序章 開戦
第1話 砲撃
それはよく晴れた日のことだった。
私はいつもの様に紅茶を啜りながら、研究の合間の休憩時間を過ごしていた。博士達は書物室で本の整理をしているらしく、今はいない。
どうせ料理本でも探して「これを料理するのです」なぁんて言うんだろうな。
そんなことを考えながらの、一服の時間である。
カップを置き、窓から外を眺めていた。
この島には明瞭な四季もなければ、キョウシュウの時のような環境差もない。
同じヒトの手によって造られたものなのに、何故ここまで差があるのか。こればかりはまだ分からない。
その瞬間。
ズダァァァン!
轟音と共に建物全体に衝撃が走り、大きく揺れた。
何かが建物に当たったような揺れだ。
私はその衝撃で椅子から落ち、カップはひっくり返った。幸いにも、怪我はなかったが。
揺れがおさまり、どうにか立ち上がる。
しかし、その直後、再び建物に衝撃と揺れが走った。先程よりは弱かったが。
「ラッキーさん?何が起こってるか分かる?」
「解析中、解析中……
サンドスター塊ガ施設ニ直撃シタミタイダヨ。外壁ニ損傷ヲ確認。倒壊ノ危険ハ無イヨ」
こうなると、1つの懸念がある。
「もしかして、噴火?」
「検索中、検索中……
火山周辺の観測施設ヨリ、データ取得。現在噴火情報ハナイヨ」
もしかしたら海底火山かも知れない。
とにかく、だ。
こうして話している間も、ひっきりなしに衝撃と揺れが来る。
そして、別の部屋から何かが割れる音や倒れる音が聞こえる。
更には、建物は丈夫と言えど、これだけの揺れに耐えられるかはわからない。
手はある。
「ラッキーさん、対サンドスター特殊
「……暫定パークガイドノ権限ヲ行使、シールドノ展開ヲ承認……
小四神トノ接続ヲ開始……」
その昔、パークにヒトがいた頃は、火山の噴火から身を守るために、特殊な結界がパークの各施設に備えられていたという。
四方に小型の結界装置、通称『小四神』で囲み、半球状の壁を作るのだそうだ。
「エネルギー注入、100パーセント……
シールドヲ展開……」
私はただ、先人の遺したものを使いまわしてるに過ぎない。結局の所、私は何もできない。
「シールド展開完了」
「ラッキーさん、外の様子は?」
「シールドニヨリ、飛来物ノホボ全テヲ防御デキテイルミタイダヨ」
ひとまず胸を撫で下ろすも、
あまり良い状況でないのは変わりない。
そこに、博士たち2人が駆けて、いや、飛んできた。
「何なのですか⁉︎今のは?」
「生き埋めになるところだったのです」
……2人曰く、書物室で揺れに見舞われ、本棚が倒れてきたのだそうだ。
「とりあえず、無事でよかった……
それで、これから外の様子を見に行きたいと思うんだけど……」
「我々に、付いて来いと言うのですね」
「うん……」
「かばんは怖がりなのです」
「昔と、何も変わってないのですね」
……そうかもしれない。
口は悪いながらも、付いてきてくれるようで安心した。
……………………………………………
外はまだ散らばったサンドスターがキラキラと輝いていた。
ちょうど私が生まれたサバンナのようで……
「噴火してる火山は見えないのですよ」
先程から少し高く飛びながら周りを見渡していた博士が言った。
「噴火じゃない、ってこと?」
状況がつかめない。
もっとも、理解出来ないことなんて溢れるほどあるけど。
その時。
同じく上空にいた助手が、
何かを指差しながら、
「あれは、何なのでしょうか……」
と、呆然としたような口調で言う。
地面にいる私は飛べないのでそちらの方向が見えないが、その様子からして、よっぽどのものを見たのだろう。
博士もそちらの方向に目を凝らす。
「あれは……まさか……」
「ついに来てしまったのですね……この日が」
「何があるんですかー!?さっきからそんな深刻な雰囲気ですけどー!」
全く状況が読めず、上空の2人に大声で尋ねる。
「船なのです。湾に、船が入っていてるのですよ」
上から、返事が返ってくる。しかし、2人は未だに唖然とした様子で、こちらを振り向きもせず、湾の方を見つめている。
「船の形からして、恐らく……」
やっと、状況を掴んだ。
「その船の上に、砲台はある?」
「……はい。たしかにあの『たいほう』とやらで間違いないのです」
「数は?」
当たりは付いているが。
「五隻、なのです」
私が残した船を全て動員してきたのか。皆らしい、と思いつつも、それでも。
「ラッキーさん、不法侵入の緊急対応措置として、防衛戦の許可を」
「……ワカッタヨ……」
いつになくか細い声で言う。
「カバン、覚悟ハ出来テルンダネ?」
と続ける。おそらく、彼のマニュアルにそんな台詞はないだろうに。
「ラッキーさん、私はもう、あの頃に戻ることは出来ないし、その資格もない。ただ、今自分にできることをしたい、その気持ちだけは変わってないから——きっと、いつまでも」
こうして、私たちの戦いが始まった。
想い出は星へと還る 川崎 裕 @yu-kawasaki
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