想い出は星へと還る

川崎 裕

第0話

少し、例え話をしてみよう。


三人の少女がいる。



1人目は、過去の記憶を殆ど失った少女だ。彼女は帰るべき「家」の記憶に苛まれ、此処じゃない、其処でもないと探し回っていた。


最後に彼女は帰るべき場所を見つける。しかしそれは朧げな彼女の記憶とは違うものだった。


それでも彼女は、これで良いんだ、と言った。決して妥協などではなく、それが彼女の本音だった。




2人目の少女も、同じく記憶を失っていた。彼女は「大切な人」を忘却してしまった。


一瞬神の悪戯か、その記憶を取り返したかに見えたが、それすらも曖昧で不確かなものだった。


今彼女は、過去を振り返る余裕も無いほどに、満ち足りた時間を過ごしている。




そして3人目。彼女は「大切な人」を喪った。彼女は誰よりも「記憶」に苦しめられた。


彼女はそれでも、絶望はしなかった。


居なくなったその人の分まで、生きて、生き抜いて、自分にできることをするんだ、と決意を立てた。


自分の様な悲しみを、二度と繰り返さない様にと。


彼女は今、過去をバネにして、明日を、未来を見つめている。




この3人は、いずれも過去の記憶を否定した訳ではない。寧ろ、過去を受け止めて、今を生きている。


そして、彼女らの瞳は過去ではなく、明日を、そして未来を映している。


これは決して未来主義ではない。


過去に縛られて生きている者も、同じくらい、もしかしたらそれ以上にいるのだ。


そしてその2つの価値観は、時にせめぎ合い、時に調和する。




奇跡によって生まれ、そして緩やかに滅びゆく箱庭パークの中に生きる者たち。


その物語は、過去、現在、そして未来と、時を超えて紡がれてゆく。

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