爆弾処理にまつわる先達の創作物が無いかと探している時に、この物語に出会った。
一章目を読み始め、学生物でお仕事物かとアタリをつけ、主人公は少女であるということに驚きを禁じ得ず、練り込まれた設定に舌鼓を打っているうちに、ずんずんと物語に引き込まれていった。
特筆すべきは、この物語の主導権は『爆弾』でなく『人間』が握っているということだ。その点に私は人間ドラマとしてのこの物語の作劇の旨さを感じた。
題名にもある通り物語の核と言える『爆弾の解体』は、物語をドライブさせる主題として軸に据えつつも、そのディテールを不必要なまでに掘り下げることはしていない。
これは軍事色と縁の切っても切れない題材を扱う上で、英断だったと考える。私なら迷いなく軍事的アプローチを試みていたに違いなく、もし今作がそういう作風であったなら、この物語を選び取る読者もまた異なる者であったに違いない。
今作のキモはあくまで『爆発物解体処理業』という『職業』、またそれにまつわる『学校』や『軍人』といった利害関係者や、それらの『家族』(月並みの言い方をすれば銃後の何とやら)といった人間……そう、あくまで『人間』ベースに話をドリブンさせている。
かといって、重要な場面において『爆弾』の描写が疎かになることはない。軍隊の動きや、爆破処理に関わる役所仕事的な描写の細かさは、本職の現場の空気管を思わせる生々しさ、リアルさ、手に汗握る緊張感を眼前に突きつけられた。
同時に物語の力点として重要なのは、爆発物を解体する『仕事』が、本人以外の『人間』たちにどのような影響を及ぼすか、ということだ。この物語には作劇の都合で動かされる『人形』ではない、血の通った『人間』が息づいている、私はそう感じた。
また本作の時間の扱い方はややもすると淡白だが、私はそれを敢えて『潔い』と表現したい。バッサバッサと余白を切り捨て、振り返る間も無かった忙しい日々を表現する旨さに舌を巻いた。
この物語のドラマ的描写の全てが、私好みかと言えば全くそうではないが、些細な文句はそっと胸にしまい、私はこの物語を推薦したい。
『爆弾』という扱い方の難しい題材を、『家族』や『恋』といった一般人でも取っつき易い方法則によって解き明かし、一つの血の通った物語に仕上げて世に叩きつけたことは、一つの発明なのではないかと表明したい。
一夜に読み明かした興奮で、長文乱文になってしまったことを深くお詫びしたい。ほんの探求心と興味心から、凄い物を読んでしまったと興奮は冷めやらないし、こういった物語を私が書くことが出来ないことが心から口惜しいと思う。
そこには確かなリアルと、何より血の通った『人間』が息づいている。半分まで読んだ時に確信し、最後まで読み通した後でもその考えに揺るぎはない。
彼女たちの足跡はこれから先も続く。それらの一部は誰かが目にするかもしれないし、誰も目にしないかもしれない。それでも彼女たちは生き続けるだろう。人間誰しも、生きていれば秘密の一つや二つあるものなのだから。
我々はおいそれと他者に口外できない秘密を抱え、口を閉ざして生き続け、ある秘密はひょんなことから誰かに打ち明けたり、秘密を黙して墓まで持って行ったりするだろう。それでもどうか生きることを絶望などせぬように。
作者の人間描写の特筆すべき旨さを心から称賛し、このレビューを終える。
2021年2月22日 素浪汰 狩人 slaughtercult