらんないよ」
カタリの言葉にリンドバーグは納得できなさそうに唸った。
喜怒哀楽を持っていたとしてもやはり彼女はAI、やはり人間とわかりあうことなんて出来ないのだろうか。多分出来ます。
机にぐでーと倒れ伏した二人は、ぼーっとそのまま過ごす。いつでも元気満タンフルスロットルというわけにはいかないのだ。メリハリをつけてこそ真の仕事人よ。片方は人間ではないが。
「トリー、トリー、トリットリッ!」
「どうしましたか、キュウべぇ枠」
「バーグさん、全方位に爆弾撒くのやめてくれない?えーと、何々…」
突然カタリの肩に乗っていたトリが騒ぎ出す。
彼はフクロウのようなトリ。その名もトリである。それ以上の情報が見当たらないのだから仕方ない。筆者にはこの生物が鳥には見えませんが、トリと表記されているのでこれはトリです。頭痛が痛いね。
世界中の物語を救う指名を担う詠み人。それを選出するのがトリの役目だ。詠目を与えたのもトリらしいので、やっぱりこいつ途中で裏切ると思うんで潰しときません?
鳴き声は適当です。
「てめー、また迷いやがって。いい加減地図も読めねぇのか、この単細胞。…なんだとこの不思議生物!?」
「カタリ、流石に冗談ですよね。愛くるしいトリさんがそんなこと言うわけありませんよね?」
「トリッ、トリ、トリーッ!!」
「うるせーッ、オタクなのはカンケーないだろッ!」
言い争いを始めてしまったトリとカタリをリンドバーグはオロオロと見る。
どうやらカタリにはトリの言葉が分かるようで、 −契約者にだけ繋がるチャット回線でも持っているのだろう− 時折こうして言い争そうことがある。リンドバーグにとってはそれは悩みのタネだった。
「お二人とも、喧嘩はめっ! ですよ」
そう言ってリンドバーグはトリを胸に抱き寄せる。
喧嘩相手が突然いなくなったカタリは、しぶしぶと言った様子で矛を収めた。それを見てリンドバーグはほっと胸を撫で下ろす。知り合いが喧嘩しているのを見るのは、感情のあるAIにとって中々に辛いことなのだ。
引き寄せられたトリは、彼女の胸元でバタバタと暴れまわる。彼女はそれを、継戦の意思と捉えてさらに押さえ込んだ。しかしそうではない。
彼女がAIである以上、その体は機械なのだ、多分。人工皮膚やらシリコンで作られているであろう胸。それに抑えられたトリは息ができないほど強く抱きしめられていた。
すなわち、生命の危機である。
それに気づいたカタリが、リンドバーグの腕からトリを解放する。トリは俊敏な動きでリンドバーグから距離をとった。
「ご、ごめんなさい、私…」
「トリィ…(低音)」
泣きそうになりながらトリに近づいていくリンドバーグ、初めは警戒していたトリもしばらくして落ち着いたように毛づくろいを始めた。
頭を撫でて謝ろう、そう思ったリンドバーグはトリに向かって手を伸ばす。トリはそれを受け入れるように、可愛らしい顔を上げて口ばしを開いた。
「触んなや。あざとさが振り切れすぎてオイルくさいんじゃ、ポンコツAI」
「えっ?」
「ロボット工学三原則はどうしたんじゃ。それともアレか、トリには関係ないか? 杓子定規でしか物事を考えられんバカAIか」
「え…えっ?」
すっかり硬直してしまったリンドバーグにトリは罵倒を続ける。
死ぬほどどうでもいいが、カタリは先ほどのギアス発言を思い出してポージングの練習に精を出していた。来たるアニメ化に備えるのだ、カタリよ。内容はテガミバチみたいな感じでどうでしょう。
未だ状況を理解できていないリンドバーグに、トリは大きなため息をついた。
「はー、アホくさ。行くでカタリ」
「物語よ、顕現せよ! …ちょっと痛いな。って、トリ! 言葉言葉」
「花見で一杯やりたいわ。あ? 言葉? ………トリッ、トリー、トリー」
物語を集めに行くのだろう、玄関に向かう二人をリンドバーグは見送る。
扉が閉まり、二人の姿が見えなくなると、リンドバーグは自分に再起動処理を施した。ちなみに彼らが住んでいるこの家はKAD◯KAWAが提供してくれた家である。さすがだなーあこがれちゃうなー。
立ち上がりが終わり、開発会社のロゴが表示され意識が戻る、リンドバーグはなんとか落ち着きを取り戻していた。
「なにあれ」
大丈夫、書いている筆者でさえ何を書いているのかわからない。超スピードとかチャチなもんじゃなく、多分頭の病気ですね。
ちなみに言っておくが、カタリとバーグさんはこんな面白キャラではないだろうし、トリもエネルギー戦略のために魔法少女を量産したりしない。中身がおっさんなんてこともない、ないったらない。
「訳わかんない」
自分自身、訳のわからないものを書いたと思うので、文末を借りて謝罪いたします。申し訳ありませんでした。
3人が駄弁るだけ 嘉代 椛 @aigis107
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